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「11月、秋、いろいろ」11.佐々木と佐風も回る


佐風さふうさん『佐々木(ささき)! 佐々木! ゴンドラの色、希望はございますか、ってかんさんが! 空いてれば、その色のに乗せてくれるって』〉


「んっ? ……どの色も素敵で迷う。佐風の希望は?」


〈佐風さん『あの青緑色のはどうだ? いくつか待てば下に来るし』〉


「いいね。では乗れるならそちらに」


〈佐風さん『観さーん! 少ししたら下に来る青緑色の。空いてたらそちらに乗りますー!』〉


〈佐風さん『ありがとうー! 佐々木ー、空いてるって!』〉


「わかった。楽しみだね」

 答えつつ、乗り込む心の準備をする。


 少し待つと、青緑色のゴンドラが下のほうに来た。こちらが触れなくてもドアが開く。観覧車の観が開けてくれたのだ。


「観さんが、どうぞ、と」

「ありがとうございます。それではのちほど。――おじゃまします。よろしくお願いします」


 教えてくれたこうに言ってから、佐々木は挨拶をしつつゴンドラ内に足を踏み入れた。

 佐風である風鈴をつけたカバンは、肩にかけたままだ。佐風とともに乗車である。


 風鈴とカバンも佐々木の全身もゴンドラ内に入ってから、佐々木は再び声を出す。

「ドアを閉めてくださって大丈夫です」


 スマホの通知音。画面を見る。


〈観『かしこまりました。ドアが閉まります』〉


 ゴンドラ内では、観が入力役をしてくれる。

 複数のゴンドラにそれぞれ乗っている者がいても、それぞれの相手に対して、必要な対応が問題なくできるそうだ。


 佐々木は前のほうにもう少し足を進め、左側の座席にカバンを置く。

 今、開閉したドアがある面の向かい、入って奥にあたる面の窓の外が、まずは佐風に見えるような置き方をした。


「どう? 外、見える?」

 佐風に訊く。


 背もたれがないベンチシートで、座面の高さあたりから窓になっている。

 カバンにつけられたままでも、外が見えると思うのだが。


〈佐風さん『おう! しっかりはっきりよく見えるぞ!』〉


「よかった。じゃ、僕も座ろう」

 佐々木は右側のシートに腰をおろす。


 近くに座ってカバンを支えていなくても大丈夫だ。

 もともと自立型のカバンだから、というだけではない。

 シート上の者や物が転げ落ちないよう、観が配慮してくれるのだ。ありがたい。


〈観『景色を見たりくつろいだり等、ごゆっくりどうぞ。事前説明でご存じだとは思いますが、もう少し暖かく、涼しく、次で降りる、等、なにかございましたら、いつでもお声がけください』〉


「はい。ありがとうございます」


 ゴンドラ内の温度を希望に合わせて調整してくれる。

 降りたいときには言えば、下の位置に来たらドアを開けてくれる。

 なにか用があれば、可能な形で応じてくれる。


 そう、事前に説明を受けているし、説明済みだと観も知っているが、あらためて言葉にもしてくれたということだろう。


 そしてこの観覧車、一周したら降りなければいけないわけではない。そのため、降りたいときには言えば、という説明になるのだ。


 眺めのいい、動く個室感覚で、仕事をしたり、なんらかの作業等をしたり、読書をしたり、食事をしたり、景色を眺めたり、くつろいだり、等。


 そういった感じで、長時間、何周もゴンドラ内ですごす者も、けっこういるらしい。

 ミニテーブル等を持ち込むこともできるとのこと。


 一回降りて、しばらくしてから、また乗ってと、何度も乗る者も、わりといるそう。


 ゴンドラの数が多いので、ほとんどの場合においては、乗るゴンドラが足りないということはないそうだ。


 どうしても何色のゴンドラがいい、とか、近い位置のゴンドラに乗っている者がいない状態で、とか、いろいろ調整が必要な希望がある場合は、対応可能な日時が限られる、とのことだが、まぁそれはそうだろう。


 ちなみにこのミニ遊、来園許可を得ている者なら、基本的にはいつでも来られる。


 ここで会っても大丈夫な者たちが許可を得ているから、一緒に来た者たち以外が園にいて、顔を合わせても問題はない。


 佐々木と佐風も許可を得たので、取り消しにならない限りは、今後も来ることができる。


 ただ、まれに、貸し切り状態となることがあり、その間は入れなかったりもするそうだが。


 最近知ったあれやこれやを思い返しているうちに、佐々木と佐風の乗っているゴンドラは、順調に高度を上げていく。


 ミニ遊内だけでなく、村内各所が見えたり、空とか、山とか、いろいろ。


 頭の中で、ものすごくざっくりと挙げているが、どうでもいいと思って見ているわけではない。

 いろいろ見えるから、かえってどう表現すればいいかわからず、となった結果だ。


 細かくいろいろなものが見えつつ、雄大な景色。


 そういった感じの眺めを、佐々木自身、かなり楽しく感じて見ている。


〈佐風さん『すごいなー、いろいろ見えるぞ! 楽しい!』〉


 佐風の言葉を読み、佐々木は佐風を見る。


 佐風の感想もかなりシンプルだが、ものすごく熱中していることは、佐風を見てすぐにわかった。


 前のめりになれるギリギリまでという感じに、どんどん風鈴のガラス部分が、ぐいぐいと前に出ていっている。


「カバンごと、もうちょっと窓に近づけようか?」


〈佐風さん『よろしく!』〉


 佐々木が訊いたら、すかさず返事が来た。


「ほいさ」


 佐々木は腰をあげてカバンに手を伸ばし、佐風がもっと窓の近くで景色を見ることができるよう、カバンを動かす。


〈佐風さん『ありがと! 更にいろんなとこが見れるようになった気がする!』〉



〈佐風さん『ゴンドラの高さ変わると、ちょっとずつ見える感じ変わるし、おもしろいな!』〉


 半周を越え、少ししたあたりで、佐風が言葉にする。


 回りながら、佐々木も同じようなことを思っていた。

 それを嬉しく感じながら口を開く。


「だね。同じ側でも同じ眺めじゃなくて、興味深い」


〈佐風さん『だな! ――予定どおりもう一周、かまわないか?』〉


「大丈夫だよ。連絡もしとく」


 実際に観覧車に乗ってみて、体調や気分等問題なさそうなら、まずは二周と計画していた。

 予定どおり二周目へ、と佐々木は行とぶんに連絡する。


 二周したあとはいったん降りて、ほかのアトラクションのモノのところへ行ってみたり、休憩したり。

 そして、夕暮れどきはまた観覧車に。


 というのが、佐風たちと立てた、だいたいの計画である。


 案内や入力などをしてくれる者たちは、佐々木と佐風が希望するペースやプランのもと、長時間それにつきあって、すごすことになる。


 計画を立てる際、佐々木と佐風としては、そのことが気になった。


 けれど、案内や入力などの役割を担う者が、常にそばにいなくてもいい、状況によってはそれらの役の者も自由行動可能、という指定を、佐々木と佐風側から、あらかじめしておくという方法があるとのこと。


 そうしておけば、アトラクションのモノが、案内や入力等の対応ができるときなどは、案内や入力役は別行動、フリー時間といった感じにできるという。


 知った佐々木と佐風はすぐに、その指定をすると決めた。


 今回、佐々木や佐風がアトラクションに乗っているときなどは、行や文もそれぞれ自由に、端末等を使って仕事をしたり、乗りたいアトラクションに乗ったり、といった感じですごす予定らしい。


 仕事や飲食、休憩などに使える充実したスペースも、園内各所にあるから大丈夫、とのこと。


 安心して、佐々木と佐風のペースで、すごしてよいそうだ。よかった。


〈佐風さん『おっ、そろそろ二周目入る! 佐々木、カバンの向き変更頼む!』〉


 今度は反対側の窓、先ほど開閉したドアのある側から景色を楽しむのだ。


 二周目に入るあたりで頼むと思うと、あらかじめ聞いていたから、佐々木も心づもりはすでにしていた。


「がってん」

 佐々木は言いつつ腰をあげ、カバンに手を伸ばす。


〈佐風さん『俺たちがしてるのは回転ー』〉

「あっ、うん……」

(てんてんてんてんてんてん……)


 弾みで出た言葉なだけで、佐風のその返しを狙っての発言ではなかったが、まぁいいか。


 佐々木はカバンを持ち上げ、向きを変更し、今度は最初から、見るほうの窓にかなり近い位置にカバンを置いた。


 歌うように風鈴が鳴る。


〈佐風さん『あーりがーとなー。たーのしーいなー』〉


「それはなにより。僕も楽しいよ」


 笑いながら返し、佐々木は再びシートに腰を落ち着けた。




お読みくださり、ありがとうございます。


次の投稿は、8/16(土)夕方~8/17(日)朝あたりを予定しています【2025年8/10(日)現在】


(状況によっては、8/23(土)夕方~8/24(日)朝あたりになるかもしれません)


今後もどうぞよろしくお願いいたします。



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