母と双子
高校を卒業してから数年後、私は高円寺のお嫁さんになった。
しかし結婚するまでも高円寺は会うととても甘かったのだが、結婚してからの生活はそれまで以上に激甘の日々を過ごす事になったのだ。
まるで今まで会えなかった時の時間を埋めるように、私が何処かに行くにもいつも一緒に付いてきて、さらに新築で建てた新居ではべったりと私にくっついて離れてくれなかった。
だから夜の営みも・・・。
まあそんなこんなで、私達夫婦の間に子供が出来るのも早かったのである。
そうしてそれから数年が経ったある日の午後、私がリビングのソファで寛いでいると、そこに私の二人の子供達が手を繋ぎながらニコニコと笑顔でやって来たのだ。
その二人は、とても綺麗な面立ちをした今年8歳になったばかりの双子兄妹である。
「あら?二人共その格好はどうしたの?」
私はそう言って、その二人の姿を不思議そうに見た。
何故ならその二人は、パーティー用の男の子の礼服とドレスを其々着ていたのだ。
しかし今日はそんな予定は無かったはずなので、どうしたのだろうと不思議に思っていた。
すると二人は、お互いを見合いニコッと笑い合うとすぐに私の方に向き直る。
「「ママ、この格好どうかな?」」
「え?ええ、凄く良く似合ってて可愛いわよ?」
そう私が言いと、二人はもう一度お互いを見合いクスクスと笑い合ったのだ。
私はその二人の様子にピンときて、私もクスッと笑いながらまず礼服を着た我が子に視線を向ける。
「本当に良く似合っているわよ?・・・怜奈のその男の子の格好」
「え?」
「それに、海里のドレス姿もね」
「え?」
一人づつ顔を見ながら私がそう言うと、二人は驚いた表情で固まってしまった。
そして二人は何度か目を瞬くと、ドレスを着た海里が恐る恐る口を開いてきたのだ。
「マ、ママ・・・どうして、僕達が入れ替わっているの分かったの?」
「ふふ、だって私はあなた達の母親ですもの」
私はそう言って、まだ驚いた表情をしている二人を見てクスクスと笑った。
そうこの二人は、お互いの衣装を取り替え元々同じ長さの髪も髪型をそれっぽく整えていたのだ。
「え~!!何で!?だって僕達の事、お手伝いさんは誰も気が付かなかったよ?」
「それに執事のじいやも、私達の事気が付かなかったんだよ?」
そう海里と怜奈は口々に言い、私の答えに全く信じられないと言った表情だった。
まあ確かに、普段からそっくりな二人だからね。その二人がお互いの衣装を取り替えて現れても、普通は気がつかないはずだよね。
私はそう心の中で思いながらも、まだ不満そうな顔で私を見てくる二人にニッコリと微笑んだのだ。
「だって・・・私が産んだ、愛しい子達を間違える訳無いでしょ?」
「「っ!!」」
二人は私の微笑みを見て顔をほんのり染めながらも、私の言った言葉が嬉しかったのか口の端が上がっていったのだった。
「ふふ、それにしても懐かしいわね。私も響とよく小さい時に、衣装の取り替えをして屋敷の皆を驚かせていたのよ?」
「響叔父さんと?」
「ええそうよ。海里と同じぐらいの時に、一番よくやってたけど・・・あの時が一番手の込んだ見た目にしてたわね」
「そうなの?」
「二人共全く同じ髪型にして、口調と仕草をお互いに研究してから実行してたのよ」
「・・・それで、誰にもバレなかったの?」
「う~ん、それでも残念ながら全員は無理だったわね。やっぱり気が付く人はいたわよ」
「そうなんだ・・・」
私の言葉に海里は見るからにガックリと肩を落とし、そんな海里を怜奈が心配そうな表情で見ていたのだ。
「そんなに落ち込まないの。だったらこれからもっと頑張って、私にも分からないように努力してみたら?」
そう私が言うと二人はお互いを見て、真剣な表情で頷き合った。
「「うん!頑張る!!」」
「あ、でもそれは外やお客様が来た時は絶対やらないようにね!」
「「うん!分かった!」」
「それなら良いわよ、頑張ってね。あ、そうだ。パパにも見せてみたら?今日はパパは用事で出掛けているから、夕飯の後にしか帰って来ないけど、パパがどんな反応するか確かめてみようか?」
「「うん!!」」
二人はそう元気よく返事をすると、高円寺・・・私も高円寺になったので雅哉を三人で待つ事にしたのだ。
そうして私と子供達で夕飯を済ませた少し後に雅哉は帰宅し、私達のいるリビングにやって来た。
「ただいま」
「雅哉さん、お帰りなさい」
「「パパ!お帰り!!」」
雅哉が笑顔で私達に帰宅の挨拶をすると、ソファに並んで座っていた私達三人もソファから立ち上り、雅哉に笑顔で挨拶をする。
そして海里と怜奈は、再び手を繋いで笑顔で雅哉の下まで駆けていったのだ。
「・・・二人共どうしたんだ?今日はこれからパーティーがあるのか?それとも行ってきた後?」
雅哉は二人の格好を見て、不思議そうに首を傾げていた。
しかし二人はそんな雅哉の質問に答えず、ニコニコと笑いながらじっと雅哉の顔を見つめる。
「本当に二人共どうしたんだ?それに・・・怜奈はまるで昔のママみたいに男の子の格好をしているし・・・まあ、二人共良く似合ってて可愛いけどさ」
「「っ!!」」
その雅哉の言葉に、海里と怜奈は目を見開いてお互いを見合い、そして二人してガックリと肩を落としてしまったのだ。
そんな二人の様子に、全く意味が分からないと言った表情で雅哉は戸惑っているようだった。
そして私はその三人の様子に、多分そんな事になるだろうと予想していたので、私はクスクスと手で口元を隠しながら笑っていたのだ。
するとそんな私を、雅哉が胡乱げな目で見てきた。
「・・・詩音」
「ふふごめんなさい。その子達が、お互い衣装を替え合って入れ替わった事を、雅哉さんが気が付くか確かめたかったのよ」
「・・・そうだったのか」
「・・・何でパパも分かったの?」
「パパも?と言う事は、ママにも気が付かれたって事か?」
「うん・・・」
海里は頷きながらも、頬を膨らませて不満そうな顔をする。
その横で立っている怜奈も、海里と同じように頬を膨らませていたのだった。
そんな二人を見て、雅哉はとても困ったような表情になる。
「すまない二人共。・・・ただ、愛する私の子供達を見間違える事は無いからさ」
そう言って雅哉は、その両腕に海里と怜奈を抱き上げ二人の頬に其々キスをした。
するとその雅哉の行動に、二人はみるみる頬を緩ませとても嬉しそうな顔になったのだ。
そしてお返しにと、雅哉の両頬に二人が同時にキスをしてあげた。
それを雅哉は、とても幸せそうな表情で受け入れていたのだ。
そんな光景を見ながら私は微笑み、とても幸せな気分を味わっていた。
「よし怜奈、部屋に戻ってパパとママにバレないような作戦を立てよう!」
「うん!!」
海里が真剣な表情で言い怜奈も同じく真剣な表情で頷くと、すぐに雅哉に頼んで下ろして貰い、そして二人で手を繋いでリビングから出ていったのである。
そんな二人を、私と雅哉は微笑ましく見送っていたのだ。
そうして二人がリビングからいなくなると、雅哉は私に近付いてきた。
「詩音・・・」
「黙っていてごめんなさい。でもあの子達も楽しみに・・・」
「いや、その事はもう良いんだ。それよりも・・・詩音からも私に欲しいな」
「え?何を?」
「君からのキス」
「っ!!」
「ああ、両頬はもうして貰ったから・・・君には口にして欲しいな」
雅哉はそう言い、ニッコリと微笑んできたのだ。
私はその雅哉の申し出に、顔を熱くして硬直する。
一応結婚してから数年経ってはいるが、私から雅哉にキスした事は本当に数える程しかしていないのだ。
やはりこればかりはどうしても恥ずかしく、なかなか出来ないのである。
「詩音・・・」
「っ!!」
雅哉は私の反応を楽しそうに見ながらも、私がキスしやすいように顔を近付けそして私の唇まであと数センチの所で止めたのだ。
っ!!そんな事するなら、そのまま雅哉さんからキスしてよ!!
そう心の中で叫びながらも、全くその距離から近付こうとしない雅哉の綺麗な顔を動悸を激しくしながら見つめた。
そしてじっと私の目を見つめてくる雅哉に、私は意を決してその雅哉の薄く整った唇に私のそれを押し当てたのだ。
「・・・こ、これで良いよね?」
私はすぐに唇を離し、さらに先程よりも熱くなった自分の頬を感じながら俯く。
しかしすぐに雅哉が私の顎を掴んで上を向かせ、じっと私の顔を見つめてきたのだが、その眼差しはとても熱っぽかったのだ。
「ま、雅哉さん!?」
「・・・足りない」
「えっ?・・・んん!!」
雅哉はボソッと呟くと、すぐに私の唇を自分の唇で塞いできた。
しかし私が先程した触れるようなキスとは違い、貪るように激しく深いキスをしてきたのだ。
「んん!!」
その激しいキスに、さすがに苦しくなってきた私は雅哉の胸を押しやろうとしたが、いつのまにか回っていた私の頭の後ろと腰に添えられた雅哉の腕によって、ガッチリと抱きしめられてしまった。
そうして私の抵抗虚しく、その雅哉の激しいキスに翻弄され続けたのである。
そして暫くしてから、漸く雅哉が私の唇を解放してくれたのだが、体に回された腕は離してくれず密着状態が続いていた。
しかし私の方も激しいキスの影響でぐったりとしていた為、そのまま雅哉の胸に体を預けていたのだ。
「詩音・・・このまま寝室に行こうか」
「・・・え?」
「確か麗香と響の間に、もうすぐ子供が生まれるし・・・その子と近い子がいると良いと思うんだ」
「そ、それは・・・」
「だから・・・寝室に行こうね」
「っ!ま、待って雅哉さん!!まだ子供達が起きて・・・」
「子供達の部屋は私達の寝室から離れているし、私達の寝室に鍵を掛けておけば大丈夫だよ」
「そ、そう言う問題では!!」
そう私が抵抗しているのだが雅哉はそんな事気にせず、動こうとしない私を横抱きに抱え上げた。
そして全く躊躇も無い足取りで、リビングの外に向かって歩き出してしまったのだ。
「ま、雅哉さん!せめて子供が寝てから!!」
「駄目。それまで私が待てないから」
雅哉はそう言って私の唇に軽くキスを落とすと、ニッコリと私に笑い掛けてからリビングから出てしまった。
そしてその途中、雅哉は執事に暫く私達の寝室に誰も近付かせないよう指示を出してから、私は寝室に連れ込まれてしまったのだ。
そうして結局、次の日の朝食の時間まで解放して貰えなかった私は、ぐったりとした表情でダイニングに顔を出すと、そんな私の様子に驚いた子供達が心配そうに近付いてきたので、私はその子供達に空笑いの笑顔を見せていたのだった。