「12月、この月だから?」12.呼び方、話し方、キーボードを使ってカタカタ、そして
「そうです。――テイクのみなさまもスノードームのみなさまも、できましたら私のことは、おとなりさん呼びで、とお願いできればと思います。栞ちゃん作のこの呼び名は、第二の名前のような感覚でもありますし、栞ちゃんとも相談して、お願いさせていただくことにしました」
月乃と三ネコの動作を見ておとなりさんは微笑み、頷いたあとでお願いをした。
今後、スノードームやテイクのメンバーがいる場でも、栞はおとなりさんをおとなりさんと呼びたい、おとなりさんは栞からおとなりさんと呼ばれたい。
そう、栞とおとなりさんの希望が一致した。
となると、スノードームやテイクのメンバーからも、おとなりさん呼びをしてもらったほうが、同じ人物に対して何種類もの名前が飛び交わずに済み、わかりやすいのではと考えた。
テイク関係では互いを名前で呼ぶことが多いそうだけど、おとなりさんは第二の名前のようなものでもあるし、お願いしてみようということになった、というわけである。
ちなみに栞のほうは、テイクと文をやりとりしている過程で、名前の栞に、さんを付けて呼ばれる形になった。
おとなりさんは栞ちゃん呼びだけど、栞の部分は共通だから、この場での呼ばれ方が全部一致していなくてもいいかなと思っている。
スノードームが栞をどう呼ぶかは、この面談中に機会をつくってもらって、訊いたり決めたりできればいいな、と思う。
直接耳にすることはないとしても、やりとりの中でスノードームが呼ぶことはあるだろうから。
呼ばれ方の希望を伝えたり、呼び方の希望を訊いたりを、したいし、できれば、と思っている。
おとなりさん呼びで、というおとなりさんの願いに、月乃は、かしこまりました、という返事をした。
「そういうことでしたら、おとなりさんと呼ばせていただきます」
「ありがとうございます。呼ぶときの音の並びは、そのときどきで言いやすい感じで。おまかせします」
おとなりさんの説明に、はいと返事をした月乃は、ノートパソコンをちらっと見てから、おとなりさんに視線を戻し、口を開く。
「念のため、お伺いしますが、おとなりさん呼びで、呼び捨てされているような感覚はありますか? おとなりさんさん、といった感じの呼び方のほうがよいでしょうか」
「あ、いえ。それですと、お天気について話をしている気分に……。おとなりさん、だけでかまいません。呼び捨てにされたとは感じませんから」
「わかりました。では、おとなりさん、という形で呼ばせていただきます」
月乃の言葉に合わせて三ネコがお辞儀をし、姿勢を戻す。
再度お礼を言うおとなりさんの横で、栞もお辞儀をし、体を起こした。
月乃が、栞とおとなりさんを見て口を開く。
「それから……あらためましてお礼を。栞さんもおとなりさんも、この場所まで来てくださりありがとうございます」
「あっ、それは、こちらこそ! 昨日の今日で珠水村からここまで長距離移動を。ありがとうございます」
栞はあわててお礼を言う。
「どういたしまして。運転などで関わったメンバーたちにも、のちほど伝えます」
「はい。お願いします。――そうだ! スノードームの方たちも! せっかく珠水村まで行ったのに、はやく帰ってきてもらうことになっちゃってごめんなさい」
栞が謝ると、七色のトナカイたちはそれぞれ、首や持ち上げた片足を、いそがしく左右に振った。
「――帰ってるんだ、帰ろう、とは思ったけれど、せっかく来たのにもう? という気持ちにはならなかったし、謝らないで――といったようなことを、おっしゃっています」
そう、月乃が言う。
「そうなんですね。教えてくださって、ありがとうございます。――ありがとう。おかえりなさい」
栞は月乃へのお礼のあとで、七色のトナカイたちに声をかけた。
七色のトナカイたちが、ぴょんと跳ねたり、お辞儀のような仕草をしたり、片方の前足を持ち上げたり。
「ただいま、とおっしゃっています」
七色のトナカイたちが姿勢を戻すあたりで月乃が言う。
栞は月乃に会釈をし、七色のトナカイたちに微笑みかけた。そして再び月乃のほうを見る。
「あの、月乃さんは、スノードームの方たちの声が聞こえるんですか?」
「いえ。私には聞こえません。三ネコに教えてもらってお伝えしました」
答えた月乃が説明する。
三ネコやスノードームは、物に精神が生じた存在。
テイクでは、カタカナでモノと表現する。
人、何人、一人二人、といった言い方もする。
モノの声が聞こえる人間もいるけれど、月乃はだいたいの場合において、モノの声を聞くことができない。
三ネコは入力などによって、月乃たちにモノの言葉を伝えることができる。
また、月乃の端末にならば、月乃に触れていれば、三ネコが話したことを、入力しなくても表示できる。
今回、三ネコは伝え役と入力役を担い、同席している。
そう月乃が説明すると、三ネコが、よりいっそう優雅な感じのお辞儀を披露した。
栞とおとなりさんは、よろしくお願いしますとお辞儀を返す。
月乃の案内でいくつか操作をし、栞やおとなりさんのスマホでも、入力された言葉を読めるようにした。
トキがノートパソコンのほうへ。
キーボードのあたりにいるようだ。
少しして、栞のスマホ画面に多くの文字が表示された。おとなりさんのスマホ画面にも表示されたようだ。
〈トキ『このように表示されます。ご参考までに。入力者が話す場合は、基本的には、声にも出しつつ入力もします。なお、名前についてですが、サンタ、ツリー、リースと短くして入力したり呼んだりしてかまわないとのことですので、そうさせていただいています』〉
赤、黄、緑のトナカイが頷く。
〈リースさん『テイクさんだけでなく、持ち主さんもおとなりさんも、短いバージョンのほうをどうぞ! 口調も、お二人が好きな感じで話してね。で、ボクのほうなんだけど、ボクわりとこういう話し方なんだけど、丁寧な口調をお二人が希望するなら、そちらを頑張るよ!』〉
リースの言葉を読み、栞は口を開く。
「呼び方や口調、そうさせてもらうね。そして、リースさんももちろん、スノードームさんみなさん、私には、それぞれ話しやすい感じで話してもらえればと思うよ」
「私に対しても、無理のない口調で話してもらえれば」
そう、おとなりさんも答える。
〈リースさん『ありがとう! それと、ボクたち全体として、スノードームン、って名乗ってるんだ。テイクさんにもそう名乗った。持ち主さんがしてくれる挨拶から決めた名前なんだけど、今後も使わせてもらえると嬉しいな』〉
「私の挨拶?」
〈リースさん『うん! いってくるね、スノードームッ、スノードームンただいまー、おはよースノードームーといった感じから』〉
「そうなの?」
(私、そういう感じで言ってる?)
頭の中で、自分の挨拶を再現してみる。
(あ、なんとなく……)
「そう聞こえそうな感じかも。えっと、今後も使うことを止める気はないよ」
〈リースさん『ありがとう! 持ち主さんもおとなりさんも、もしよかったらボクたちみんなを呼ぶときに、スノードームン、使ってね』〉
「うん」
「ありがとう。使わせてもらうわね」
栞とおとなりさんが返事をする。
相手からの言葉は文、こちらからは声。
でもかなりスムーズに、やりとりできている気がする。
あと、想像以上に、相手はたくさんの内容を言葉にしているのだと知った。嬉しい驚きだ。知る方法があってよかったと思う。
(そうだ。私も)
栞は再び口を開く。
「私の呼び方だけど、持ち主さんでもいいんだけど、名前で呼ぶのでもいいし、好きな感じで呼んでね」
〈リースさん『わーい! 名前ー! 栞さんちゃん? 栞ちゃんさん?』〉
〈家さん『そこはどちらかだけでもいいような』〉
〈リースさん『栞さんさん? 栞ちゃんちゃん?』〉
〈ツリーさん『お天気か料理の話になってませんか?』〉
画面の文を読み、栞は思わず笑う。
協議の結果? メインの呼び方は、栞さん呼びで落ち着いたようである。
サンタは、栞どんと呼んだりもするかもしれないとのこと。
なんとなく、歴史上の人物が栞の頭をよぎったけれど、反対したいわけではない。
詳しい話に入る前の、必要なやりとりがいろいろできたかなというあたりで、月乃が少し姿勢を正して口を開く。
「ここでテイクから、お願いしたいことがありまして」
そういった言葉から入り、月乃は続ける。
テイクの役割、立ち位置。活動しているメンバーの意思。
モノや持ち主と、テイクとの関係。
今後、テイクが長期的に関わり、対応していくことに対して、許可をもらえるとありがたい。
珠水村で話をする中で、スノードームンからは、先に許可をもらう形になった。
ただし現時点では、栞の返事を聞いて考え直すかも、という形に変わっている。
おおまかに言うと、そういった話だ。
いくつかのサポート事例、費用関係のこと、サポートの方向性は対象者たちの意向を聞きながら考えていく、といった話も聞いた。
「私が先に返事をしてもいい?」
栞がおとなりさんに訊くと、おとなりさんは、ええ、もちろん、と答えた。
栞は月乃のほうを見て口を開く。
「今の時点では、お断りしたいとは考えていません。テイクの方と、長く、よい関係でいられると嬉しいです。スノードームンさんがすごしやすいように、そして、できることなら、私ともおとなりさんとも、お互いに嬉しい関係を築いていけるように、いろいろとサポートも、お願いできればと思っています。よろしくお願いいたします」
栞は言ってお辞儀をし、体を起こす。
テイクのサポート力は、この時点ですでに感じているし、ここまでのやりとりで、今後つきあうのはちょっと……と思うような出来事は起きていない。
現時点では、拒否したい気持ちはなく、関わりとサポートをお願いしたいと思える状態だ。
「おとなりさんはどう?」
おとなりさんを見て栞が訊くと、まず大前提として、と、おとなりさん。
「私にも訊いてくれることを嬉しく感じはするけれど、私がどう考えたとしても、スノードームンさんや栞ちゃんがどう考えるかのほうが大事よ?」
栞と七色のトナカイたちが頷く動作をしてから、おとなりさんは、そのうえで私の返事は、と再び話し始める。
「現時点では、栞ちゃんが言ったのと、ほぼ同じ感じの気持ちや返事よ」
おとなりさんは言い、月乃と三ネコに、よろしくお願いいたしますとお辞儀をして、体を起こした。
〈リースさん『スノードームンの中で、許可したくないって人は、後ろを向いてー!』〉
七色のトナカイ全員、前を向いたまま。
〈リースさん『はい! というわけで、よろしくお願いします!』〉
七色のトナカイ全員が、お辞儀のような動作をし、姿勢を戻した。
「スノードームンさん、栞さん、おとなりさん、こちらこそどうぞ、よろしくお願いいたします」
月乃が言ってお辞儀をする。
月乃が体を起こしたあとで、月乃の頭の上と左肩上に姿勢よく座ったヴァンとサー、そして長テーブル上、ノートパソコン横に姿勢よく座ったトキが、お辞儀をし、体を起こした。
そしてトキは再び、キーボードのほうに行く。
お読みくださり、ありがとうございます。
次の投稿は、11/22(土)夕方~11/23(日)朝あたりを予定しています【2025年11/16(日)現在】
(状況によっては、それよりあとの、(土)夕方~(日)朝あたりになるかもしれません)
今後もどうぞよろしくお願いいたします。




