表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/91

「12月、この月だから?」1.空を


 十二月前半の、ある日。昼前。


 珠水村しゅすいむらに戻るため、すずめの姿で空を行くいちとせは、後ろから近づいてくる存在たちがいると気づいた。


 念のため少し高度を上げてから向きを変え、状況を見つつ近づいていき、存在たちの姿を確認する。


 存在は七体。

 それぞれ、トナカイ、ソリ、サンタクロースなど、クリスマスを思い浮かべさせる見た目だ。


 存在たちは、空中に地面があるかのように、全員同じ高さの位置を保ったまま、前へと進んでいる。

 一体を先頭に、一列で空を進む存在たち。


(そうかなと思いましたが、やはり、モノの方たち……精神体のみで動いている状態ですね)


 物に精神が生じた存在を、いちとせが所属するテイクでは、カタカナでモノと表現する。一人、二人といった言い方もする。


 いちとせ自身、人の姿にもすずめの姿にもなれるが、着物に精神が生じたモノである。


 七体は、テイクがまだ把握していない存在と思われるので、鑑定担当による鑑定前である確率が高い。

 そのため厳密に言うのならば、おそらくモノであろう存在たち、ではあるが。


 いちとせは、その存在がモノであるか、だいたいはわかる。

 いちとせとしては、七体がモノであると判断したので、ひとまず、モノ、として考え、何人と表現することにしようと思う。


(あの方たちは、クリスマス関係の置物? でしょうか……)


 陶磁器っぽい質感をした物に見える。

 精神体であるためか、若干、透け気味だ。


 先頭を行くのは、トナカイ。

 薄灰茶色。


 そのあとに続くのは。


 ソリ。

 赤みがかった濃い茶色基調。


 サンタクロース。

 赤と白ベースの衣装と、ボリュームのある白ひげ。


 クリスマスツリー。

 てっぺんの星を含む、いろいろな飾りつき。


 クリスマスリース。

 ピンク色の大きなリボンが印象的。


 家。

 煙突つきログハウス風。


 二段の雪だるま。

 水色のマフラーをしている。


 それぞれ、今いちとせが目にしている時点でのサイズとしては、二リットルのペットボトルの高さをイメージして考える感じだろうか。


 トナカイとソリの長さ、サンタクロースとクリスマスツリーと家と雪だるまの高さ、クリスマスリースの直径がそれぞれ、そのサイズに近い気がする。


 実物で考えると、おかしなサイズ設定だ。

 ドアなどにかけることが多いであろうリースと家がほぼ同じ高さ、家と匹敵する高さの雪だるま、煙突を通ることは不可能そうなサイズのサンタクロース、等。


 だが、置物などの場合、実物と同じ感じにしないこともあるだろうし、別にいいのかなとも思う。


(そもそも、本体がこのサイズかは、わかりませんし……)


 モノが、本体の物の姿でモノとして動くとき、実際の本体の大きさではないサイズの感じで動くことも多い。

 本体より大きな存在として身動きしたり、など。


 そして精神体のときは更に、本体のサイズにとらわれないモノが多いので、精神体を見ても、本体のサイズ把握の参考にはならなかったりする。


(それにしてもこの方たち、空を走っていますよね)


 飛ぶでもなく、跳ぶでもなく、滑るでもなく。


 トナカイやサンタクロースは明らかに走っているとわかる動きをしているし、ほかのモノたちも、空に地面があるとして、接地面に近いあたりを、左右交互に前に出している感じがするというか。


 こう、縦一列でランニング中、といった印象を受ける動きを、七人みんなでしているのだ。


 ランニングをよくするいちとせとしては、一方的にではあるが、親近感を覚える。


(とはいえ、クリスマスに向けて体力づくり……といった理由からの行動ではないようで……)


 なぜなら、七人が自分たちで言っているからだ。


 いちとせは、すずめの姿でも、人の声もモノの声も聞くことができ、モノが発声しているのと同じ感じでならば話すことができる。


 七人が発している声、言葉。

 近づくにつれて、しっかりと内容まで聞き取れるようになってきた。


 誰か一人がまず声を出し、続いて、ほかの者たちが同じことを言う。


『しゅっすいむらっ』

『しゅっすいむらっ』


『テッイック』

『テッイック』


『きいてみよっう』

『きいてみよっう』


『でっも、すっがたを、こっえを』

『でっも、すっがたを、こっえを』


『見ってもらえるかなっ、聞いてもらえるっかなっ』

『見ってもらえるかなっ、聞いてもらえるっかなっ』


『わっからないっ、だっけどっ』

『わっからないっ、だっけどっ』


『そっうだんめっざして、レッツゴー』

『そっうだんめっざして、レッツゴー』


 とのことである。


 珠水村、テイク、相談できる、といった情報を持っているようだ。

 そして、姿を見てもらえるか、声を聞いてもらえるかわからないけれど、相談したいと思っているようである。


 張りのある声、元気な声、太めの声、理知的な響きの声、高めの声、ソフトな声、涼やかな声。


 悲壮感や緊迫感といったものは感じられない。前向きで明るめな雰囲気だ。


 要警戒状態になってしまっている存在でもない。

 付近に、警戒が必要な超常的存在がいるというテイクからの警告は、今現在ないからだ。

 いちとせは、すずめの姿でも、テイクとやりとりできる。


(まずは、案内を申し出てみましょうか……)


 いちとせは更に七人へと近づいていき、声をかけた。




 全体として、スノードームン、と名乗った七人とやりとりし、テイクともやりとりし。

 相談内容などを聞くための部屋まで、いちとせが案内すると決まった。


 スノードームンは、目指すところへの、だいたいの行き方がわかるそうだ。

 一方、いちとせの場合は、実際に珠水村に向かい慣れているし、部屋への行き方もわかる。


 いちとせが、スノードームンの少し前を行く形で進むことになった。



 いろいろと気を配ることを意識しながら空を行くいちとせ、空を走るスノードームン。


(私では、まだまだ足りない面ばかりだとは思いますが……駅伝やマラソンの先導役の方たちに、少しだけでも近づけた気がして、嬉しいですね)


 心の中で微笑みながら、いちとせは空を進んでいく。




お読みくださり、ありがとうございます。


次の投稿は、9/6(土)夕方~9/7(日)朝あたりを予定しています【2025年8/31(日)現在】

(状況によっては、9/13(土)夕方~9/14(日)朝あたりになるかもしれません)


今後もどうぞよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ