296 最終話 それぞれの未来
ルーファスとマリアの結婚生活は幸せそのものだった。
最初は金で買った貴族の妻だと、陰口を叩かれることも少なくはなかったが、夫婦同伴で仲睦まじく社交をこなす2人の姿に、そんな声もいつしか聞かれなくなっていた。
彼らは幸運にも多くの子どもに恵まれ、それぞれ立派に成長した。
長男はジルクリスト家の事業を継ぎ、次男はマレーリーの養子になってアジャーニ子爵家を継いだ。
マリアによく似た末娘は、エメラルドの瞳が美しいアストリアの名門侯爵家の嫡男と、身分の差を越えて結ばれた。
体調を取り戻した父親の指導のもと、ルーファスは国を越えた交遊関係を生かして事業を拡大。後世に名を残す大事業をいくつも手掛け、大陸随一の実業家になった。
一方でマリアは実業家の妻としての務めを果たしながら、慈善活動に心血を注いだ。
不正な人身売買の摘発の功労により、ガルディア王国の重鎮の座についたイザークは苦労を重ね、奴隷制度の廃止を敢行する。しかしその結果、行く場のない子どもたちが街に溢れた。
その状況に心を痛めたマリアは、後年、孤児院を設立し、多くの恵まれない子どもたちに精一杯の愛情と温もりを分け与えた。
再会したカイは、マリアの孤児院で右腕どころか両腕として働き、まだまだ抜けたところのある彼女をよくフォローした。
デリシーとオーランは、男女の関係ではないが、今でも仲良く付き合っているらしい。
ガルディア王国王妃エメラダの近衛騎士エドは、失恋をバネに厳しい鍛練に励み、今や大陸最強の騎士となった。その武名は近隣諸国にまで広く轟いている。
マレーリーは吟遊詩人のハン何とかと、爵位を捨てて、自由気ままに暮らしているとか。
マリアとルーファスの旅の仲間であり、大切な家族となったブラックは、ジルクリスト家の番フェンリルとして存在感を発揮した。
仔犬だった彼もやがて獅子ほどの大きさになり、人妻のマリアを狙う不届き者から彼女をしっかりと守っているそうな……。
* * *
没落令嬢マリアと護衛騎士ルーファスの恋の物語は、これでおしまい。
またいつか、会えるときまで……。
――fin.
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