14 魔導師四人衆の宝
藍方星。
全身、黒色の装いの魔導師。
全身、白色の装いの魔導師。
ふたりは怒り心頭だ。
ザザッ……!
威圧的に立ち上がる。
高い位置からヒミコンを見下ろす。
感情を宿さない侮蔑した瞳。
尋常ではない空気が漂う。
ゴクリ……、
思わず息を呑む。
それは類稀なる超絶美男子だ。
ピコンピコンピコン……、
脳内に警報音が鳴り響く。
危険人物であること、瞬時に察知した。
ブルルッ、
ヒミコンは寒気だつ。
この死んだ身が。
再び死ぬかような危険を感じる。
恐らくたぶん。
瞬殺の危機を迎えている。
……あわわわっ、
このふたり、マジでヤバい……。
真っ黒な服装の魔導師。
それはゴツい大男だ。
身長は二メートルをゆうに超えているだろう。
強いくせ毛の髪、後ろでひとつにまとめている。
ゴシック調の黒いシャツにレザーパンツ。
レザーロングコートを羽織っている。
黒いレースアップのハイカットブーツ、いかつい。
彫りの深い整ったオリエンタルな顔立ち。
スタイルはミケランジェロの彫刻のようだ。
それにしても。
威圧感が半端ない。
どす黒いオーラを纏っている。
氷のような瞳は鋭くて悪魔的だ。
眼光だけで人を殺めてしまいそうだ。
戦慄美を有した魔導師だ。
「俺の名はクロス。
大馬鹿者のヒミコン?
よく聞けよォ?
俺たちの宝を軽んじたらァ……、
粉々にして宇宙ゴミにしてやるからなァ?」
そしてもうひとり。
真っ白な服装の魔導師。
身体からは白金色の光が放たれている。
スラリとした長身。
洗練された完璧な容姿。
外国人の血が混ざっているのだろうか?
瞳も髪も伽羅色、色素が薄い。
肩下まである柔らかそうな髪。
さらさら、風に靡いている。
ゴシック調の白いレースシャツにコーデュロイパンツ。
ドレープロングコートを羽織っている。
レースアップの白いロングブーツ。
ロイヤル感が漂っている。
それはそれはエクセレント!
恐らく世界一?
よもや宇宙一?
キラッキラのウルトラ美形魔導師だ。
「俺の名はイレーズ。
どこの国の出身でも……、
あんたには関係ないけどさ?
俺たちの宝を軽んじたらさ?
木っ端微塵にして……、
ああ、面倒くさいな。
クロスと同意見」
ゾゾゾッ……、
背筋が凍る。
このふたり……。
煌めくような麗しさの対極に。
どれほどの残虐性を秘めているのだろうか?
クロスは肩をすぼめる。
不機嫌に言い放つ。
「シップ、ゲイル。
このウゼェ間抜け女に……、
任務の重さ、説明してやれヨ」
イレーズは眉間にしわを寄せる。
嫌悪感を露わにする。
「ああ、いやだ。
こいつ、嫌い。
シップ、ゲイル……、何とかして」
シップとゲイル。
ふたりは顔を見合わせる。
小さくため息を漏らす。
そして渋々、立ち上がった。
まずはシップが口を開いた。
「ヒミコンよ……、
よく聞きなさい。
我ら魔導師四人衆には共通の『宝』がある。
それは唯一無二なる人物である。
我らはその宝のためであれば何をも厭わない。
すべてを捧げ、すべてを犠牲にできる。
しかし宝をこよなく愛するあまり……。
制御抑制がきかない可能性がある。
それゆえ、危険ともいえるのだ」
ゲイルが続ける。
「我らは宝を大切に想っている。
それはまさに……。
甚深極限に想い慕っている。
できることなら! 我こそが!
宝の専属シャーマンになりたいと願った。
しかしそれは。
魔導師四人衆、同意見だった……」
シップは続ける。
「我らは揉めに揉めた。
しかし決着は難しかった。
それならば仕方ない。
専属として第三者を据えればいい。
我ら四人衆は宝を共有して平等の立ち位置を保持しよう。
そうすれば。
客観的思考を維持して冷静さが保てるはずだ」
ゲイルが続ける。
「そんな中に……。
たまたま……?
ヒミコンに白羽の矢が立ったということだ。
この使命は尊く重い。
実に恐悦至極なる任務なのだ」
シップとゲイルの解説が終わった。
うんうん、
ヒミコンは頷く。
しみじみ、得心する。
「なるほどなるほどっ!
合点ですっ」
……ふむふむ、そういうことですね!
要するに。
四人衆は同じ人物に恋をしているってことですね?
愛する人を独り占めさせてなるものか!
って……。
宝なる人物の奪い合いをしていたのですね?
そして苦肉の策として。
その愛しい宝、共有することにしたのですね!
……ふむふむ、しかしながら。
この眉目秀麗なる四人衆。
魔導師全員を骨抜きメロメロの虜にするなんて……。
その宝なる人物、只者ではないですね!
きっとおそらく絶世の!
パーフェクトエレガント美女に違いないですね!
是非とも私も!
眼福の癒しに触れてみたいものです!
四人衆はヒミコンの心を読心透視する。
呆れて嘲笑する。
やむなく……。
ゲイルが説明する。
「私たちが護りたい宝の名は『トレジャン』。
男性である。
英語で『Treasure』。
それゆえ、トレジャンだ」
シップが軽く付け加える。
「我らの宝であるトレジャン。
彼は現在。
人間界の一般家庭に暮らしている。
此岸の未來のためにな……」
ニヤリ、
クロスは口角を上げる
「まあ確かに……?
俺たちはトレジャンに骨抜きのメロメロだヨ!
それは否定しないけど、なァ?」
同感……、とばかりに。
イレーズは頷いた。
クロスは顎をしゃくる。
ヒミコンを手招きする。
小さい泉を指差した。
「ほら、来いヨ!
この泉の中……、
覗いて見ろヨ!」




