表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

#005「優しさ」

――有名人の私生活は、市井の暮しに全く無関係なのに、何故これほどに熱狂するのだろうか?

  *

「直火と鉄板と鍋。どれが、お好みですか?」

「限界が近いんだな。でも、俺を食べようとしないでくれ」

「せめて、水があれば」

「そうだな。俺も喉が渇いた」

「ここは、ゴースト・タウンなんでしょうか?」

「外に出歩かないだけかもしれないぜ? 日に焼けた、お尋ね者の貼り紙がある」

「治安の悪そうな街ですね。うわっ」

「風が強いな。それに、砂埃も」

「コートのポケットやブーツを引っくり返せば、砂山が出来そうです」

「違いないな。どうした、ユウ? しっかりしろ!」

「駄目ですね。目の前が、何も見えません。頭痛も、します。あと、吐き気も」

「声は聞こえてるか?」

「ピア。もう、私は、歩けません」

「諦めるなよ、ユウ。ユウ!」

  *

『ユウ。こっちに来て、オレンジの収穫を手伝ってちょうだい』

「お母さん」

『ユウは、母さんと逃げなさい。ここは、父さんが守る』

「お父さん」

『俺の名前はピア。さぁ、こっちが名乗ったんだから、教えてくれ』

「ピア」

『へぇ。ピッタリな名前だな。よろしくな、ユウ』

「ピア! ――ここは?」

「気が付いたみたいだな。ツイてるぜ、俺たち」

「ピア?」

「親切なニイチャンに助けてもらったんだ。それに、そのニイチャンの娘の器量が良くてさ」

「今のは、夢、だったんですね」

「おい、ユウ。鳩が豆鉄砲食らったみたいな間抜け面だな。もっと喜べよ」

「……ピアは、私の故郷は知りませんよね?」

「おっ、昔話か。自分語りをしないユウにしては、珍しいな。ひとつ、心して聴こうじゃないか」

「語るほどではありませんよ。ただ、両親とオレンジ畑で暮らしていた頃を思い出しただけです」

「オレンジ畑のユウか。こんがり日焼けした屈託ない笑顔のユウを、一度は見てみたいものだな」

「何ですか、その妙に具体的な人物像は? 現実から、かけ離れてますよ」

「調理法を例示した人間に言われたくないね」

「おや。案外、根に持つタイプなんですね」

「仮に俺がユウと同じくらいの大きさで、ユウが俺と同じくらいの小ささで、俺がユウを食べようとしたら、ユウだって嫌な気になるだろう?」

「たしかに、そうですね。フフッ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ