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親友がTS娘になって、俺と結婚したいと言うが、断固断る  作者: コイル@オタク同僚発売中


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君との未来

 抱きしめ合っていると、奏のポケットに入っているスマホが振動しているのが分かる。

 何度も揺れて、切れる。

 そしてまた揺れる。

「……電話じゃね?」

 俺は相変らず、奏にマウントポジション取られたまま、気ままにキスされている。

「うーん……無視」

 奏はまたキスをして、そのまま俺の首元から手を入れて、ひとつボタンを外した。

 背筋がゾクリとする。

「……待て!! 電話に出ろ!!」

 このままじゃ学校で襲われる。

 下半身が爆発しそうだ。

「もー、仕方ないなあー」

 奏は俺の上に座ったまま、ポケットからスマホを出して留守電を確認した。

 電話の内容を聞く奏の表情が、どんどん変わっていく。

 スマホをポケットにしまって、奏は立ち上がった。

「……こりゃダメだ。緊急事態」

 奏はうーん……と背伸びをした。

 そして振向く。

「ハセさんが学校の外で待ってる。了太、一緒に来て?」

 奏の表情は真剣だ。

「あ、ああ」

 ハセさんが、もう待ってる?

 何だ?

 何がおこったんだ?

 俺はいつの間にか外されていた制服のボタンをとめた。


 学校の外に出ると、黒塗りの小早川家の車が止まっていて、ハセさんが待っている。

「奏さま、良かったです」

 その表情は硬い。

「ごめん、さっき気が付いた。行こう」

 奏は俺を奥に押し込んで、自分も乗り込んだ。

 車が発進する。

 奏もハセさんも無言のままだ。

 俺も空気に押されて何も言えない。

 朝、マフィンを持って台車でのんびり歩いた道が、一瞬で消えて行く。

 まだあれから数時間しか経ってないのに。

 何がおこったんだ?


 車は小早川家についた。

 玄関には数人のメイドさんが待っていて、奏の上着を受け取る。

 こういう時に自然に渡せるのが、何かすごい。

 メイドさんが俺の上着も受け取ろうとするが、目線で断って、入り口のソファーに座った。

 相変らず、柔らかすぎて沈む……。

 奏はまっすぐに自室に向かう。

 その後ろをハセさんが付いていく。

 沢山のひとが家の中を走り回っている。

 電話しながら走る人、衣装を抱えて走るメイド。

 こんな小早川家、はじめてだ。

 この家は基本的に走る人を見たことが無い。

 みんなのんびりしてるのが普通の家で……。

 ドアが開いて、着替えを終えた奏が出てきた。

 パリッとした紺色のスーツ姿だ。

 髪の毛も耳にかけて、さっきの少女の姿ではない。


 何なんだ?

 胸騒ぎが止まらない。


 追って出ていたハセさんが慌ただしく奏に話しかける。

 奏が頷く。

 そして指示を出す。

 ハセさんが走る。

 ハセさんが走ってるの、俺たぶん初めてみたぞ。

 何人かが奏の所にきて、指示を仰ぐ。

 奏は全員に指示を出して、廊下を進む。

 その表情は、さっきキスした奏とは別人に見える。

 本当に、何個の顔を持ってるんだ、奏は。

 ハセさんと奏が、屋敷内のエレベーター前に立った。

 奏が振向いた。

「了太、来て」

 少し微笑んだ。

 その口元はいつも通りの奏で、俺は少しだけ安心する。

「ああ」

 俺も走ってエレベーターに乗る。

 小早川家には何度も来てるけど、エレベーターに乗ったのは初めてだ。

 というか、壁の一部に埋め込まれてて、これがエレベーターだと気が付かなかった。


 エレベーターは、屋上についた。

 そこにはヘリコプターが止まっていた。

 この屋敷、ヘリポートなんて、あったんだ?! 全然知らなかった。

 手前にある控え室のような場所に由貴子さんが座っていた。

 由貴子さんも、いつものように華やかではない普通のスーツを着ている。

「こんにちわ」

 俺は頭を下げた。

「文化祭、終わった?」

 由貴子さんが微笑む。

「あ、はい」

「良かった」

 由貴子さんは先にヘリコプターに乗り込んだ。

 由貴子さんが乗るってことは、奏も乗るってことだよな……?

 急展開すぎて、頭がついていかない。

 奏はハセさんから渡された電話で話をしている。

 それを切って、ハセさんに返す。

 続いて何人かに指示を出している。

 あの人はよんでほしい、あの人には俺から説明をする。

 奏、お前、本当に誰なんだよ?

 全ての指示を終えて、奏が前の椅子に座った。

「はあ……」

 とため息をつく。

 スマホをポケットに入れて、顔を上げた。

「ごめん、バタバタして」

「どうしたんだよ……」



「親父が倒れたわ」




 え……?




「親父さあ、最近ずっと帰ってなかったんだけど。どうやら私の病気のことでかなり無理してたみたい。ずっとアメリカで製薬会社と合併狙って……特許関係なんだけど」

 確かに、週末ごとに見かけた奏の親父さん、最近は全く見なかった。

 忙しいみたいよ? とだけ、奏からは聞いていたけど。

「財閥系は、トップが倒れると、他も一気に倒れる。バカも出てくるし、株も心配だ。その前にいろいろ手を打たないと」

 奏がペラペラと何か言ってるけど、俺には半分も理解できない。

 わかるのは、奏が今から遠くにいく事だけ。

「え……全く……頭がついていかないんだけど……とりえあず、どこか行くんだな」

「まあ、そういうことだ」

「そっか」

 まだ理解できなくて、軽く頷く俺の頬を、奏が両手で包んだ。

 そしてゆっくりと顔を近づいて、キスをした。

 長いキス。

 何度も角度を変えて、俺にしがみついてくる。

 俺も、奏を抱きしめる。

 耳元で奏が言う。

「すぐ帰る」

「お前まで無理するな」

 俺は頭を撫でた。

 奏が俺の肩にトンと頭を乗せていう。

「待ってて」

「待ってる」

 奏は俺から離れて、立ち上がった。

 そのまま、ヘリコプターが待つ外に向かって歩き出す。

 俺は追って、歩き出す。

 屋上に出る。

 風が吹き抜けて、奏の髪の毛を揺らす。

 奏が振向く。


「ねえ、了太、戻ってきたら、私と結婚して」


「断る」


「えーーー?! この空気で、断る?! 一発OKな雰囲気じゃない?!」

 奏が俺にしがみついてきて、笑う。

 俺も再び奏を抱きしめる。

 そして耳元で言った。

「でも、奏と恋人になる」

 奏が顔をスッと離す。

 顔が真っ赤だ。

 俺はその赤い頬にキスをした。

「今日で親友はやめる。今日から俺はお前の恋人になる。だから、待ってる」

「了太」

 奏が飛びついてくる。

 俺もしっかり抱きしめる。

 奏の形を忘れないように。

 


 後ろでヘリコプターのエンジンがかかった。

 爆風と共に、飛ばされそうになる。



「奏さま……了太さん……時間が」


 ハセさんに言われて、奏は体を離す。

 そして俺を真っ直ぐに見て言った。

「じゃあ、ちょっと親父見てくるわ」

「気をつけて」

 奏もヘリコプターに乗り込んだ。

 ハセさんも一緒だ。

 ドアが閉り、ヘリコプターは一気に飛び立った。



 たったひとり、俺を残して。





 奏はそれから三ヶ月、戻らなかった。





 でも俺たちは大丈夫だった。

 毎日電話がきて、ラインがきて、Skypeもきて、なぜだか古風に手紙まで来た。

 正直寂しがる暇もない。

 完全に特例扱いだが、卒業目指して、Skypeで授業に参加している。

 テストも受けていて、いつもより点が良いくらいだ。

 奏の親父さんは、持ち直して、由貴子さんや奏が今すぐ現場に出る必要は無くなった。

 親父さんの入院中、奏は代わりに会社に入ったり、挨拶に回ったり。

「マジやべーーー、社長やべーーー、めんどくせーーー」

 を連呼していた。

 でも奏は元気で、笑っていた。

 俺はそれだけで安心した。

 主を失った小早川家に俺は入り浸り、安堂さんにパン作りを習った。

 作る相手を無くした安堂さんは、うちの高校でパンの販売を始めた。

 これがまた大好評で、毎回ストリートファイトが起きている。

 俺もパン作りを手伝って過ごした。

 


 そして、俺たち三年二組は、卒業式の日を向かえた。



 いつものように台所に入ると、そこに制服を来た奏が座っていた。

 一緒に住んでいた日のように、コーヒーを飲んで、パンを食べている。

「おはよ」

 前のように、普通に挨拶する。

「………おは、よう」

 理解が出来ない。

 俺たちは無言で見つめ合った。

 会うのは文化祭のあの日から、四ヶ月ぶりだった。

「あら、奏さん、ひさしぶりねー」

 台所に入ってきたオカンはまるで動じない。

「朝から小早川家のパン、久しぶりだわー」

 華英も動じない。

 オトンは通常営業、まだ起きてこない。

 俺たちは無言でパンを食べた。

 そして準備を終えて、玄関の外に出た。


 奏が居なくなってから、俺はひとりで学校に行っていた。

 ずっとずっと一緒だったから、俺は実はそれが一番悲しくて。

 ひとりで自転車をこいで学校にいくのが、こんなに淋しいなんて、知らなかった。

 奏が居ない部屋は、誰も近寄れなくて、ハセさんがたまに掃除に来てた。

 消えない荷物に、残った服。部屋着のショートパンツ。

 オカンは一ヶ月近く飯を多く作りすぎて、しかたなく俺が食べた。1キロ太った。

 奏が大好きな西川美和湖のCDに、奏が買いためたネクターの紙パック。

 全部そのままあるのが、悲しかった。

 ずっとずっと、奏が居なくて、淋しかった。


 奏が俺の手に触れる。

 暖かくて細い指。

 

 奏だ。


 久しぶりの奏だ。


 俺は奏を抱きしめた。

 奏もしっかりと俺に抱きつく。

「ただいま、了太」

「おかえり、奏」

 オデコとオデコをぶつけて、二人で泣き笑う。

 どうしようなく、会いたかった。



 俺たちは、自転車に乗った。

 そして学校に向かう。

「間に合って良かった」

 奏は自転車を漕ぎながらいう。

「卒業、できるのか?」

「テストは受けてたし、授業はSkypeで勘弁してもらった」

「そうか」

 単位のために奏は他のクラスの授業もSkypeで受けてるとは聞いてたけど、間に合って良かった。

「どうしても、了太と一緒に卒業したくて」

「うん」

 俺も同じ気持ちだった。



 いつもの川辺。

 水面がキレイで、俺たちは自転車を止めて堤防に座って見ていた。

 二月の風は冷たすぎるけど、つないだ手は暖かい。

 風が吹き抜ける。

「さむっ!!」

 奏がマフラーに顔を埋める。

 前にここを一緒に歩いた時は秋だった。

「さすがに寒いな」

 俺も笑う。

 奏が俺を見る。

「初めてのデートだね」

デート。まあ、そうかな。

「そうだ、最後の制服デートだな」

 俺は笑う。

「じゃあ、とりあえず、週末ホテル予約しとくわ」

 奏がしれっと言う。

「ぎゃーーーーーー」

 俺は川面に向かって叫ぶ。

「私たち、デート中の恋人でしょ?」

 奏がマフラーから目だけ出して微笑む。

 俺はマフラーを下げて、その唇にキスをした。

 おでこをくっつけたまま、言う。

「小早川系列のホテルは……やめてくれ」

「え、どこでもバレると思うけど」

「いや、やめてくれ」

 俺たちは自転車を押して歩き始めた。

 奏は【あの雲の向こうに】をハミングする。

「雲の、先には~~あなたがーいてー…」

 俺も一緒に歌う。


「だから、一緒に生きていこう」




 (終わり)

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。



新しく連載をはじめています。


男子寮で同室のTS娘が、俺に永遠を誓う

http://ncode.syosetu.com/n4020db/


同じくTS作品です。

奏は、少し出てくる予定です。

もしよろしければ、読んでみてください。


コイル

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― 新着の感想 ―
途中、了太の心情が切なくて切なくて… 感情の描写が丁寧なところとか、想像できちゃう面白いイベントとかやっぱりコイルさんの作品だなと。 すごく面白かったです! (竹中くん良かったです。由貴子さんとお幸せ…
神
良かった。心情の細やかな部分をさまざま描こうとしていたのがめっちゃ最高!!完結乙!!!!
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