48 生前の真実②
藍方星。
露見の泉。
ヒミコン、
引き続き、水中を覗き見る。
雛子とマコ、
姉妹の成長過程を辿る。
雛子、小学生。
教科書、紅白帽、上履き、文房具、
たびたび紛失する。
宿題ノート、
課題のプリント、
あれ? またなくなっている?
確かにランドセルに入れたはずなのに……。
それだけではない。
お気に入りの洋服……、
宝物のぬいぐるみ……、
知らぬ間にどこかに消えていた。
そうしてヒミコン、
ようやく真実を目撃する。
(二十数年越し!)
犯人はマコだった。
ごそごそごそ、
雛子のランドセルを漁る。
ノート、プリントを引っ張り出す。
ビリビリッ、破り捨てる。
ときには、
教科書を取り出す。
庭の隅に穴を掘って埋めた。
上履き、紅白帽……、
洋服、ぬいぐるみ……、
ハサミで乱雑に切り裂く。
ゴミ袋に詰め込む。
物置小屋の一番奥、こっそり隠し置いた。
しかし真相は闇だ。
雛子は叱責される。
だらしない!
母親、ヒステリックに怒り狂う。
しっかりしろ!
父親、罵って殴った。
妹・マコ……、悪質だ。
傲慢卑劣な裏の顔を隠している。
まずはターゲットを定める。
親し気に擦り寄る。
過剰に愛嬌を振りまく。
相手の懐に入り込む。
そうして狡猾に利用する。
まずは、
上目遣いに見つめる。
うるうるっ、
瞳を潤ませる。
そうして、
攪乱嘘を吹聴する。
「マコはねぇ……、
お姉ちゃんのことが大好きなの。
だけどね……?
お姉ちゃんはマコが嫌いみたいなの……。
いつもマコを叩くの……、
いっぱい意地悪するの……、
どうして嫌われちゃったのかなあ……?
悲しいなぁ。
だけどマコはお姉ちゃんが大好きっ!
だから平気! 我慢できるっ」
あざとく同情心を煽る。
信憑性のない嘘を駆使する。
周囲はマコに味方する。
優しく励ます。
にっこり、
マコは笑顔を振りまく。
「大丈夫! マコが我慢すればいいの!
だからお願い……、
お姉ちゃんを嫌いにならないで?
マコはお姉ちゃんが大好きっ!
だから平気!
痛いのも我慢できる!
お姉ちゃんと仲良くしたいの……」
健気でいじらしい妹を演じる。
結果として。
両親、祖父母、近所の人たち、
マコの言葉を鵜呑みにした。
そうして手厚く庇護された。
信憑性に欠ける大噓……、
拡散されてゆく。
学校の先生、クラスメイト、誰も彼も、
雛子を目の敵にし始めた。
ひそひそ、
陰口をたたく。
後ろ指をさす。
笑いものにする。
意地悪女のレッテル、貼り付けられた。
雛子を取り巻く環境……、最悪だ。
慰め、配慮、癒しはない。
家庭にも学校にも居場所はない。
雛子は、孤立した。
さらに残念なことに……、
マコの陰湿攻撃、周囲にも蔓延していた。
マコのクラスメイト、塾の友だち、
ダンス教室の仲間たち……、
その毒牙は至る所に及んでいた。
マコは成長と共に姑息さを増す。
周囲を巻き込む。
密やかに嫌がらせ、陰口、虚言を繰り返す。
間接的攻撃を扇動する。
ギスギスギス……、歪みが生じる。
円満であったはずの人間関係、尖る。
揺らいで波立つ。
亀裂が生じる。
そうして壊れてゆく……。
ヒミコン、
マコの思考回路を透視する。
……私はいつだって一番が良いの!
一番でなきゃダメなの!
私よりも可愛くて優秀? そんな人間いらない。
私より人気者? そんな女、死ねばいい。
だから邪魔者は排除する。
私は世界一可愛いの。
だから何をしても許されるの。
うふふっ、
みんなチョロい。
みんな私の言いなり!
もっと褒めて?
もっと特別扱いして……!
……異常だ。吐き気がする。
チヤホヤされる日常にご満悦だ。
悪びれる様子、一切ない……。
マコは他人の平穏を壊したがる。
他人の所有物を欲しがる。
権威、金銭、情欲に異常執着している。
マコは人の不幸を餌にしている。
人の苦しむ姿に幸せを感じている。
人が失墜して砕け散るのを楽しんでいる。
マコは自分が『特別』であると勘違いしている。
最上だと思い込んでいる。
バイアスが狂っている!
……嗚呼っ!
マコは悪しき『化け物』だ。
憎き敵人、マニピュレーターだ。
ヒミコン、
今まで知らなかった真実を知った……。




