煉獄統一編4ーーー極上の蒲焼き祭り
さて、じゃあ次はみんなのステータスを見せてもらおうか。
と、思ったその時。
ぐぅぅぅぅぅぅぅ……。
間抜けな音が響いた。
全員の視線が、俺の腹へ集まる。
「……悪い」
「そういえば食事がまだでしたね」
ベルクが半笑いで立ち上がる。
「確かに戦闘後は腹が減る」
ファウストがベルクをジッと見る。
「では、せっかくですのでサンドイールを食べますか?」
一瞬、沈黙。
次の瞬間。
「「「食う」」」
全員一致だった。
俺と加藤以外は。
ーーー――――――――――――――――――
「マジで調理するんだな……」
外へ出ると、何枚も繋ぎ合わせたレジャーシートが敷かれていた。
その上には使い古した簀子が並べられ、さらにその上へサンドイールの巨体が横たえられている。
その……簀子と簀子をちょっとだけ距離を置いているところがあった。
それは丁度、サンドイールの首にあたる部分になる。
はい。分かります。
首をちょんばするから、わざと土台の簀子同士を開けているんですね。
その真下には鉄製の盥が設置されてある。
あの強力な酸に近い血を抜くためのシステムだ。
エイリアンブラッドとでも言おうか。
ふと、気になってベルクに訊いた。
「なぁ、このウナギって、自分の血を浴びて死んだりしないのか?」
「えぇ、もちろん死にます」
あっさりと言う。
いや、死ぬんかよ……。
なんて残念な動物、いや、魔物だ……。
「―――ですが、サンドイールの血管は本来、骨ほど硬く頑丈ですので、よほどの事がない限り出血はしません。他の魔物や私達のような狩猟、討伐を目的とした者が攻撃するなら話は別ですが」
はぁ……そっスか。
って、さっきその硬い血管ごと首を吹っ飛ばしてたよな。
しかし……。
近くで見ると本当におかしい大きさだ。
胴体の太さだけで軽自動車レベル。
「これ本当に捌けるの?」
慄いている俺と違い、婆ちゃんは落ち着いたものだった。
「魚は大きい方が捌きやすいんだよ」
「いや大きいのレベルじゃないだろ」
「大丈夫ですよ、心太様。何度も捌いていますので」
そう言いながらベルクが暗黒ポケット(命名)から取り出したのはランス。
馬上で装備する槍みたいな武器をどうやって使うのか。
と、思って見ていると。
ザン!
ウナギの首の辺りを垂直に突き刺して固定。
調理の工程というよりは生贄に見える。
ここで気になっていた疑問をベルクに投げる。
「あの厄介な血はどうするの?」
「首を落としたら上体が傾くように台に寝かせています。なのでこのまま落とせば……」
ベルクがナイフ……いや、長剣を空間から取り出して腰のところで構え持つ。
瞬間。
ズバァン!!
居合いで一刀。
爆音と共に、ウナギの頭部が斬り落ちた。
「「うわっ……」」
加藤と俺は顔を青くしている。
胴体には人の腕ほどもある血管が通っていて、そこから水道みたいに血が流れ落ちていく。
イカなんかの胴体に通っている、あのストローみたいなやつ……(アレなんて名前なんだろ?)と同じようなものが、このサンドイールの胴体に通っている。
こいつが、それはまぁ、お硬い。
いや、お硬かった。
だがこの硬いストロー……(ごめん無学なり……)のおかげでサンドイールの血液が体内に回る事がないのだそうな。
「いい腕だねぇ」
婆ちゃんがベルクを称賛した。
――――――――――――――――――――
解体は、途中からもう単純な作業だった。
切る。
運ぶ。(←ここの役割が加藤)
洗う。(←ファウストの役割)
切る。
運ぶ。(←ここの役割が俺)
焼く。(←そして婆ちゃん)
洗う水についてファウストに訊くと。
なんでもこのサンドイールが棲む砂漠地帯は、地下数百メートルほど掘ると地下水脈が通っているとのこと。
その水脈を棲家としてこのサンドイールが存在していると。
逆に言えばサンドイールがいれば、そこに地下水が必ずあるってことだ。
そこでまたベルクが便利な物を取り出した。
勝手に水脈まで掘り進める、手押し式の井戸ポンプ。
こいつを使ってファウストが身を洗い、仕上げにペットボトルの水で再洗いをしている。
ただ、下ごしらえが完了したはいいが、そこからがまた大変だった。
特に地獄だったのはその脂だ。
「うわっ熱っ!?」
えげつない量の脂がのっていて、馬鹿デカいバーベキューセットの網から、燃える炭にしたたると、攻撃的なほどに爆ぜるのだ。
しかし婆ちゃんはその隣に陣取って、非常に慣れた手つきで串を打っていく。
およそ食べる分を洗い終えたファウストが、巨大な骨を薪代わりに積み上げる。
この骨も燃える。……らしいけど大丈夫か?
ボン! とかいって爆破しないだろうな?
そう思っていたが、その骨をくべたら意外や意外。
美しい青白い炎を昇らせて揺らす。
その上にまた。
分厚いウナギの身が置かれた。
もうね。やっぱりそこはウナギだ。
ふっくらとした身が焼ける匂いは、とにかく香ばしかった。
胃袋を容赦なく刺激して、食欲だけを暴力的に煽ってくる。
ジュワァァァァァァ……。
音だけでまた腹が鳴る。
「うっっっわ……」
俺は思わず声を漏らした。
また一つ脂が泡立ち、香ばしい匂いが辺りへ広がっていく。
表面がこんがり色づき、白い身がふっくらと膨らむ。
そこへ婆ちゃんがタレを塗った。
「秘伝だよ」
「絶対普通の家庭に無い色してるんだけど」
「醤油、みりん、酒、砂糖、このウナギの肝。と、あとベルクがくれたドラゴンの肝だね」
「……最後の何? いるの?」
いらないいらないいらない……って言えない。
その匂いがヤバかったのだ。
甘辛い香りが、砂漠の乾いた空気をぶち抜いてくる。
食欲が理性を殴り飛ばしてくる。
もう涙目だ。
「早く……早く食わせてくれ……」
「待ちな。蒲焼きは焦らしが大事なんだよ」
婆ちゃんは真剣な顔でタレを重ねる。
一度塗る。
焼く。
また塗る。
焼く。
繰り返すたびに照りが増していく。
黄金色だった。
煉獄なのに天国の匂いがした。
――――――――――――――――――
「―――よし。食いな」
その一言で。
俺達は飛びついた。
「いただきます!!」
ガブリ。
瞬間。
「…………」
全員、止まった。
外は香ばしく。
中は異常なほど柔らかい。
脂が舌の上で溶ける。
だが全くしつこくない。
噛むたびに甘い旨味が広がり、タレの香ばしさが鼻を抜ける。
「うまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
俺は叫んでいた。
ファウストに至っては。
「やはり契約して良かった……」
なんて呟いている。
婆ちゃんは満足そうに笑った。
「やっぱりウナギは蒲焼きだねぇ」
「いや、普通のウナギじゃねぇ旨さだよこれ……」
箸が止まらない。
疲労で死にそうだった体に、熱と力が流れ込んでくる。
体の隅々まで回復していく感覚があった。
煉獄ウナギ。
と、たぶん隠し味に使われたドラゴンの肝。
どうやらとんでもない―――栄養食だったらしい。




