知りたい 1
――午後二十時を回った。
夕食を終え、洗い物を済ませた俺はそろそろお暇します、と真那さんに伝える。――が
「ええー、折角だし泊まっていけばいいのに~」
「いや、流石にそれは……」
「そうですよ。明日も学校なんですから」
「サボっちゃいなさい☆」
「バカな事を言わないでください」
「ひど~い。御幸く~ん、真白ちゃんがバカって言った~」
「ははは……でも今日は帰りますね。明日は学校行かないと流石にまずいですから」
もうすぐ夏休みに入り暇になるが、いくら俺でも二日連続サボりは避けたい……。
「そっか~、残念だけど仕方ないわね~。でも、また一緒にゴハン食べましょうね。いつでも歓迎するから」
「……はい、ありがとうございます。では……」
玄関へ向かい、靴を履いていると、真白が「近くまで送ります」と話しかけてきた。
「外もう暗いし、いいよ別に」
「……行きます」
頑固だな、まったく。歩いてすぐの距離だし、大丈夫なのに。
俺は呆れてため息をつき、「好きにしてくれ」と言った。断ってもどうせ平行線になるだけだろうし。
案の定外はもう真っ暗だった。
七月に入ったこともあり、肌寒くはないがじめじめしていて暑い……。
また夜寝苦しくなるのか、ダルい……。
「はぁ」とため息をつくと、天童が顔を覗いてきて、首を傾げる。
「どうしたんですか?急にため息なんて」
「……いや、今日学校サボらなきゃよかったなぁ、って思ってな」
「今さら遅いですよ、まったく」
「まあそうだけどさ」
ごもっともな指摘に返す言葉もない。
――だが天童家に関しては誤算だった。
近所だということはなんとなく知っていたが、場所を知るつもりは無かった。……ストーカーとか言われると困るし。
おまけに天童の母親と黒猫に気に入られるし、天童は何故か警戒心低いし、それに――
(まさか女子を名前で呼ぶことになるとはな……)
正直あれは驚いた。学校で名前呼びしてるのは櫻井以外聞いたことないし、藍川でも名字呼びのさん付けだし。
俺自信もクラスの女子達から嫌われていると思うし、それ以前に仲のいい女友達とか一人もいない。
……なんか言ってて悲しくなってきた。
現実の残酷さを身に染みて感じていると、マンションが見える距離まで近づいていた。
「ここまででいいよ」
「……あっ、そう、ですか」
眉を下げてしゅん、としている天童の様子に疑問を浮かべる。なんだ……?
「どうした?体冷えたのか?」
「大丈夫です。ただ……もう少しだけ話しちゃ駄目、ですか?」
「お前な……もう遅いんだから早く帰れ」
「お願い、です……」
呆れた様子を見せた俺の服を掴み、上目遣いで言ってくる天童。ひょっとしてわざとやってんのか?
確信犯ならあざと過ぎるし、天然なら悪気がない分余計に質が悪い。
「明日じゃだめか?」
「……今がいい」
普段の敬語口調も無くなってきてる。大丈夫かい天童さん?
はあ、仕方ないか……。
「……公園でいいか?」
「はい……すみません、我儘を言ってしまって」
「まったくだ、次からはダメだからな」
「………はい」
俺達はマンション近くの小さな公園のベンチに腰を降ろした。
自販機で買った飲み物で喉を潤し、天童が話し始めるのを待つ。急かすような事でもないだろうし……。
それからお互い無言のまま五分ほどが経つと、膝に乗せていた両手を握りしめ、天童がこちらを見てきた。
かなり真剣な面持ちに、それなりに大事なことらしいとなんとなく察し、少し身構える。
「御幸くん……」
「なんだ?」
「その、御幸くんは―――どんな女性がタイプなのですか?」
「――――は?」
女性のタイプ……?
何故そんなことを聞くんだ?しかもこのタイミングで?
俺の表情から言わんとしている事を察したのか、天童が説明してくる。
「実は今日、お昼休みに海藤さんと藍川さんと結月さんと私の四人でお昼ごはんを食べたんです」
「うん」
「互いに会話が弾んで、それでみんなの好みのお話になったんですけど……」
「それで?」
「結月さんは藍川さんとお付き合いしていますから、二人はお互いが好みだと言いました」
「そうだろうな」
そうじゃなきゃ付き合わないだろ……。
「海藤さんは、年上のお姉さんがいいと」
「周は前からそうだな」
周曰く、同年代の女子は眼中にないらしい。
中学と高校を合わせれば、告白された数は数えきれないほどだが、全部断っている。
何でも、大人の余裕な感じと包容力を求めているらしく、胸も大きい方がいいとか。
……心底どうでもいいが。
「それから、興味本位で御幸くんの好みも海藤さんに聞いてみたんです……」
「まあ、そういう流れになるよな……」
「はい、そうしたら―――」
『御幸?う~ん、どうだろうなぁ?あいつグラビアとかそういうのに全然興味ないからなぁ~。多分エロ本とかも持ってないと思うし、俺自身たまに本当に男か疑う時があるくらいだから………ロリ系じゃね?』
「って言ってましたけど、本当はどうなんですか!?」
「……安心しろ、俺はノーマルだ。それと天童―――ちょっと待ってろ」
「え、はい?」
俺はベンチから少し離れて周に連絡する。電話はすぐに繋がり『はい、もしもし~』と電話に出た周に俺は叫んだ―――
「死ね!!!」
『え!?な、なに!?なんで!?いった――』
何か喋っていたようだったが、容赦なく切った。
あいつ、余計なことを……。誰がロリコンだクソが、明日覚えてろよ。
俺の中の周の信頼度が一気に下がるのだった。




