模擬戦
ハートアイを倒して心眼のスキルを手に入れたあと、ダンジョンの奥は静まり返っていたが、そんな空気とは裏腹に光世の視線は完全に俺へ向けられていて、その目はさっきまでの余裕あるものとは違い、明らかに戦いを求めている色を帯びていた。
「今のスキル」
光世がゆっくり口を開く。
「かなり強いだろ」
「まぁな」
俺は軽く答えながら、さっきの戦闘を頭の中で整理していたが、心眼は予想以上に使い勝手が良く、戦闘の精度が一段階上がる感覚があった。
光世が小さく笑う。
「ちょうどいいな」
剣を軽く回しながら続ける。
「ここでやろうぜ」
「は?」
俺は周囲を見渡すが、ダンジョンの奥には誰もおらず、確かに邪魔は入らない環境だった。
「模擬戦だよ」
光世は軽い口調で言うが、その目は完全に本気で、冗談で言っている様子は一切なかった。
「お前の強さ、ちゃんと見たい」
俺は少しだけ考えるが、断る理由は特にないし、心眼の性能も試したかった。
「いいぞ」
俺はソウルイーターを構える。
光世も剣を構えた。
その瞬間、空気が一気に張り詰める。
「ルールはなしでいいな」
「好きにしろ」
光世が踏み込んだ。
視界から消えたように見える速度だった。
「……速いな」
だが今は違う。
心眼を意識すると、光世の動きがはっきりと見えるようになる。
踏み込みの癖、剣の振り出し、すべてが予測できる。
俺は体をわずかにずらす。
キンッ
光世の剣が空を切る。
「ほう」
光世が少しだけ口角を上げる。
「見えてるな」
そこから連続で斬撃が飛んでくるが、速度は速いものの、すべて軌道が見えるため、俺は最小限の動きで紙一重に避け続けることができた。
光世の目が変わる。
「面白い」
さらに踏み込みが鋭くなる。
だがそれでも見える。
俺はタイミングを合わせる。
そしてソウルイーターを振る。
キンッ!!
剣と剣が初めてぶつかる。
衝撃が腕に伝わるが、力の差はそこまで大きくない。
「いいな」
光世が笑う。
「やっと戦ってる感じだ」
そのまま距離を取り、再び踏み込んでくる。
今度はフェイントを混ぜた複雑な動き。
だが心眼のおかげで、どれが本命か分かる。
「……」
光世が少し驚いた顔になる。
「全部見えてるのか」
俺は答えない。
ただ、ここで試す。
もう一つのスキル。
無。
問題はタイミング。
〇・一秒の誤差。
普通なら無理だが、今は違う。
心眼で時間が遅く感じる。
光世が踏み込む。
剣が振られる。
その軌道がはっきり見える。
当たる瞬間。
あと少し。
ほんのわずか。
「……今だ」
無を発動する。
その瞬間。
光世の剣が消えた。
「……は?」
光世の動きが止まる。
完全に理解できていない顔だった。
俺はその隙に一歩踏み込む。
そして剣を止める。
光世の首元で。
「……」
数秒の沈黙が流れる。
やがて光世が小さく笑った。
「今のなんだ?」
楽しそうだった。
俺は剣を下ろす。
「さぁな」
光世は笑いながら後ろへ下がる。
「いいな」
「めちゃくちゃいい」
その表情は完全に戦いを楽しんでいるものだった。
「もう一回やろうぜ」
俺は軽く首を振る。
「また今度な」
これで十分分かった。
心眼と無。
この組み合わせは強い。
光世が俺を見る。
「逃げるのか?」
「違う」
俺は剣を肩に担ぐ。
「もう分かっただろ」
光世は少し黙る。
そしてゆっくり笑った。
「……あぁ」
「分かった」
完全に理解した顔だった。
この勝負の結果を。
だがその目は負けを認めたものではなく、むしろこれからが楽しみだと言っているようだった。
「次は勝つ」
光世が言う。
俺は軽く手を振る。
「無理だな」
そう言ってダンジョンの出口へ向かって歩き出した。
背中に光世の強い視線を感じながら。
すいません入院してました。
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