12 娘には幸せになってほしい
その日の夜、直接真相を確かめるために、マリアは父親の部屋を訪ねた。部屋にはセバスがいたが、ギルバートは娘の深刻そうな様子を敏感に察知し、すぐに人払いをした。
ギルバートはマリアをソファーに座らせ、自らもその隣に座った。そして安心させるように、ゆっくりと優しく話しかける。
「今日はどうしたんだい?」
マリアは膝の上でスカートを強く握りしめた。正面から父親の目をしっかりと見据える。
「お父様、私はクルーガー侯爵と結婚するの?」
マリアの言葉にギルバートが息を詰めた気配がしたが、結局何も言わなかった。
彼女は無言の父親を見て、がっかりする気持ちを抑えられない。でもだからこそはっきりと自分の気持ちを伝えなければ後悔する気がした。
「私は……まだ結婚相手を決めたくないの……。ねぇ、なにかおっしゃって? お父様……」
ギルバートは、マリアが侯爵からの申し出を既に知っていることに驚くが、これを機会に彼女とは結婚について一度よく話し合わねばなるまいと思った。
「マリア、この国では男性は18歳、女性は16歳にならないと結婚できないのは知っているね?」
「はい、お父様。そのために貴族の女性は15歳を過ぎたら社交界デビューをするのですよね。そこで自分に合うお相手を見つけるために」
「そうだね。でも、気に入った女性がいれば、その女性の社交界デビューの前に、早めに婚約をしてしまうことも多いんだよ。ほかの男に奪われてしまう前にね」
マリアは少し考えて答えた。
「それは……今回の結婚のお話についても言えることですか?」
ギルバートは頷く。
「クルーガー侯爵はマリアのことをとても気に入っていてね。婚約だけでも早めに済ましたいと考えているようだ。マリアが16歳のとき、彼は35歳と、多少歳が離れているが、そういう夫婦はたくさんいるものだし……」
ギルバートの言葉に、マリアは忽ち真っ青になった。しかしそれに続く言葉は、意外なものだった。
「でも、私は絶対に認めないから、安心しなさい」
そこで、ギルバートは自分と妻エレノアとの出会いについての話をした。隣国の王女に身分違いの恋をしたこと。叶わぬ恋に1度は諦めたこと。それでも結ばれてマリアが産まれたこと。愛する妻は亡くなってしまったが、今でもとても幸せなこと。
「マリア……。今日の君の様子を見て、改めて思ったよ。君には愛する人と幸せな結婚をしてほしい。君にもし愛する人ができたときには私に言いなさい。相手が何歳でも、どんな身分でもいい。君を幸せにしてくれる人であれば、必ずその人と結婚させてあげるから」




