12 特別なクロ
俺にも同じように引っ越して行った幼馴染みがいた。
あの時、あの子は笑っていた。あの子の母親も笑っていた。
「絶対、また会えるから」
どこに行くのかわからないと言っていたのに。それでも、あの子は「また会える」と言った。
子供特有の「絶対」ではなく、確実に起こることだとわかっているようだった。
誰もあの子の引っ越し先は知らなかった。
あの子の母親の笑顔は、嫌な感じがした。
「ヒイロ?」
「……俺はどうなんだろうな。俺も連れて行かれるのか」
「クロは百人に一人はいるらしいから、全員連れて行かれるわけじゃないだろう。というか、お前は今まで自分がクロだって知らなかったのか?」
「ああ。こんな性格だから、この火傷以降は何もなかったし」
宮野は納得したように頷いた。
宮野とは高校からの付き合いだけど、俺の性格はある程度わかっているみたいだ。感情的になることはない。ノリが悪いわけじゃないけど、一歩引いている。自分からは行動しない。誰とでも話すけど、友達は少ない。宮野も俺と似ているところがあるから気が合っていた。
「クロについて調べようか?」
「いや、今まで問題なかったから調べなくてもいい。クロだと思って生活するつもりはないし」
「そう。じゃ、集会のことはこれで終了ということで」
宮野は絞った雑巾を勢いよく横に広げた。パンッという音は、気持ちを切り替えるのに丁度良かった。
宮野を巻き込むわけにはいかない。俺がクロだということで、これ以上誰かに迷惑をかけたくない。
俺が犠牲になれば良いなら、早く言ってくれればいいのに。早く連れて行ってくれたら良いのに。
その時に、誰かを傷付けなければいい。両親には悪いけど、自分がクロだと知った時から決めていたことだ。
「自分がクロだって知りたくなかった?」
「知らないで済んだなら。今まで自分が普通じゃないって知らないままだったからな」
「お前は普通だよ。百人に一人は、全然特別なんかじゃない」
確かに確率としては低くはない。力を使ったら発した熱量を体に受けるから、力を使おうとは思わない。だから、クロは基本的には無害だ。俺みたいに大火傷を覚悟で力を使う奴なんて滅多にいないだろう。もしかしたら、人体発火の正体はクロなのかもしれない。真木がいなかったら俺もそうなっていたわけだけど。
クロも連れて行かれる場合がある。つまりは、クロの中にもシロのような『特別』がいるんだ。




