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説得と決断

 真琴はぐるぐると回る思考を伴侶にして参謀本部の廊下を歩いていた。


 厳密に言えば、真琴は上官の命令に逆らったことを行ったわけである。真琴の、次長更迭のための行動を取るという提案に対し、音羽は拒絶を示したのだ。その意味で、彼女は責めを負うべきであった。

 しかし、それで音羽の不興を買い、真琴が解任されたとしても、自身がやらねばならないことだと思っていた。


 とはいえ、音羽を説得し、納得させなければいけない。田代中佐が指摘する通り、音羽にそこまでの決心をさせるというのは酷であった。特に、今の音羽は憔悴し始めている。


 両手で頬を叩いて、総長執務室に入る。

 物音を聞いて、音羽は埋もれんばかりの書類の束から頭を上げた。



「まこちゃん」


 微笑を浮かべた音羽は、しかし、すぐに眉根をひそめた。いつになく険しい表情をしている真琴に対して、怪訝に思ったのかもしれない。


「どうしたの?」

「大切な話があるんだ」


 息を吸って、吐いて、真琴は言葉を続ける。


「参謀次長真崎顕治中将閣下の解任を提案する。裏菊会は全面的にこれを支持し、総長宮殿下に忠誠を誓うことを約束する」


 音羽は考え込むように目を閉じた。十秒ほど、沈黙が訪れる。


「……私はまこちゃんにやめろって言ったよね」

「罰を負う覚悟はできているよ。何なら除隊されたって構わない」


 音羽はじっと真琴の顔を見つめていた。何かを見透かそうとするような視線だった。


彼女からすれば、本来自分の忠実な補佐であり、時には代理人であるはずの副官が勝手をしたことを、怒らなければならない立場だった。しかし、その独断専行の原因を考えると、音羽としては何も言えなくなる。


「……結城大尉」

「はい」

「本来は謹慎処分を下したうえで沙汰を下すところですが、現在参謀本部には貴官を失うほどの余裕はありません。また、時局を鑑みて貴官の独断専行はやむを得ない面もあります」

「……はっ」


 真琴は、音羽が自分の行動に対して最大限の好意を示してくれていることを知った。もっとも、それに狎れることがあれば彼女は許さないだろう。


「よって本件は貴官の今後の働きによって贖われるものとします。以後軍務に奮励し私に尽くしなさい」


 私に尽くせ、これは音羽が決意を固めたことを表しているとしか考えられなかった。


「……それでは」

「まこちゃんに仕事を与えよう」


 にやりと、音羽は端正な顔立ちに歪な微笑を浮かべた。


「真崎次長を呼んできて。どうせあなたたちの方で解任の筋書きやその後の展望を考えているんでしょうけど、そんなものはいらないわ」


 音羽はそこで一拍置いて、そして、次の言葉を吐いた。


「この日が来るのを待ち望んでいたのだもの」


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