21 借金の相手
マレーリーの突然の質問にマリアは困惑していたが、彼は気にせずに遠くを見て語り始めた。
「僕にはさぁ、結婚したいくらい大好きでたまらない人がいるんだよ……」
「「「「え……!」」」」
マリア、セバス、ドリーそして石化がとけたエドが一斉に声をあげる。いつでも冷静なルーファスだけが、唯一彼らの中で黙っていた。
亡きギルバートをはじめ、皆がマレーリーを非婚主義者だと思っていたから、彼にも結婚したいほど好きな相手がいたのなら、それは大変に気の毒なことだった。
ギルバートの遺言で、マリアの婿養子に爵位を継がせることになっているが、マリアには結婚の予定がまったくない。もしマレーリーが結婚して先に子どもができれば、後継争いが起こる可能性が高いから、そのような事態は避けなければならなかった。
つまり、遺言を守ろうとすればするほど、マレーリーの結婚は遠ざかるということだ。
「僕が爵位を継いで大変なときから、ずっと支えてくれている人でね。僕ももう爵位とか煩わしいものは捨てて、好きな人のところに行きたいんだ……。マリアが結婚してくれるの待ってたけど、一向にそんな気配もないし」
「叔父様……私のせいで今まで愛する人と結ばれずに……」
「だから僕も自由にするからマリアもそうしなよ。これから、マリアも好きな人を見つけて結婚すればいい。愛があれば、爵位なんて要らないだろ?」
「だからさぁ、早くマリアはここから出ていきなよ」
「え……私だけ?」
「お金を貸してくれるのは、もう彼しかいなかったんだよー。彼は屋敷を引き渡しても、このまま住んで良いって言ってくれてるし」
「私だけ……出ていかないといけないの……?」
マリアは意味がわからなかった。なぜ自分だけが追い出されるのだろう。
そこで、マレーリーは初めて真剣な顔で答えた。
「だって、僕が借金したのはクルーガー侯爵なんだもの。マリアがこのまま屋敷に残ったら……もうマリアは16歳だし、そういうことだろ?」




