#006「サラダ・ボウル」
――攻めの反対は、守り。正義の反対は、別の正義。
*
「ごちそうさまです」
「あら。しっかり食べないと、良くならないわよ?」
「いつもより、よく食べたほうだと思うぜ」
「元来、食が細いもので」
「それは、いけないな。――見回りは、異常なしだ」
「お疲れさまです、お父さま」
「地上に誰も居ないと思ったら、地下に、こんな空間があるんだもんな」
「悪質な騎士団からの自衛処置として、申し分ないですね」
「連中は、流れ者や子供を甜言蜜語で誑かし、訓練と称して洗脳して、命令に忠実な傭兵に仕立て上げては、各地で略奪行為に及ぶという破廉恥極まりない人間だからな」
「わたしたちだけでも被害を食い止めないといけないんですよね、お父さま」
「ニイチャンも、素直な娘さんに恵まれたもんだな」
「すくすくと育ったものですね」
「妻の育てかたが良かったんだろうな。愚痴ひとつ、弱音ひとつたりとも零さない気丈夫だったからなぁ。辛いことや嫌なことは、いくつもあっただろうに」
「お父さま。そういうことは、二人きりのときに」
「俺たちのことなら、お構いなく」
「お気になさらないでください」
「これは、いけない。つい、感傷に浸ってしまった」
「陽の当たらない生活が長いせいね」
「早く、お天道様の下で暮らせるようになると良いな。なっ、ユウ?」
「ピアの言う通りです。――伏せて!」
「キャッ」
「壁に、ナイフが」
「誰か居るみたいだな」
「静かに。――隠れてないで、出て来なさい。そんなナイフの腕では、私に勝てませんよ。……そこか!」
「ウゲッ。あっ、やばい」
「こら。待ちなさい」
「逃がすか、この鼠野郎」
*
「痛っ。手当てするなら、もっと優しく頼む」
「大人しくしなさい。明日になれば、怪我は癒えるわ」
「ユウは、投げナイフのプロだもんな」
「どれも急所を外れてるな。わざとか?」
「無用な殺生はしたくありませんし、何より相手は、まだ子供ですから」
「ヘンッ。偽善者ぶりやがって。ウワッ」
「手が滑ったわ。ごめんあそばせ」
「謝ること無いぜ。生意気な小僧には、良い薬だ」
「フゥム。生け捕りにしたのは良いが、何も知らないのは本当らしいな」
「入団して、まだ日が浅いようですね」
「誰でも良いから、地下の人間を襲って金目の物を奪って来いって言われてたんだ。そうしたら、一人前と認めてやるって」
「ろくなことを吹き込まないわね」
「まさしく、ろくでなしだな」
「この場所を知られてしまった以上、長居するのも危険だな。移動するか」
「そうですね。今夜にでも、拠点を移すべきだと思います」
「話すことは無くなったし、手当ても済んだから、この辺で。ギャッ。離せよ」
「一緒に行くのよ。決まってるじゃない」
「旅は道連れ、世は情け」
「済まないが、しばらく付き合ってもらえるかい?」
「はい」




