11 ずっと俺のそばに
マリアは、結婚の話をルーファスは知っているのかが気になった。彼にも、エドと同じように、自分のことを心配してほしかったのかもしれない。
出会った当初は、ルーファスの悲しみを癒すために、マリアが彼を抱きしめていたが、今では彼の方が彼女を抱きしめることが当たり前になっていた。
そのため、彼女はおねだりするように抱きついた。彼の腕の中は安心できる特別な場所だったから。
今日もマリアはルーファスに抱きしめてもらい、腕の中で安心感に包まれながら思いきって尋ねた。
「ねぇ、ルーファス、私の結婚についてのお話が出てるのは知ってる……?」
彼は少しだけ驚いた様子で頷いた。
「はい、知っています。ですが、お嬢様はその話を直接ギルバート様から聞かれたのですか?」
「いいえ、エドが教えてくれたのよ。セバスとドリーが話していたのですって」
ルーファスはエドを一瞥し、彼に聞こえるようにため息をついた。ルーファスのため息に、エドがまたびくりと反応していた。昔からそうだが、エドはルーファスを怖がっているところがある。
マリアにはその理由はまったく理解できなかったけれど……。
「ギルバート様はお嬢様の意思を尊重されるお方です。仮にそういう申し込みがあったとしても、お受けするかどうかはお嬢様に聞いてからにするでしょう。ギルバート様に直接聞いてみてはいかがですか?」
ルーファスはマリアの不安を拭いさるように、彼女の頭を優しく撫でた。
マリアはルーファスの大きな手の温もりに、鼓動がはやくなるのを感じた。胸のざわめきをもてあましながら、彼女は勇気を振り絞って彼に問いかけた。
「そうね、お父様に直接聞いてみるわ……。でも、もしもこの話が本当で、私が結婚してしまったら……ルーファスは寂しいって思ってくれ……る……?」
マリアは自分から尋ねておきながら、ルーファスの答えを聞くのが怖くて、最後の方は消え入るような声になってしまった。彼の顔を見るのが怖くて、彼女はすっかりうつむいていた。
でも、ルーファスはそんなマリアに微笑んで、耳元でそっと囁いた。弾かれるように顔を上げると、紺碧の瞳とぶつかり、頭の中で彼の声がリフレインする。
「マリア……昔、ずっと俺のそばにいるって約束しただろう……?」
マリアはその甘い声音を思い出すと、なんだかルーファスに抱きついたままではいられなくて、そっと身体を離した。




