知りたい 2
明日周に復讐を誓った俺は「コホン」と咳払いをして、ポカンとしている天童に向き直る。誤解を解かないといけないからな。
「天童、さっきも言った通り俺は年下好きではないからな、そこは訂正させてくれ」
「………」
「?天童?」
「聞いてるのか?」と顔を覗き込むが、そっぽを向かれてしまう。
「おい、天――」
「……真白です」
「え?」
「天童じゃなく、真白です」
あー、そういうことね。
確かに名前で呼ぶって言ったけど、慣れないからかまだ天童呼びになってしまう。
「それは悪かったよ」
「ではやり直しです」
「はいはい、真白……」
「……よろしいです。それで?御幸くんはロリコンさんなんですか?」
「断じて違う!」
「じゃあどのような人が好みなんですか?」
と言われてもなー。
正直恋愛とか興味ないし。今は勉強とバイト優先だし、そんな余裕ないしなー。
グラビアとかもマンガ雑誌に載ってるのを見るぐらいだ。アイドルとか女優も、綺麗だな、可愛いな、くらいにしか思わないし。
横目で真白をチラッと見ると、期待と不安のこもった眼差しでこっちを見てくる。
どうしよう。変に誤魔化そうとすれば余計まずいことになりそうだし、無いなら無いって言った方がいいのか?
うーん。どう答えたんもんか、えーっと。
「……髪が長い人とか?」
「……それ以外には?」
「その他だと……一緒に居て楽な人、かな?」
「楽、ですか?」
「ああ。楽と言うより沈黙が苦にならない人?俺口下手だから、喋らなくても気にせずリラックスできるほうがいいなあというか……」
「なるほど」
真白は手を顔に当て「フムフム」と頷いている。
一応、納得はしてくれたみたいだな、よかった。
「で?もしかして話ってこれだけ?」
「はい、そうですけど?」
「それがなにか?」と首を傾げる真白に苦笑いしか出てこない。
じゃあ明日でよかったじゃん……。なんなのマジで?
そんな人いねぇよ、っていうモテない男への嫌がらせか?
まぁ所詮は理想だし、どうでもいいけど。
俺は嘆息し「そっか」と呟いてベンチから立ち上がる。
「それじゃあ話は終わりな、もう二十一時になるし、これ以上はダメ」
「分かっています。お母さんに心配はかけたくありませんから」
「そうしてくれ。じゃあ、気を付けて帰れよ」
「はい。おやすみなさい、御幸くん……」
「ん。おやすみ、真白……」
……今度こそ帰れる。
今日は本当に色々あったから早く寝たい。
そう思い、出口に向かって歩いていると「あっ」と真白が呟き、ポケットから携帯を取り出す。
まだなんかあるの?俺そろそろ限界なんだけど。
「大事な事を忘れていました」
「なんだ?」
「御幸くんの連絡先を教えてください」
「断る」
「なっ、どうしてですか!?もちろん、私のも教えますよ?」
「いや、別にいらないし」
学校一の美少女と言っても過言ではない真白と連絡先を交換する?
絶対ないな、トラブルの元になるだけだろう。
それに今日みたいにサボったりしたら、スゲー怒りながら電話してきそうだし……。
……想像しただけで悪寒がする。
だからいらない、と告げると今まで見た事無いほど頬を膨らませており、目尻には若干涙が溜まっていた。そして―――
「……うっ、そんなに、ハッキリ言わなくても………ぐすっ………」
まさかのガチ泣きである……。
あまりの想定外の事態に、俺は混乱した。……真白ってこんなキャラだったけ?
だが女の子を泣かせてしまったという初の体験にどうすればいいか分からず、自分にしては珍しく動揺してしまった。
「お、おい泣くな。別に真白の事が嫌いだからって訳じゃない。ただ学校のやつらに俺と友達だとバレるのはまずいと思っただけだ」
「……どうしてですか?」
「真白は良くも悪くも目立つ、最近俺と仲いいじゃないかって噂が出た時の周りの反応を見れば分かる。……それに、俺学校だと地味で暗くてオタクだと思われてるから、真白に迷惑がかかると思って……」
―――彼女は優秀だ。
テストは連続首位。品行方正でみんなの模範となるような所作と風格。生徒達とも仲がよく、教師からも信頼され頼りにされている。
対して俺は最低限のノルマをこなしているだけの根暗な陰キャ、他は何もない。
――そんな俺と真白が友人?
きっと周りはこう思うだろう――
『なんでお前なんかが?』
『釣り合わなくね?』
『相応しくない』――と。
だから近づきすぎないようにしようと思った。真白もそれは望んでないだろうし、俺も面倒なのはごめんだ。
「……真白には悪いけど、学校で変な噂が広まるのは個人的に嫌なんだよ。だから……連絡先はいらないし、学校でもなるべく話さないようにしよう……」
「………」
真白は寂しそうな表情を浮かべて顔を伏せて、体を震わせている。
これで嫌われただろう……。少し心苦しいが、これが最善だ。
俺との噂のせいで彼女の生活に悪影響を及ぼす事になるなら、喜んで俺は離れる。
――もう傷つくのは嫌だから。
――誰かを傷つけたくないから。
俺は「ごめん……」と言い残してその場を去ろうとすると―――腕を掴まれ、グイっと引っ張られる。
「ちょ、なに?」
「いやです――」
「え?」
「御幸くんとお別れするなんて、学校でもお話できないなんて、そんなのイヤですっ!!」
いつも冷静な真白からは想像もつかない怒気のこもった叫びが、俺の頭の中に響きわたる。
まずい……めっちゃ怒ってる……。




