「12月、この月だから?」1.空を
十二月前半の、ある日。昼前。
珠水村に戻るため、すずめの姿で空を行くいちとせは、後ろから近づいてくる存在たちがいると気づいた。
念のため少し高度を上げてから向きを変え、状況を見つつ近づいていき、存在たちの姿を確認する。
存在は七体。
それぞれ、トナカイ、ソリ、サンタクロースなど、クリスマスを思い浮かべさせる見た目だ。
存在たちは、空中に地面があるかのように、全員同じ高さの位置を保ったまま、前へと進んでいる。
一体を先頭に、一列で空を進む存在たち。
(そうかなと思いましたが、やはり、モノの方たち……精神体のみで動いている状態ですね)
物に精神が生じた存在を、いちとせが所属するテイクでは、カタカナでモノと表現する。一人、二人といった言い方もする。
いちとせ自身、人の姿にもすずめの姿にもなれるが、着物に精神が生じたモノである。
七体は、テイクがまだ把握していない存在と思われるので、鑑定担当による鑑定前である確率が高い。
そのため厳密に言うのならば、おそらくモノであろう存在たち、ではあるが。
いちとせは、その存在がモノであるか、だいたいはわかる。
いちとせとしては、七体がモノであると判断したので、ひとまず、モノ、として考え、何人と表現することにしようと思う。
(あの方たちは、クリスマス関係の置物? でしょうか……)
陶磁器っぽい質感をした物に見える。
精神体であるためか、若干、透け気味だ。
先頭を行くのは、トナカイ。
薄灰茶色。
そのあとに続くのは。
ソリ。
赤みがかった濃い茶色基調。
サンタクロース。
赤と白ベースの衣装と、ボリュームのある白ひげ。
クリスマスツリー。
てっぺんの星を含む、いろいろな飾りつき。
クリスマスリース。
ピンク色の大きなリボンが印象的。
家。
煙突つきログハウス風。
二段の雪だるま。
水色のマフラーをしている。
それぞれ、今いちとせが目にしている時点でのサイズとしては、二リットルのペットボトルの高さをイメージして考える感じだろうか。
トナカイとソリの長さ、サンタクロースとクリスマスツリーと家と雪だるまの高さ、クリスマスリースの直径がそれぞれ、そのサイズに近い気がする。
実物で考えると、おかしなサイズ設定だ。
ドアなどにかけることが多いであろうリースと家がほぼ同じ高さ、家と匹敵する高さの雪だるま、煙突を通ることは不可能そうなサイズのサンタクロース、等。
だが、置物などの場合、実物と同じ感じにしないこともあるだろうし、別にいいのかなとも思う。
(そもそも、本体がこのサイズかは、わかりませんし……)
モノが、本体の物の姿でモノとして動くとき、実際の本体の大きさではないサイズの感じで動くことも多い。
本体より大きな存在として身動きしたり、など。
そして精神体のときは更に、本体のサイズにとらわれないモノが多いので、精神体を見ても、本体のサイズ把握の参考にはならなかったりする。
(それにしてもこの方たち、空を走っていますよね)
飛ぶでもなく、跳ぶでもなく、滑るでもなく。
トナカイやサンタクロースは明らかに走っているとわかる動きをしているし、ほかのモノたちも、空に地面があるとして、接地面に近いあたりを、左右交互に前に出している感じがするというか。
こう、縦一列でランニング中、といった印象を受ける動きを、七人みんなでしているのだ。
ランニングをよくするいちとせとしては、一方的にではあるが、親近感を覚える。
(とはいえ、クリスマスに向けて体力づくり……といった理由からの行動ではないようで……)
なぜなら、七人が自分たちで言っているからだ。
いちとせは、すずめの姿でも、人の声もモノの声も聞くことができ、モノが発声しているのと同じ感じでならば話すことができる。
七人が発している声、言葉。
近づくにつれて、しっかりと内容まで聞き取れるようになってきた。
誰か一人がまず声を出し、続いて、ほかの者たちが同じことを言う。
『しゅっすいむらっ』
『しゅっすいむらっ』
『テッイック』
『テッイック』
『きいてみよっう』
『きいてみよっう』
『でっも、すっがたを、こっえを』
『でっも、すっがたを、こっえを』
『見ってもらえるかなっ、聞いてもらえるっかなっ』
『見ってもらえるかなっ、聞いてもらえるっかなっ』
『わっからないっ、だっけどっ』
『わっからないっ、だっけどっ』
『そっうだんめっざして、レッツゴー』
『そっうだんめっざして、レッツゴー』
とのことである。
珠水村、テイク、相談できる、といった情報を持っているようだ。
そして、姿を見てもらえるか、声を聞いてもらえるかわからないけれど、相談したいと思っているようである。
張りのある声、元気な声、太めの声、理知的な響きの声、高めの声、ソフトな声、涼やかな声。
悲壮感や緊迫感といったものは感じられない。前向きで明るめな雰囲気だ。
要警戒状態になってしまっている存在でもない。
付近に、警戒が必要な超常的存在がいるというテイクからの警告は、今現在ないからだ。
いちとせは、すずめの姿でも、テイクとやりとりできる。
(まずは、案内を申し出てみましょうか……)
いちとせは更に七人へと近づいていき、声をかけた。
全体として、スノードームン、と名乗った七人とやりとりし、テイクともやりとりし。
相談内容などを聞くための部屋まで、いちとせが案内すると決まった。
スノードームンは、目指すところへの、だいたいの行き方がわかるそうだ。
一方、いちとせの場合は、実際に珠水村に向かい慣れているし、部屋への行き方もわかる。
いちとせが、スノードームンの少し前を行く形で進むことになった。
いろいろと気を配ることを意識しながら空を行くいちとせ、空を走るスノードームン。
(私では、まだまだ足りない面ばかりだとは思いますが……駅伝やマラソンの先導役の方たちに、少しだけでも近づけた気がして、嬉しいですね)
心の中で微笑みながら、いちとせは空を進んでいく。
お読みくださり、ありがとうございます。
次の投稿は、9/6(土)夕方~9/7(日)朝あたりを予定しています【2025年8/31(日)現在】
(状況によっては、9/13(土)夕方~9/14(日)朝あたりになるかもしれません)
今後もどうぞよろしくお願いいたします。