19 最後の晩餐
マリアとルーファスが帰宅すると、既にドリーは戻ってきていた。女性陣は夕飯の仕度に取りかかり、コマネズミのように忙しく動き回る。
見習い騎士として学校に通っているエドも、もうすぐ帰宅するはずだ。
アジャーニ家では皆で食卓を囲むので、デザート以外は最初にすべてテーブルに並べてしまう。そうしないとマリアとドリーは給仕に追われ、ゆっくり話す暇もないからだ。
在りし日は賓客を迎え接待していたテーブルは、6人が食事を楽しむには十分に広い。
「ただいまー。マリア、腹減ったよ。もう座っても良い?」
マリアの後ろから明るい声が響く。振り返ってみれば、学校を終え私服に着替えたエドが立っていた。
「お帰りなさい。座ってもいいけど、食べるのはもう少し待っててね」
17歳になったエドは、来年で王立騎士学校を卒業し、一人前の王立騎士となる。マリアと同じくらいだった背はずいぶんと伸び、厚みを増して男らしくなった身体は若いエネルギーに満ち溢れていた。
彼が学校に通うようになり、マリアと過ごす時間は自然と減ってしまったが、2人は相変わらず仲が良くて、彼等の間に一切の垣根は存在しない。
「座る前に、エドもお皿並べるの手伝いなさい!」
厨房から出てきたドリーが、料理を運びながらエドを一喝する。
配膳が終わる頃にはそれぞれの仕事を終えたマレーリー、セバス、ルーファスの3人も食堂に揃った。
「かんぱぁーい!」
マレーリーの乾杯の挨拶から食事が始まる。
「今日は奮発しちゃったからね! みんなで食事を楽しもう!」
マレーリーはいつもに増して上機嫌だった。皆、いつもより豪華な食事に舌鼓をうち、思い思いに話をしながら食事を楽しむ。
マリアとドリーが、果実たっぷりのケーキと熱いコーヒーを並べたときだった。全員がまた席に着いたのを見計らい、マレーリーが口を開く。それは本当にごく軽い調子だった。
「いやぁー、実は、この屋敷を手放さないといけなくなったんだ」
そして、きれいな白い歯を見せて、軽くハハハっと笑う。
「これが、最後の晩餐なんだよ」
マレーリーの笑い声がこだまする中、彼以外の5人は一瞬にして石化した。




