13 ラピスラズリの星
兜率外天院。
藍方星。
辺り一面、蒼色だ。
見渡す限り、青金石だ。
雛子は跪く。
ラピスラズリの固い地面にひれ伏している。
……ああ、私。
本当に死んだんだ!
じゃあここは……、
藍方星?
こっそり、
顔を上げる。
ちらり、
様子をうかがう。
目の前には。
ひとり掛けのアームチェアが並ぶ。
豪華な椅子に腰掛けるのは四人の男性だ。
彼らは長い脚を組む。
不機嫌顔で踏ん反り返っている。
感情を宿さない冷めた瞳だ。
見知らぬ間抜け女を見下ろしている。
忌々し気に睨みつける。
まるで汚物を見るかのような眼差しだ。
雛子は怯える。
明らかなる脅威に晒されている。
ゾゾッ……、
悪寒が走った。
……ヤバッ!
凍傷を起こしそうなほど冷淡な空気だ。
邪険な視線、全身に突き刺さる。
凄まじい嫌悪感!
厭忌した敵意!
ひしひしと感じる。
身体は委縮する。
しかし脳内は現実逃避する。
得意の妄想に耽り始めた。
……それにしても。
完璧な造形美を有した男たちだ。
この世のものとは思えぬほど見目麗しい。
わあ、なるほど!
顔が整い過ぎると蝋人形みたいに見えるのね。
二十代後半くらい……、かな?
服装はそれぞれ個性的……、自由なのかしら?
スポーツ万能で力も強そう。
鋭敏で頭も良さそう。
きっと恐らく偉そうな人たち?
だけどまあ間違いなく!
冷酷非道、ヤバめな人たちだ。
うーん……?
もしやここって?
天上界っていうより地獄の入り口かも?
閻魔さまに裁かれている死者の情景っぽい!
超絶美形の閻魔が四人……。
ぷぷっ……!
非現実的過ぎて笑える。
あっ!
ゲイル様、発見っ!
……ってことは、つまり。
この人たちが魔導師四人衆……?
ゲイルが口を開く。
「私の名を覚えていたようだな?
そうだ、ゲイルだ。
そしてここは地獄の入り口ではない。
藍方星である。
残念だが。
閻魔やハデスはここにはいない。
そして我らは蝋人形ではない。
未來王の四大弟子である」
雛子はハタと気づく。
……ひょええっ!
心の中、読心透視されている!
ゲイルの隣に座るのは和装姿の男性だ。
静やかに言葉を発す。
「この度はミッションクリアーおめでとう。
私の名はシップである。
齢は……。
それぞれの個体能力値が最大値の年齢に固定されている。
それゆえ。
三十歳前後となっている」
魔導師・シップ。
優艶な大人の色香が漂っている。
黒目がちの大きな瞳。
手には畳まれた扇子が握られている。
髪は後ろでひとつ、緩く束ねられている。
足元は雪駄や草履ではない。
厚底のハーフブーツを履いている。
風貌は典雅流麗。
知的で雅やかだ。
つまりは極上の美男子だ。
この四人の中では一番温厚そうだ。
シップは続ける。
「ああ、そうだ。
服装は自由である。
私は結城紬の着物を好んで着用している。
それに当然。
頭脳明晰、完全無欠である。
私たちの階級は最上位の『極等級』である。
つまり。
偉そうな人、ではない。
ものすごーく、偉いのだよ」
それは穏やかな口調だった。
しかしながら。
妄想の声に的確に返答した。
雛子は気もそぞろだ。
……うわあ!
雑多な念まで読心透視されている。
何なの? この人たち。
ああそうか、魔導師か。
どうしよう……。
なんだか怖いっ!
さらり、
ゲイルは言い放つ。
「お前……、頭は平気か?
魔導師を目指しているのだろう?
読心透視されて怖いなどとは呆れるな。
ここではすべてが見透かされている。
天上界……、
ましては藍方星での修行は甘くないぞ。
しかし心配無用だ。
無能の役立たずは即座にお払い箱だ。
資質が足りなければ蹴り落とすまで!
ここ藍方星には。
妥協や温情という甘きものは存在しない」
雛子の背筋は凍りつく。
なかなか恐ろしい場所に来てしまった。
シップは頷く。
端的に告げる。
「まずはお前の呼び名だが。
本日より『ヒミコン』とする。
これから『選ばれし者』となるための修行が始まる。
つまり。
魔導師への門戸が開くということだ。
しかし実のところ。
能力を与えられても簡単には使いこなせない。
それゆえ。
私達四人に仕えて学ぶのだ。
まずは。
藍方星での『雑用係』に任命する。
良いな?」
「え……? 雑用係?
それが魔導師への一歩ってこと?
(それじゃあ仕方ないよね……)
ハイッ!
承知しましたっ」
ヒミコンはひれ伏す。
元気よく返事をした。
シップは首肯する。
「今後についてだが。
まずは『ファイトギア』透視から始める。
そして『選ばれし者』認定を目指す」
「フェイトギア……?
選ばれし者……?」
ゲイルが補足する。
「すべての人間が宿命の歯車『フェイトギア』を有している。
それは潜在意識の最奥に潜んでいる。
まずは。
最深部のフェイトギアを透視する修行から開始する。
平生常々に認識できるようになったとき。
『選ばれし者』として認定される。
つまり。
未來王の弟子となる。
特別なる任務を賜ることができるのだ」
シップが委細説明する。
「では、ヒミコンよ。
これより。
『選ばれし者』をへの道筋を伝える」
「はいっ」
「我ら魔導師四人衆には共通の宝がある。
それは唯一無二なる重要人物である。
その人物は大変に美しいフェイトギアを有している。
それゆえ穢れた人間界に於いて。
生霊怨霊の念に瀑されやすい。
その人物に仕え護る。
邪悪なるものを徹底的に消除排除する。
それこそが。
聖なる使命であり任務である。
要するにヒミコンは。
その人物の『専属・魔導師』を目指すのだ」
ヒミコンは目を丸くする。
納得できず反論する。
「ええっ?
せっかくウィザードになれたとしても?
たったひとりの人間を護るだけ?
それだけの任務なのですか?」
シーーーーーーーン………………
藍方星が静まり返った。
藍方星の崇高な輝き。
数秒、消え失せた気がした。
一瞬、周囲が真っ暗になった。
ひんやり、
寒々しい風が吹き抜ける。
気温が急降下した。
ヒミコンは狼狽える。
……え?
氷河期再来?
暗くて寒くて重苦しい。
底冷えがする。悪寒がする。
もしや、天変地異……?
すると。
地を這うような低い声が響いた。
全身黒色。
全身白色。
ゴシック調の服装をした美形魔導師ふたり。
不機嫌に口を開いた。
「てめえェ!?
ふざけんなァァ?」
「なんなの?
こいつ……、ムカつく」




