箱庭の迷い人編ー10.箱庭の外
一方、ミライとレイナは静かな部屋へと移った。
ミライは、ぶるぶると震えながら泣いているままだ。
そこで再度、レイナはミライにこうたずねた。
「みーちゃん、どうしてゆーりんを呼び戻して欲しいの?」
ミライは、しばらく泣いたまま何も答えなかった。レイナがそれを見ているとやがて、彼女はこう告げる。
「…………それは……、ユウリが……危ない…………」
「危ない?」
「…………神に消される…………!助けて…………!」
ミライはそう言うと、わんわんと泣きながら身体を丸めてしまう。
「……神に消される?まぁ、すぐに行くよ」
レイナはすぐに、動き出した。
一方でユウリは、まるで大陸がすぱんと切られたように広がる断崖絶壁に立っていた。
先ほどの変身も、瞬間移動した時に元に戻っている。
目の前に広がるのは、暖かい光の色で出来た宇宙のような空間。そこには星のようにいくつもの、箱庭のような島が空間上にいくつも浮かんでいた。
ユウリは、再度箱の中を眺めてこうつぶやく。
「まぁ、全然強くなかったね。」
その一方、箱の中では。
りんたとやみが息を切らしてぐったりしていた。
「ダメだ……脱出できん」
「にぱぁ……」
二人は、この間に様々な方法で脱出を試みていた。ダイヤモンドのドリルに強力な爆弾、戦車にロボット、ミサイルにエネルギー武器、火炎砲に銃弾、かぼちゃの馬車にユニコーンまで。
しかし、どの手を使っても脱出は失敗。それどころかステルスが張られているようで、『箱』は傷一つついていない。
「とりあえず捨ててさっさと戻るか。」
ユウリはそう言って顔を上げると、箱をボールを投げるようにぽいっと投げ捨てた。
その直後、レイナがやってきた。
「ゆーりん待って!」
「どうしたの?今あの箱は捨てたところだけど」
ユウリは、レイナの方を向いて言った。時はすでに遅しである。
「そんな……」
レイナは、落ち込むと同時に進んでいた足が止まる。それと同時に彼女は、悪い予感がした。頭に浮かんでいるのは、ミライのあの怯える表情である。
「レイナ?顔色悪いけど?」
ユウリは、急に青ざめたレイナの顔をじーっと見つめていた。
***
《あれ、あの箱はなんだろう……?》
“僕”は、こちらにやってくる小さな箱を見つけた。
自分から近づいてみると、箱の中には二人の影が映っている……。
《あれは……》
“僕”は、箱を急いで両手で受け止めた。そして、すぐに箱の中身が無事かを確認する。
《よかった……》
二人とも、ちゃんと意識があって元気そうだ。
僕は、二人に微笑みかけた。
二人も、箱の中からこちらを見つめている。
「にぱ……助かったの……?」
ハチミツのようにどろっと溶けながら、りんたにしがみついているのはやみ。
「ふぅ……あれは……?」
りんたもため息をついて無事そうだ。
ふふふ。まぁ、良かった……この二人がいなきゃこの世界のこの物語は始まらない。そして、僕の目的も……。
あいつには後で、ちょっとした天罰でも下しておこうかな、なんてね。
ミライ、そんなに心配しなくていいからね……。
***
「さて、帰ろうか」
「うん……」
レイナはユウリに手を引かれていた。しかし彼女には、まだ何か悪い予感がしてならなかった。
ユウリは、帰るために魔法陣を広げる。
その時だった。
「おい。このまま帰れるとか思うなよ?」
「ひっ……」
「レイナ!?」
ユウリが後ろを見ると、捨てたはずのりんたがレイナを後ろから掴んで抱えていた。レイナにはハンドガンの銃口を向けられて、その姿はまるで人質だ。
「ユウリだけでも逃げろ……!私は大丈夫だ!」
レイナは、人質状態の中でそう言い放つ。
「でも……分かった」
ユウリはレイナの声に応え、急いでその場から逃げようとした。
すると彼の足に何かがまとわりつき、勢い任せに転んでしまう。
「にぱー……?」
ユウリは、自分の足元を見る。すると、溶けたやみが彼の足にまとわりついて押さえていたのだ。
「お前ら二人とも復活してたのかよっ!」
「貴様らも哀れだな。俺たちは神の加護を受けたのだよ」
りんたはそう言い放った。彼が見下すように見開いた目と手加減のない表情が、ユウリの視界に恐ろしく映る。
「ちょ……マジですか……」
「あの神様が……」
この時、レイナとユウリの二人は悟った。完全に油断していたと。
「この……」
ユウリは、手から魔法を発そうとする。
「ほう、反撃するつもりか。レイナちゃんがどうなってもいいのかなぁ」
するとりんたは、レイナに突きつけている銃を側頭にぴったりつけ、引き金に手をかけた。
「やめなさい……やめてくれ……!」
ユウリはレイナの方へ、彼女の解放をせがむように手を伸ばす。
「にぱぁ……?」
足元にまとわりつくやみが、ユウリの体を蝕むように包みこもうとしている。
「んー?何のことかなぁ?それより大丈夫かなぁ?」
りんたは、レイナを人質にしながら悪魔のような笑みを浮かべながらユウリを見つめていた。
命の危機がすぐ側にあるレイナ。りんたの悪魔の笑みも相まり完全に抵抗を失い、涙を浮かべながらこう言った。
「大丈夫、私が死んでもレナがいるから……」
「レイナ……そう言わないで気を確かにしろっ……うぅっ!」
ユウリはそう言うものの。彼自身も粘質生物に力を吸いとられてうまく抵抗出来ない状態だった。
《さて、このままレイナとユウリはやられてしまうのかなぁ。少々やり過ぎな気もするけど、ま、いっか》




