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親友が『男子校の姫』なせいで、俺の青春がおかしい  作者: 久遠悠羽


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第1話 俺と親友、文化祭で『美女と野獣』の恋人役になる

 うちの高校には『姫』がいる。

 いや、比喩じゃなくてガチでいる。

 男子校なのに。


 朝、教室に入ると、そいつは窓際の自分の席に着こうとしていた。

 すかさずクラスメイト達が数人寄って来る。


「姫ー! 今日のランチはなんですかー?」

「姫、これ新作のミルクティー。好きだろ?」


 誰かがそいつの好物の紙パックを差し出した。

 どこかの世界のアイドルか。付き人がいるのか。


「ランチは購買のパン。ミルクティー金出すよ、ありがと。

 ちょうど喉乾いてたし、今飲んでいいかな?」


「いいぞいいぞ。ほっぺた膨らませて可愛く飲め」

「……揶揄からかってるよね?」


 群がられているそいつは苦笑しながらストローを咥え、片手でスマホを使って電子決済で代金を払っていた。


 俺は呆れながら自分の席にカバンを置く。


「おはよう、みなと


 ふわ、と柔らかい声がした。

 

 振り向くと、男共を押し退けて整った顔が近くに寄って来ていた。


 こいつは白藤理玖しらふじりく

 名前負けしない白い肌に長い睫毛、サラサラの黒髪……


 うちの制服を着ていなかったら普通の美少女にしか見えない俺の幼馴染で、男子校の『姫』。


「近い近い近い」

 俺は咄嗟に手を上げて制した。


「酷いな。挨拶しただけなのに」

「お前の顔面は距離感バグるんだよ」


 理玖がクスッと笑う。

 その瞬間、周囲から悲鳴みたいな声が飛んだ。


「今笑った!」

「尊い!」

「今日も世界が救われた!」


 いちいちうるせえな。

 特別天然記念物の可愛い動物が欠伸でもしたかの様な騒ぎぶりだ。


 理玖は昔からこうだった。

 小さい頃から異常に顔が良く、性格も穏やかで優しいせいで、男女問わずやたらとモテる。


 ただ、本人にその自覚がまるでない。


みなと、今日のお昼、一緒に食べられる?」

「毎日一緒に食ってるだろ」

「でも約束したい」


 そう言って首を傾げる。


 やめろ、彼女か。

 男子校でそれをやるな。

 また周囲の奴らが尊死してるじゃないか。


「おーい、白藤、黒崎!」

 

 不意に教室のドアから誰かが理玖と俺の名字を呼んだ。

 今年の文化祭の実行委員だった。


「? 理玖と……俺がどうしたんだ?」


「演劇の件が決まったぞ」

「演劇?」


 そういや、俺達高2の今年の出し物は演劇だった。


「この2年1組は『美女と野獣』!」

「おお!!」

 クラスが沸く。


「王道じゃん!」

「で、誰が美女役?」

「当然、白藤理玖だ!」


 そこにいた全員の視線が一斉に彼に向いた。


「……ん?」

 本人はきょとんとしている。


「いや、待て待て待て」


 俺は嫌な汗をかく。

 だってさっき名前を呼ばれたじゃないか……


 実行委員は次に高らかに言った。

「相手役の『野獣』は黒崎湊くろさきみなと!」


「はあ?」


「オレと湊が……恋人役?」

 理玖はそう呟くと、真っ赤になった。


「へ?」

 俺は素っ頓狂な声を出す。

 なんで赤くなるんだ……いや、なるか普通……


「うわああ、姫!」

「お前達?! やっぱり……!」


 数人の男子が悲鳴に似た声を上げる。

 口元を覆って赤くなる奴までいる。

 クラスの中でどよめき声がうねった。


「ち、違う! いや、何? 何が『やっぱり』? ねえっ?!」


 俺の必死の問いかけは、野郎共の興奮した声に掻き消されていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「はあ……なんで俺なんだよ」


 昼休み、花が咲き乱れている中庭で、俺はため息を吐いていた。

 理玖はベンチに座ってのんびりパンを食べている。


「きっと誰かの陰謀だよ。例によってオレ達は揶揄われたんだよ」

「でもお前、断らなかったよな?」

「相手が湊ならまあ……いいかと思って……」


 そう答えて少し顔を背けた。

 何? またちょっと赤くなってない?


 風が吹いて、理玖の髪が揺れた。

 後ろの花々と相まって、めっちゃ絵になる。


「湊は嫌だった?」

 暫く置いて聞いて来る。


「いや……別に。お前が嫌じゃなかったら……」

「じゃあ良かった。どうせ誰かが女役しないといけないんだし、オレもみんなが推してくれるならいいかなって」

「やっぱ素直でいい奴だよなーお前って」


 俺は率直な感想を言う。


 理玖は少し考えてから、ポツリと返して来た。

「湊だって、昔からオレのことちゃんと同じ立場の友達として見てくれるからいい奴だ。

 オレ、見た目こんななのに」


「見た目がどうとか関係ねーだろ。俺にとってお前は幼馴染だし、親友だと思ってるからな」

 俺がそう言うと、理玖は顔を上げて見返して来た。


「うん。オレも親友だと思ってる」


 花のような笑顔だった。

 でも、何故か少しだけ寂しそうに見えた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 劇の練習は、次の日から始まった。


「もっと恋人っぽく!」

「見つめ合って!」


 クラスの中の演劇部の指導が飛ぶ。


 黙れ、俺は素人なんだ。

 文句があるなら自分でやれ。

 あ、でもやっぱ他の誰かを理玖と見つめ合わせるのは嫌かも……


「ムムム……」

 俺は出来うる限りの近さで『姫』を見た。


「……近い」

 理玖は小声で言って顔を背ける。

 傷付くなあ……


「はいそこ! 白藤ももっとまともに顔見て!」


 演劇部のゲキが背中に刺さる。

 その声に意を決したかのように彼が俺を見つめて来た。


「睫毛長いな」

 思わず変な事を口走ってしまった。


「やめてよっ」

 理玖が赤くなって、折角近くに寄れたのにまたそっぽを向いた。


「はいカットぉー! 今のなし!」

 演劇部はあるわけのないカチンコを鳴らすふりをする。


「なんだよカットって! 映画撮影かよ!」

 俺は弾かれたように顔を上げた。


 ……見ると周りは頬を染めて視線を泳がす野次馬でいっぱいになっていた。


「なんか本当に付き合ってね?」

「野獣役の黒崎まで顔赤くない?」

「姫……アイツにだけ距離近すぎるだろ……」

  

 ザワザワと声が飛び交い出した。


 違う。

 違うから。

 俺達は幼馴染で親友ってだけだから!!



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 とうとう文化祭の当日になった。

 講堂は噂を聞き付けた奴らで満員だ。


 理玖がドレス姿で舞台に立つ。

 観客が全員、その姿にどよめいた。

 保護者もいるのに、みんなアイツの女装姿に釘付けになっている。


「え、待って可愛すぎ」

「男子?!」

「嘘だろ……」


 昨日の衣装合わせの時にも、ティーポットやカップ役の奴らがどよめいていたよな。


 理玖はオフショルダーの黄色のシフォンドレスを身に纏っていた。

 わざわざコスプレイヤーが中古で出してた物を、実行委員が探し出して買って来たらしい。

 

 雪の様な白い首筋にネックレスを何重にも着け、アップに仕上げた王冠の付いたウィッグを被ったアイツはめちゃくちゃ綺麗だった。

 

 マジで。

 なんならそこらの女子より圧倒的に美しい。

 ねえ、その肩幅……お前ホントに男子なの?



 そして劇は進み、問題のラストシーンになった。

 野獣の姿だった王子様が、美女ベルと結ばれる場面。

 

 台本では、手を取って見つめ合うだけだった筈なのに。

 ……なのに。


「王子様……」

 理玖が小さく俺を呼ぶ。

 それは舞台用の声なんかじゃなかった。

 昔から、俺だけに向ける甘えた様な言い方だった。


「お、おお……」

 俺は台本にないセリフに戸惑う。


 潤んだ瞳で俺を見た理玖は、そっと抱き付いてきた。


 観客からどよめきが湧く。


 おい、アドリブ?

 ラストだからってノリノリじゃねーか!


 俺はどうしたらいいのか分からない。


 その時、気を利かせてくれた委員の奴が、幕を降ろしてくれた。

 客席から割れんばかりの冷やかしの拍手が響く。


「……えへへ」

 俺から離れた理玖が、照れくさそうに笑った。


 その顔があまりにも綺麗で、嬉しそうで。

 ——心臓が一瞬、変な音を立てたかと思った。


「どうだった?オレの演技」

 理玖が聞いて来た。

「演……技」


 半ば呆然と見つめていた俺は、間抜けな声で返事をしてしまった。

 

 その様子を見て、彼は更に勝ち誇ったような笑顔を向けた。

 艶かしい瞳をし、顎にチョンとレースのグローブを着けたままの人差し指で触れて来る。


「そっか。湊もガチでオレに惚れたのか」

「はあ?! んな訳……っ」


 否定しようとした時、カーテンコールの幕が開いた。


「冗談!」


 ドレス姿の『姫』はそう言ってにこやかに俺の手を引くと、舞台の真ん中まで引っ張って行き、これまた優雅なお辞儀を観客達に披露した。



 



男子校が舞台のほのぼのラブコメ目指してます。

面白そうだなと思っていただけたなら応援よろしくお願いします。

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