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【言語解析者の無双転生 ―ソースコードに神秘などない―】  作者: 九十九 文
第2部【言語解析者の無双転生 ―システム・オリジン:魔法の原典解析―】

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第十四話「逆コンパイル ―論理の再構築―」

自由落下。 重力加速度 $g = 9.8m/s^2$。視界が暗転し、石畳の床が割れた瞬間、俺たちの身体は地下書庫のさらに深部へと吸い込まれた。「きゃあああっ!」「レオン! クレア様!」セレーナの悲鳴と、クレアの短い呼気。 俺は空中で体勢を立て直し、二人の腕を掴んだ。「セレーナ、出力を一点に絞れ! クッションはいらない。足元の空気を『固める』だけでいい!」「で、でも、そんな魔法——」「理屈はあとだ。俺の魔力パスを通す。……同期シンク!」セレーナの肩越しに、俺の解析視界を流し込む。 落下速度を殺すための複雑な流体操作の詠唱などいらない。ただ「大気」というオブジェクトの「硬度パラメータ」を一時的に書き換えるだけの、数文字のバイナリパッチ。──ドォン!着地の衝撃は、アスファルトに飛び降りた程度に軽減された。────────────────────────────────そこは、青白い燐光に満ちた巨大な空間だった。書庫ではない。 壁一面を埋め尽くすのは、規則的に明滅する巨大な結晶体と、それらを繋ぐ銀色の導線バスライン。「……何、ここ。学院の地下に、こんな場所が……」クレアが呆然と立ち尽くす。 彼女の家系が千代に渡って守ってきた「神秘」の正体が、剥き出しの基盤マザーボードのような無機質な空間だったのだから、無理もない。「第零層のさらに下。……ここは書庫じゃない。学院、いや、この都市全域の魔力を管理している『メインサーバー・ルーム』だ」俺は周囲を見渡した。空気が重い。物理的な重圧ではない。 高密度の魔力が、処理待ちのデータのように空間に滞留している。そして、その「中央演算装置」の前に、それはいた。────────────────────────────────鋼鉄の肌を持ち、四本の腕に光の刃を纏った巨像。 学院の守護兵器ゴーレムとは比較にならないほど洗練された、流線型のフォルム。「……セキュリティ・デーモンか」巨像の目が赤く発光した。 瞬間、空気が震えるほどの魔圧が放たれる。「クレア、下がれ! セレーナ、フィルタリング全開! 敵の起動音ログを漏らさず拾え!」「了解!」セレーナが目を閉じ、精神を研ぎ澄ます。 巨像が動いた。一瞬で距離を詰め、光の刃を振り下ろす。クレアが反射的に杖を掲げた。「──高潔なる氷の女王よ、我が命に応え、敵を凍てつかせ——」「やめろ、クレア! 現代魔法は効かない!」案の定、クレアの放った氷結魔法は、巨像の表面に触れた瞬間に「霧散」した。 いや、霧散したのではない。巨像の周囲に展開された不可視のフィールドによって、魔法の「意味」が剥ぎ取られ、ただの魔力粒子へと分解デコードされたのだ。「……嘘。わたしの魔法が、中和された?」「中和じゃない。プロトコルの不一致だ」俺はARウィンドウを高速で操作し、石板から読み取ったバイナリを現在の状況に当てはめていく。「現代魔法(高級言語)は、この遺跡のOSにとっては『不正な構文』だ。コンパイラが通らないどころか、ウイルスとして自動削除デリートされている」巨像が再び刃を振り上げる。逃げ場はない。────────────────────────────────◆ 逆コンパイル:起動────────────────────────────────「なら、こちらも向こうの言語で話すまでだ」俺は草稿に書き殴った古代バイナリの一節を、脳内で直接展開した。詠唱はいらない。 イメージもいらない。 必要なのは、魔力の「波形」と「順序」だけだ。対象:セキュリティ・デーモン

ステータス:実行中(RUNNING)

 

ハック実行:

 1. 敵の外部インターフェースを特定

 2. 認可フラグ(Authorization Flag)を一時的に反転

 3. 動作停止命令(SIGSTOP)を直接インジェクション

 

[ 01001111 01010011 01010100 01001111 01010000 ]

俺は指先を巨像に向け、魔力を一気に叩き込んだ。「──《STOP》」それは言葉ですらなかった。 ただの音の塊。 しかし、それは遺跡のOS(基本ソフト)に直接届く「システム・コマンド」だった。キィィィィィィィン!耳を突き刺すような高周波音が響き、巨像の動きがピタリと止まった。 振り下ろされる寸前だった光の刃が、セレーナの鼻先数センチで停止する。静寂。巨像の赤い目が、ゆっくりと明滅し、オレンジ色の「待機モード」へと切り替わった。「……止まった?」 セレーナが震える声で尋ねる。「ああ。管理者コマンド(ルートコマンド)で一時停止ポーズをかけた。……だが、長くは持たない。向こうのカーネルが異常を検知して自己修復を始める前に、このシステムの『真の仕様書』を読み解く必要がある」俺は巨像の背後、さらに奥にある「巨大な光の繭」を見据えた。 そこには、一千年前の賢者が隠蔽した、この世界のソースコードの断片が脈打っていた。────────────────────────────────「レオン……あなた、今、何をしたの?」クレアが震える声で問う。 彼女の知る「魔法」の常識が、今、完全に崩壊しようとしていた。「逆コンパイル(Decompile)だ」俺はモノリスから転写した数式を眺めながら、淡々と答えた。「魔法の仮面を剥ぎ取って、ただの『命令コード』に戻しただけだ。神秘なんてどこにもない。……あるのは、一千年前の設計者の、あまりに稚拙なセキュリティ・ホールだ」俺は歩き出した。 未知の言語が、俺を呼んでいた。────────────────────────────────

──次話予告──

 遺跡の深部で見つけたのは、一人の少女の姿をした「インターフェース」。

 彼女は言う。「管理者権限が不足しています。パスワードを入力してください」

 レオンはその「パスワード」が、クレアの家系に伝わる「呪われた歌」であることを確信する。

 「クレア。……歌え。お前の家系が千年間隠してきた、その『文字列』を」

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