「11月、秋、いろいろ」12.かいてんかいてん
観覧車二周目も楽しく乗り、降りる位置が近づいてきた。
「ありがとうございました。またのちほどお願いします」
言って一度お辞儀をしてから、佐々木は腰をあげる。
〈佐風さん『楽しかったです! またあとでよろしくです! ――佐々木! カバン持ってもらって大丈夫だ! よろしく!』〉
「ほいよっと」
佐々木は返事をしつつ、佐風である風鈴をつけた状態のカバンに手を伸ばし、肩にかける。
〈観『またのお越しを楽しみにお待ちしております。ドアが開きます』〉
風鈴つきカバンとともに佐々木が降りると、行と文が出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「ただいまです。ありがとうございます」
微笑む行に会釈を返し、行と文の二人に、出迎えてくれたことへのお礼を言う。
〈佐風さん『ただいまです! 楽しかった!』〉
佐々木と佐風が観覧車から降りたので、佐風の言葉の入力役は、再び文がしてくれている。
〈佐風さん『次は、ルーセさんという方のところですね!』〉
佐風の言葉に行が頷く。
「はい。ご案内します」
〈佐風さん『よろしくです!』〉
「お願いします」
佐風に続き、佐々木も言葉にした。
ミニ遊の奥に向かって行と文が歩きだす。
風鈴つきカバンを肩にかけた状態のまま、佐々木も足を踏み出した。
佐風の言うルーセさんとは、カルーセル。
ミニ遊を居場所とする、アトラクションのモノだ。
回転木馬。
メリーゴーランドという名を、過去の佐々木は先に知った気がする。メリーゴーラウンドかもしれないが。
ルーセは、カルーセルと呼ばれる物らしい。
歩いていくと、その姿が見えてきた。
(……二階建てだ。大きい。それに、なんか豪華そう)
たとえばヨーロッパにある宮殿の前とかにいても似合いそうな。
近づくにしたがって目に入ってくる、凝った装飾の数々。
素敵だが、佐々木としては若干近寄りがたさを感じるほどの素敵さだ。
佐々木は思わず足を止めた。
気づいたのか行と文も立ち止まり、佐々木のほうを見る。
それからさほど間を置かず、佐々木が手に持っているスマホが振動。
通知音から振動で知らせる設定に、観覧車内にいるときに変えていた。
画面を見る。
〈佐風さん『はい! お言葉に甘えて。よろしくです!』〉
〈佐風さん『佐々木! ルーセさんが、ようこそ、かまえなくて大丈夫なので、気楽に楽しく遊んでいってくださいね、これからどうぞよろしく――って』〉
(わっ、そうなんだ。なんか、気さくに話してくれている感じっぽい……?)
佐々木が一方的に気圧されただけかもしれない。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
佐々木は少し安心して、ルーセに向かって大きめの声を出し、一度お辞儀をした。
〈佐風さん『はい! わかりました!』〉
〈佐風さん『ルーセさんが、よろしくね! 回り始めたところだから、乗れるまで時間がかかるけれど、どれに乗ってみたいか、ゆっくり考えたりしていてくださいね、って』〉
「わかった。教えてくれてありがとう。――すみません、急に止まっちゃって。進みますね」
佐風に返事をし、ルーセに向かって会釈をしてから、佐々木は行と文と佐風に言う。
「お気になさらず。――では、近くに行きましょうか」
微笑んで返してくれた行が、前を向いてルーセのほうへ歩き始め、文も続く。
佐々木も再び足を動かし始めた。
今度はカルーセルの近くで足を止める。
〈佐風さん『初、カルーセル! ときたら、やっぱりここは、馬に乗せてもらいたい! 二階も気になるけど、まずは一階かな』〉
「ふむふむ。どういう感じで乗せてもらう? 僕が肩にかけたまま? それともカバンを置く?」
〈佐風さん『んー……ルーセさんじゃないと、できなそうな乗り方ってことで、カバンを置いてもらうほうで!』〉
「了解ー」
確かに、ほかの回転木馬なら、馬の上に風鈴つきのカバンだけ置いたら、落ちる確率のほうが高いだろう。
そもそもその状態ではスタートしてくれない気もする。
だが、ルーセなら、そのまま回り始めてくれるだろうし、乗っている者や物が落ちないようにしてくれるそうだから、その点も大丈夫なはずだ。
「僕はどちらに乗せてもらおうかな。僕もまずは馬かな」
かなり長めに回っているらしいので、ゆっくり考えることができそうである。
反時計回りで回るカルーセル。
気品ある音楽が、雰囲気を更に華やかなものにしている。
佐々木の目の前を、いろいろな馬や、馬車や、横長の椅子などが通り過ぎていく。
三列のうち、真ん中の列。
前を向いて姿勢よく馬に乗り、キリッとした感じのラビィ。
緊張してそれなのではなく、楽しくすごしているということは、雰囲気で伝わってくる。
外側の列。
端末を手に椅子に座る月乃と、月乃の頭と左右の肩の上に乗った、三ネコとも呼ばれている、陶磁器っぽい質感をしたネコの置物であるモノたち。
月乃の頭の上に薄茶色のトキ。左の肩上に薄緑色のヴァン。右の肩上に白色のサー。
(あっ、三ネコさんたち、いる位置が変わった。時間ごとに交代?)
ちょうどそのときだったのか、佐々木の前を通ったすぐあとに、三ネコが、いる位置を変更した。
今度は、月乃の頭の上に白色のサー、左の肩上に薄茶色のトキ、右の肩上に薄緑色のヴァン、となっている。
そしてこちらも外側の列。
馬車の中に、雫の姿。
開口部が大きいので、様子が見える。
ゆったりと座った雫の膝の上には、ノート? 片方の手にはテキスト? もう一方の手には、ペン?
(勉強中!?)
「案外、集中できるそうで、よくああしています」
行が教えてくれた。
「な、なるほど」
ルーセであるカルーセルなら、乗った状態で勉強だってできるらしい。
ちなみに、意外と二階が落ち着くからと、そこで長時間まったりすごす人もいるのだとか。
〈佐風さん『なるほどー。……それにしても、どの馬も素敵で決まんないぞ』〉
「だよね、迷う。――行さん、文さんも、次乗りますか? どれにとかあります?」
〈文『乗ります! 私は、馬が三列並んでいるところの、真ん中の列の馬に乗るのが好きです。前も馬だとなお! 何頭も一緒に走って乗っている気がするので!』〉
「おおー。情景が浮かぶ気がします」
読んだあと、文のほうを見て佐々木は言う。
行が口を開く。
「私も乗ろうかと。位置としては、今は一番内側を選ぶことが多いですね。それぞれの動きと周りの景色とを一緒に見るのが、けっこう好きで」
「その見方も興味深いですね」
どちらかだけでなく一緒にというのは、聞いて想像してみると、なんだか新鮮さを感じるような。
文も行も、どれにというよりは、どの列や、周りがどういうもののところ、という点で考えているようだ。
〈佐風さん『いろんな選び方があるんだなー。位置かー。せっかくだし、よかったら佐々木、並んで乗るのはどうだ?』〉
「おっ、魅力的な提案」
そうこうしているうちにカルーセルが止まり、あとは実際にカルーセル上に行って、その場で決めることに。
カルーセル上では、ルーセが入力役をしてくれる。
スマホ経由で佐風と話しながら、乗る馬を決めた。
といっても、文や行に先に選んでもらい、空き気味なあたりで、外側と真ん中が馬のところにしてみた、という決め方ではあったが。
外側の馬に佐風。
風鈴が前を向くような置き方で、佐々木は馬の上にカバンを置いた。
真ん中の列の馬に佐々木。
よいせと乗って、お待たせしましたと声を出した。
〈ルーセ『それでは回ります。途中で止めてほしい状況になった場合は、ご相談ください』〉
ゆっくりと動きだし、カルーセルがスムーズに回り始める。
上下する視界。佐風である風鈴つきのカバンと馬。その向こうを流れていく景色。
先ほどもこれを見たと、目印的なものを認識し、一周したことに気づき、それを数度くり返したあたりで、あとは数をあまり意識しなくなった。
自分や佐風も乗せて回るカルーセルと、肌をなでていく風と、目に映っては通り過ぎていく景色と。
自分という存在が際立つような、一方で、その場に身をまかせ溶け込んでいくような、不思議な感覚が、なんだか心地よい。
回る速度がゆっくりになり、やがて止まった。
このままもう一乗り、もよさそうだが、夕暮れどきの観覧車までに、もう一人、アトラクションのモノを訪ねる予定だ。
佐々木はルーセにお礼を言ってから、よいせと降り、佐風が乗る馬に近づく。
そこにスマホが振動した。画面を見る。
〈佐風さん『回転回転まさかの展開。佐々木と話ができるとはー。いろんな出会いがあるとはー。アトラクションを楽しめるとはー。嬉しい展開ー』〉
ところどころに音譜マークも入力されているから、佐風が歌うような感じで言っているのだろう。
「僕にとっても嬉しい展開、楽しい回転ー」
佐々木は、佐々木なりに歌っぽい口調で、佐風に向けて声を出した。
お読みくださり、ありがとうございます。
次の投稿は、8/23(土)夕方~8/24(日)朝あたりを予定しています【2025年8/17(日)現在】
(状況によっては、8/30(土)夕方~8/31(日)朝あたりになるかもしれません)
今後もどうぞよろしくお願いいたします。
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【改稿しました。よろしくお願いいたします】
【2025年8/25(月)改稿】
・〈文『乗ります! 僕は、→〈文『乗ります! 私は、