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「11月、秋、いろいろ」10.ボスでカイでカンラン!


「ひととおりいただいてみた! この、フルーツたっぷりのロールケーキと、フルーツたちをクレープ生地で巻いてあるのが特に好きだ! ――とのことです」


 行《こう》が、佐風《さふう》の言葉を伝えてくれる。


 テンション的には実際の佐風のほうが高いだろうが、内容や言葉の選び方などは、なるべく佐風が言ったそのままを伝えてくれている感じだ。


「ありがとうございます」

 佐々木(ささき)は行にお礼を言ってから、少し腰をあげてローテーブルのほうを見た。


「まだあるっぽい。追加で持ってくる?」

 佐風を見て訊いてみる。


 佐風は元気な風鈴の音を響かせながら、ガラス部分を頷くように動かした。

 これは、佐々木にもすぐに、イエスという返事だとわかる。


 佐風にラジャーと返し立ち上がった佐々木は、ローテーブルに向かう。


 佐々木は、チョコレート味のバームクーヘンに特に惹かれた。そちらもまだあるようなので、一緒にもらっていこう。


「ボス! デザートも、回して巻いて筒状棒状ですね!」

 佐々木が大きめのお皿に手を伸ばしたところで、育生《いくお》の声が聞こえてきた。


(ボス!?)

 佐々木は思わず育生のほうを見る。


 育生が話しかけている先にいるのは、コトハのようだ。ラビィもコトハのほうを向いている。


「ふふっ。そうなの。味はそれぞれ何種類かあるから、みなさんそれぞれ好みに合うものがあると嬉しいわ」

 コトハが育生に返す。


 雰囲気は平穏そうだが、不穏な意味にもとれてしまう言葉の存在が気にかかる。


(コトハさんがボス……?)


 気持ちのいい空気を感じさせてくれるようなメンバーで、飲食機能付与も担当してくれているコトハに、どんな面が?


 このまま見ていていいのか、素知らぬふりでデザートに視線を戻すべきか。


「えっと、佐々木さん」

 悩む佐々木に、少し離れた位置でデザートを選んでいた優月《ゆづき》が、遠慮がちに声をかけた。


「はっ、はい?」

「花山《はなやま》家の方たちのおっしゃるボスとは、言葉遊びのボス、という意味です。もしあの、なにか気にされているようでしたら、ご心配なく」


「言葉遊び」

 優月の言葉をくり返す佐々木の頭に、会の様子や、今が十一月ということや、料理やデザートのラインナップが浮かぶ。


「あっ、なるほど」

 納得した佐々木が、平和なボスだ、と続けると、優月が微笑みながら頷いた。


 安心して追加のデザートをお皿に並べ、佐々木は佐風のところに戻る。


「お待たせー。バームクーヘンは僕の追加分」

 言いつつお皿を置き、佐々木も座った。


 佐風は佐々木に向かって、ガラス部分で軽くお辞儀のような仕草をした。そして短冊部分で、フルーツ入りのロールケーキを持ち上げて、さっそく一口。

 おいしさを表すように、風鈴の音が華やかに鳴る。


「ボスといえば、ボスカイオーラ……」

 少しして聞こえてきたのは、雫《しずく》の声だ。


「きのこだね! あっ、さっきの何種類かのパスタ料理の中に!」

 ちょっと離れた位置から、杏《きょう》が楽しげな声を響かせた。


「そして木こりね」

 優しい感じの紫穂《しほ》の声。

 紫穂が手で持ち上げているお皿には、バームクーヘンが。


 ひっつーが右手を元気に動かしている。なんだろう。


「来月には、ブッシュ・ド・ノエルを穂風《すいふう》さんたちといただくのですっ。楽しみですっ。――と」


「あっ、なるほど」

 佐々木は納得の声を出し、ひっつーの言葉を教えてくれた行に、お礼の意味で会釈をする。


 ブッシュ・ド・ノエルを囲んで楽しそうにすごす、ひっつーたちの姿を想像して、佐々木は笑みを浮かべた。


(そうだ、クリスマス)

 佐風はどんな風にすごしてみたいだろうか。


「佐風、クリスマスどんなことしたい? 今度ゆっくり話そう?」

 佐々木が佐風に言うと、わくわく、という感じに風鈴が鳴らされた。

 そのあと再度、わくわく、という感じの音。


「そうだ、クリスマス! 楽しみだな、ぜひ話そう! 明日の観覧車も楽しみだし、わくわくがいっぱいだな! ――とのことです」

「だね」

 佐々木は行に会釈をし、笑顔のまま佐風に言う。


 そう。明日は佐風と観覧車に乗る予定である。

 村内の、ある結界内に存在しているという観覧車に。

 かなり大きい観覧車なのだとか。


 佐々木にとって不思議な場所、結界内。


 同じところから同じ結界内に入ったと思っても、そのときどきで違う建物などがあったり。


 フェンスなどで囲まれた中には、どう考えてもおさまらなそうなあれこれが、結界内にあったり。


 そういう結界内の観覧車、ミニミニ遊園地と言われているらしいところは、どんな感じなのだろう。


 初観覧車の佐風とともに、佐々木も楽しみたいと思う。




「というわけで! やって来ました! ミニミニ遊園地! 略して、ミニ遊!」


 翌日午後、ミニミニ遊園地のある結界内に入ってすぐ、元気に声を出したのは杏。

 今回ここに来たうちの一人だ。


 ミニ遊という略称を、佐々木もさっそく使わせてもらうことにする。


 そしてさっそくといえば、観覧車。

 結界内に入った途端、目に映るその姿。

 視線のけっこう先のほうにではあるが、どーんと存在している。


(かなり大きい、とは聞いていたけど……確かに)

 少々遠目ではあっても、とても大きいということはわかる。大観覧車、という言葉が佐々木の頭に浮かんだ。


 離れた位置から全景を眺めているのも悪くはないが、近づいていくことにしよう。

 足元も気にしつつ、観覧車も見つつ、佐々木は歩き、観覧車のそばへ。


 観覧車はすでに回っていて、いろいろな色の丸いゴンドラたちが、ゆっくりと動いている。


 ぐいっと見上げて、視界いっぱいに観覧車。

「おー」

 佐々木が思わず言ったところに、手に持ったスマホから通知音が。画面を見る。


〈佐風さん『おおー』〉


 文字書き人形の文《ぶん》が入力して伝えてくれた、佐風の言葉だ。


 今回ミニ遊に来た面々のうち、行と文は、案内のためや、佐風を含むモノたちの言葉を伝えるために、佐々木と佐風と一緒に行動してくれている。


 佐々木が今、肩にかけているカバン。結界内に入ってすぐ、佐風である風鈴をストラップのようにつけた。


 佐々木は佐風のほうを見る。

 佐風はガラス部分を動かして、観覧車を見上げているようだ。


 佐々木と佐風、二人して同じようなポーズをして、同じような言葉を言ったのだろう。

 そう思い、佐々木の口元が自然と笑みの形になった。


〈佐風さん『すごいなー大きいなー高いな!』〉


 佐風が夢中で見上げているこの観覧車、モノであると聞いている。

 今のところ、観《かん》という呼び名なのだそう。


 さまざまな事情から、ミニ遊を居場所としているアトラクションのモノたちが、何人かいるのだという。


 誰も訪れない、乗りに来ない、とならないよう、来て大丈夫な者たちが、機会をつくって遊びに来ることにしている、とのこと。


 といっても、今回来ている面々も、それぞれ楽しそうな様子だし、義務感からというわけではなく、来たくて来ているという感じなのだと思う。



 展望台も気になるけれど、大きな観覧車も楽しそう、乗ってみたい。


 行ってみたいところ、してみたいことを話していたとき、そういうようなことを佐風が言った。


 それを聞いた行が、結界内のミニミニ遊園地に、モノである大きな観覧車がいることを話してくれて、もしよかったら遊びに行きませんかと提案してくれた。


 佐々木も佐風も行ってみたいと思い、行に案内をお願いして、本日訪れた、というわけである。

 佐々木と佐風も行くことを、観覧車にも話してくれてあるとのこと。


〈佐風さん『乗せていただくぞー』〉


 気合たっぷりという感じに鳴る風鈴。


〈佐風さん『――はい! 観さん初めまして! ありがとうー今後もよろしくです!』〉


(ん? 会話調?)


「観さんが、佐風さん、佐々木さん、初めまして。ようこそ。楽しいお時間を。そして今後もよろしくお願いしますね、と。それを受けての佐風さんの言葉です」


「そうなんですね。ありがとうございます。――観さん初めましてーお世話になります。今後もよろしくお願いします」


 解説してくれた行に佐々木はお礼を言ってから、観覧車に向かって大きめの声を出した。




お読みくださり、ありがとうございます。


次の投稿は、8/9(土)夕方~8/10(日)朝あたりを予定しています【2025年8/3(日)現在】


(状況によっては、8/16(土)夕方~8/17(日)朝あたりになるかもしれません)


今後もどうぞよろしくお願いいたします。



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