「11月、秋、いろいろ」13.綺麗
「では、コティさんのところへ行ってみましょう」
「はい」
〈佐風さん『よろしくです!』〉
行が言い、佐々木と佐風が返事をした。
歩きだした行と文に続いて、佐々木も歩き始める。
佐風である風鈴つきのカバンは、佐々木が肩にかけている。
佐風の言葉の入力役は、カルーセルから降りた今、再び文だ。
コティは、回る床面の上で、数人が座って乗れる各カップそれぞれも回る、コーヒーカップやティーカップといった名前で呼ばれるアトラクションのモノだ。
コティがいろいろと対応してくれるので、乗った者や物が落ちることはない。
カップ内のハンドルを、カップに乗った者たちで回すこともできるが、コティに回転操作を頼むこともできる。
どのくらいの速さの回転で、といったことにも対応してくれる。
所要時間という言い方でいいのだろうか。
乗って回り始めてから停止して降りるまでの時間は、コティの場合、かなり長めとのことだ。
佐々木たち一行がコティ付近に着いたときもコティは回転中で、床が回り、各カップが回り。
〈佐風さん『回転オン回転? アンド回転? プラス回転? テンテンテテテンテンテテテン?』〉
〈文『よっ!』〉
〈佐風さん『どもども!』〉
二人のやりとりを読んで、佐々木は思わず笑う。
洋風デザインのカップの前で、鼓や和傘を手に和装で回る、佐風と文の姿がちらりと頭に浮かんだ。
浮かんだその場面、佐々木にとっては、なかなかにインパクトのあるもの。
だが、目の前の光景のほうも、どれもなかなかに、なかなかである。
オレンジ色のカップ。
真ん中のハンドル上に三段のスタンド。
スタンドにセットしたお皿に並ぶ、ケーキやスコーンやサンドイッチらしきもの。
ゆったりゆっくり回りつつお茶会、といった感じの高砂コンビと、あんず。
椅子部分の空いているスペースもテーブルとして使い、ポットや取り皿や飲み物用のティーカップなどは、そちらに置いているようだ。
このカップ内はまぁ、あ、おいしそう、楽しそう、なんか優雅、と佐々木としても穏やかに受けとめられる。
もちろん、どこででも見られる光景ではない、ということはわかっている。
コティというモノであるアトラクションに乗った状態で、おそらくコトハの飲食機能付与の能力によるものもプラスして、この状況なのだろうから。
ただ、佐々木的に、より衝撃的なのは、ほか二か所。
スピードましましで回っているらしき、おそらく二つのカップ。
それらの状況状態である。
まずは黄色のカップ。
椅子部分に座ってはいるが、両腕を上げて上体を大きく反らし、フィギュアスケートの、あるシーンを思い出させるような格好で乗る杏と。
杏の斜め向かいで、座面ではなく背もたれ上、カップの縁に両足で立ち、両手を大きく上にーの状態になっていると思わしき、ひっつーと。
その体勢の二人が乗っているカップの、回る速度は、かなり高速。
ただ、かろうじてまだ佐々木にも、乗っている二人の様子が視認できる。
二人に見えている景色はどんなだろうと、想像してみる余裕も、なくはない。
しかしもう一か所のほうは……。
(速すぎて見えない……って、こういうところで使うセリフだっただろうか……)
「あのー……、あちらの、残像しか見えないって感じのところ、カップが回ってるんですよね?」
佐々木、もうここは、訊くことにした。
「あ、はい。いつもの感じからいくと、おそらく。たぶん……茶が乗っていると思うのですが」
〈文『茶が乗っています! というかカップの縁に立っています! あ、カップ汚れたりしないので大丈夫です!』〉
(あっ、うん……)
心配するのは、というか、大丈夫だと請け合うのは、そこではない気がしなくもないが。
胸中で渦巻く思いを佐々木はひとまず抑え、答えてくれた行と文にお礼を言う。
しかし、カップの縁に立っているという、茶運び人形である茶の姿。それなりに目立ちそうなものだが、聞いたあとで目をこらしても、佐々木には見えない……。
〈佐風さん『コティさん、すごく速く回れるんだ! 茶さんもコティさんもすごい! けど二人とも目、回らないのか?』〉
〈文『毎回こんな感じですが大丈夫です!』〉
「そして文もよく、一緒にあの状態です」
〈文『です!』〉
行が加えた説明に、文が勢いよく頷きながら返事をする。
(これは、要相談だ)
佐々木は佐風に向かって口を開く。
「佐風ー、僕は一応、ゆったりスピードにしときたいなーと思うんだけど」
〈佐風さん『わかった! あ、でも、あとのほうとかで、できたら、ちょっとだけでも、高速回転も試してみたいなー、なんて』〉
「んー、まぁそうだね……せっかくだし、試してみるのもいいかも?」
乗り終えたあと、観覧車までに体調を整える時間も、とろうと思えばとることができそうだし。
と、ここで、区切りのタイミングになったらしく、コティの回転が止まった。
(えっ、徐々にスピードダウンとかじゃないんだ)
急ブレーキどころではない急激な止まり具合だったように思えたが、杏とひっつーは、ジャン! という感じでしっかりポーズをとっている。
高砂コンビとあんずは、止まったカップの中でも、優雅なティータイムを継続中だ。
そして、赤いカップの縁には、本当に、茶が立っていた。
なんかこう、私、いつもここにいますよ、という感じに自然に立っている。
茶が、佐々木たちのいるほうを見た。
(あ、手を振ってる、あ、振り返してる)
茶が手を振り、文が振り返し。
とだけ言うと穏やかな感じだが。
(手って、こんなに速く振れるものなんだ……)
気を取り直して? 佐々木と佐風もコティ上に行き、乗るカップを決めることにする。
コティ上では、コティが入力役をしてくれる。
文は、ダーッと走って、茶がいるカップに向かった。
少し遅れて着いた行によって、文もカップの縁上、茶の斜め向かいあたりに。
行は文茶コンビと同じカップに同席――はせず、コティから降りて近くのベンチへ。コティには乗らず、座って待つようである。
佐々木と佐風は、現時点で空いているあたりへと進み、緑色のカップに乗ることにした。
佐風の希望を聞き、風鈴がカップの内側を向く感じで、カップの縁に風鈴つきのカバンを置く。
明らかにバランスが悪そうな置き方だが、落ちそうな様子はまったくない。
(とはいえ)
「コティさんだから落ちることはないにしても、佐風的には、これ大丈夫?」
〈佐風さん『大丈夫だ。不安な感じは特にないぞ!』〉
「そっか。じゃ、これでいってみよう」
佐々木はカバンから離れて座席へ。
位置的には、ハンドルをはさんで、佐風の斜め向かいあたり。
深めに腰かけてから、佐々木は、お待たせしましたと声を出した。
〈コティ『ようこそいらっしゃいました。基本はゆっくりめの回転ですので、変更を希望される際は、お申しつけください。回り終わりの急なストップも、ご希望の場合は言ってくだされば対応します。なお、途中でお降りになりたい状況に、もしなりましたら、ご相談ください。それでは、回り始めます』〉
「お願いします」
〈佐風さん『楽しみです!』〉
佐々木と佐風が答えたあたりで、床やカップが動きだす。
しばらくは基本のゆっくりめの回転で乗ってみる予定だし、オプションと判明した急なストップを申し込むつもりも、今のところ佐々木にはない。
なのでまずは乗っているのみ、という感じなのだが。
(ゆっくりめ……ではあるんだろうけど……)
ゆったりまったり気分で……とは、どうやら佐々木としては、いかないようだ。
独特な回る感、引っ張られる感というか押される感というか。なんとも心許ない気分になる。
〈佐風さん『おおー。この、体が持ってかれるような独特な感じ。風に吹かれるときともまた違うし。主導権を手放すような?』〉
(主導権か……)
手放してもコティ上なら振り落とされないから大丈夫だろうし、コティに乗る場合は、身をまかせてみるのがいいとか?
いろいろな動きの中で自身を保とうとしていたがそれをやめ、体が動くままにしてみた。
(あ、なんかかえって安定したような? おもしろいな……)
少し余裕が出てきて、あたりの景色に目を向けたりもしてみる。
けっこう回ったな、と思った頃。
〈コティ『残り回転時間、三分の一といったあたりになりました』〉
〈佐風さん『おっ。佐々木、佐々木。もし大丈夫そうなら、高速回転、試してみてもいいか?』〉
「いいよ」
乗る前の佐々木の返事を盾にとることなく、再度訊いてくれたのだ。佐々木としても頭から拒否することなく、できるだけつきあいたい。
「あ、でも、徐々にスピードアップで……無理な速さになったら、無理って言わせてもらえると助かる」
つきあいたいが、ついていけるかはまた別である。
〈佐風さん『もちろんだ! ちゃんと言ってくれな! ではコティさん、徐々にスピードアップよろしくです』〉
〈コティ『かしこまりました』〉
そして段階的に、高速になっていくカップの回転。
佐々木としては、自己評価としては、わりと頑張った、が。
「ごめん、無理ー」
たぶん、杏たちのところのスピードになるまで、まだまだありそうというあたりで、佐々木は言葉にした。
〈佐風さん『わかった! コティさん、徐々に、のほうがいいのかな、スピードダウンよろしくです』〉
〈コティ『かしこまりました』〉
次第にゆっくり回転になり、佐々木にも若干の余裕が訪れた。
〈佐風さん『気分とか体調とか大丈夫か?』〉
「大丈夫。ありがとう。――観さんに乗せてもらったあととかで、またここに来て……、僕は今度はベンチにいるか、違うカップでゆっくり回っているから、佐風は心ゆくまで高速回転を」
佐々木がブレーキをかけたままでは申し訳ないし、もったいない。
〈佐風さん『責めるっていうより、つきあってくれてありがとな、って気分だけど……、お言葉に甘えて、あとでまた乗せてもらって、速く回してもらおうかな!』〉
そういったことを話したりしているうちに、区切りの時間となったようだ。
〈コティ『まもなくいったん止まります』〉
無理のないペースで回転速度が落ちていき、自然な感じで停止した。
「ありがとうございます」
〈佐風さん『ありがとです!』〉
〈コティ『どういたしまして。今後もよろしくお願いできれば嬉しいです』〉
「こちらこそお願いします」
〈佐風さん『どうぞよろしくです!』〉
コティと言葉を交わしてから、佐々木は風鈴つきカバンの近くへ。
〈佐風さん『超高速回転も気にはなるけど、ゆっくりはゆっくりで楽しかった』〉
「よかった。僕も、ゆっくりなら楽しめそうな感じになったと思う。佐風が超高速回転を試すときは、おおおーって眺めているから、たっぷりどうぞ」
佐々木が微笑んで言うと、佐風は、おう! 試してみるぞ、おおー! と返事をした。
その後、観覧車の観に乗り、夕暮れどきの変化する眺めを味わい、暗くなってからの眺めも、たっぷりと見て楽しみ。
数周したのち観覧車から降りて、再びコティのところへ。
ぶんぶん高速で回転する、佐風が乗ったカップ。
佐々木はベンチから、おおーっと若干開け気味の口も閉じぬまま見ていた。
そして次に、ゴージャスな雰囲気にライトアップされた、カルーセルのルーセのところへ。
再び、外側の馬に佐風、真ん中の列の馬に佐々木という並びで乗った。
夜のカルーセル。華やかで、幻想的で。お城の夜会に迷い込んだような気にもなってくる。
回転が止まり、馬から降りる前に佐々木はもう一度、ルーセ内部や周りを眺めた。
観もコティもルーセも、それぞれの魅力を活かして、とても素敵な時間をつくり出してくれている。
〈佐風さん『綺麗な眺め、それぞれ楽しかった。結界内含め、世界には、いろんな綺麗がたくさんあるんだろうな。佐々木、一緒にいろいろ見ような!』〉
「うん。そうしよう」
佐々木は隣の馬上にいる佐風を見て、笑って頷く。
綺麗だけで満たすことはできないとしても、たくさんの綺麗を、佐風とともに。そう思う。
〈佐風さん『また来たいな! また一緒に来ような!』〉
ミニ遊の出入り口に向かって歩く中、佐風が言葉にする。
「うん。ぜひまた一緒に、何度も」
佐々木が言うと、佐風である風鈴が、楽しげに音を響かせた。
お読みくださり、ありがとうございます。
次からは、12月を題材とした話に入ります。
次の投稿は、8/30(土)夕方~8/31(日)朝あたりを予定しています【2025年8/24(日)現在】
(状況によっては、9/6(土)夕方~9/7(日)朝あたりになるかもしれません)
今後もどうぞよろしくお願いいたします。
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【後日、11月12を改稿予定です。よろしくお願いいたします】
・〈文『乗ります! 僕は、→〈文『乗ります! 私は、




