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「11月、秋、いろいろ」9.初めて村に来た夏、会に参加した秋


(あ、本当だ。かなり……すごく似ている)


 予定どおりの時間に和室に来た、みちよと名乗るメンバーを立ち上がって迎えつつ、佐々木(ささき)は一度はそう思った。


 みちよ、というメンバーが操作説明に来る。そう事前に説明を受けていた。

 典子のりこと大変よく似ているが別人、典子の妹である、といったことも聞いていた。


 そして現れたその人物は、昨日、操作説明をしてくれた典子と、ほとんど同じ顔に見えた。背の高さや体型、年代も、典子とほぼ同じ感じのように見える。


(あ、でも、違いも……)


 昨日の典子は白系のブラウスに茶系のスカート、今日のみちよは白の襟付きシャツにグレーのスラックス。


 服装の、それくらいの傾向の違いは同じ人でもあり得るだろうが、二人、どことなく空気感が違う。


 典子が柔、明とするなら、みちよは、活、陽というか。

 見た目も雰囲気の方向性も似ている面が多いからこそ、まとう感じの少しの違いが際立つように思える。


 ごく短い間に佐々木がそういったことを考えているうちに、みちよが近づいてきた。


 佐々木とみちよは挨拶を交わしつつ、それぞれ座布団に座る。

 二人とも、佐風さふうが使うタブレットの画面が見える位置だ。

 みちよ、佐風、佐々木の並びになった。


 みちよの中音の声は、典子とよく似ている。みちよのほうが、口調のハキハキ度が高いだろうか。


 みちよもモノの声が聞こえないので、佐風とは文字を通しての会話がメインになる。


 みちよと佐風も挨拶し合い、さっそく本題へと入っていく。


 昨日は、文字を使ってやりとりするための説明がメインだった。


 今日は、タブレットを使って佐風がいろいろしてみるための、説明や環境づくりをメインにしてもらう予定だ。


 文字でやりとりするためだけに、佐風がタブレットを使うという選択肢もあった。

 けれど佐々木としては、せっかくだからそれだけでなく、佐風がやってみたい方向で、いろいろとタブレット使用を、と思った。


 といっても、問題のない範囲で使用してもらいたいし、月々いくらまで使えるかは、佐々木が決めさせてもらうのだが。


 いろいろ使用といっても、そもそもタブレットでできることは幅広い。

 どんなことができるか、その中からまずはなにをやってみるか。


 紹介して、説明して、ひとまず選んでもらって、使ってみるための準備をして、使えるように説明をして、を、うまくおこなう自信は、佐々木にはちょっとない。


 それに佐々木自身、使用中や契約済みのアプリやサービスなどであっても、佐風も問題なく使えるようにするには、それぞれどういう方法がいいかは、よくわからない。


 そして、未使用の機能やアプリやサービスなどに佐風が興味を示した場合は、佐々木のほうも、自力で内容把握からとなる確率が高く、時間ばかりかかりそうである。


 というわけで。


 詳しい人にサポートを頼み、佐々木も、必要な選択や手続きなどに参加したり、一緒に説明を聞いたりのほうがよさそうだ。


 そう思い、その方向で頼んでいた。


 なお、今後使っていく過程で、佐風が興味を持つものが新たに出てくると思うが、その際も場合によっては、追加でサポートを頼もうと思っている。


(餅は餅屋)


 おにぎりやおそばやトーストを食べつつも、佐々木の頭には、その言葉も常に浮かんでいる気がする。


 昨日の典子も、佐風が受けとりやすい感じにうまく教えてくれていたし、今日の、みちよによる紹介や説明もわかりやすく、佐風も佐々木もスムーズにいろいろと進めていくことができた。


 今日は特に盛りだくさんの内容ではあったけれど、テキパキといろいろとしてくれると同時に、佐風や佐々木が対応しやすいペースにもきちんと気を配ってくれて、無理なく効率的にという感じで、両立具合もすごかった。


 佐々木は精神的に余裕を持ってできたし、佐風は昨日も今日も終始楽しそうに取り組んでいたと思う。


 丁寧にお礼を言ってみちよを見送ってから、少々遅めのお昼ごはん。


 お餅、ではなく、ほぐした焼き魚と薬味を、たっぷりとまぜたごはんがメインで、あと冷ややっことおひたし、ミニみつまめ、冷たい麦茶。


 メニューにいろいろと食べてみたいものが並んでいるし、届くもの全部好みの味でおいしくて、嬉しい。


 食べているあたりでケンゴが来てくれて、佐々木が購入したタッチペンやケースや台を、ケンゴと佐風が中心となって試していく。


 試す際にやりとりしやすいよう、熊の人形も入力役として一緒に来てくれている。


 想定どおりの使用感、機能付与済みタッチペンの使用も問題なし、とのことで、特に買い直しや買い足しなどはしなくてよさそうだ。



 今回は一応これで内容的には一区切り。


 次に村に来たときには、どんな感じですごすのだろう。

 少し緊張しつつ、楽しみにも感じながら、佐々木は佐風である風鈴とともに帰路についた。




 村から帰ってきて。


 佐風は順調にタブレットを使っている。

 もちろん、使う場所や状況には、佐風も佐々木も気をつけている。


 使用風景を見られたときの説明内容も、一応考えてはある。


 風鈴のそばに端末を置く台があり、佐々木がそこに置いている。使用途中で置くこともある。


 佐々木がちょっとやってみようかなと思って、短冊でタッチペンを巻いてみた。バランスの加減でか、その状態のままタッチペンや短冊が動いた。


 とかなんとか。


 かなり無理のある説明なので、見られて大丈夫な相手以外に見られないよう、重々気をつける心づもりだ。


 そんな感じで場面は選ぶけれど、佐風が入力できるようになって、言葉でやりとりできることも多くなり、お互いいろいろと話している。


 佐風の、風鈴の鳴らし方もどんどん巧みになり、音から受けとれることも更に多くなった。


 モールス信号学習のほうも、佐々木も佐風も、ちょっとずつ気長にではあるが、もしものときに使えたらと取り組んでいる。





「デザート類のお届けです!」


 佐々木と佐風が初めて村に来たあたりを振り返りつつ、周りと話しつつ、食べつつ、としていたら、デザート到着を知らせる声がした。


 二度目以降に村に来たときのこととか、佐風の初飲食のこととか。


 いろいろまだまだ振り返って話せることはあるけれど、今急いでしなくても、もちろんいい。

 ひとまず切り上げて、デザートタイムだ。


 佐風である風鈴をかけたスタンドを持ち、デザート類が届き始めた壁際のローテーブルに行ってみることにする。


 ロールケーキやバームクーヘン。クレープ生地で、春巻きみたいにフルーツやクリームやスポンジケーキを巻いたもの。棒状のドーナツやクッキー。


(あとあれは……組み飴だったかな……)

 前にどこかで名前を目にしたような気がする。


 一緒にデザートを見ていた佐風が、なにやら気合の入った音を鳴らした。そのあとで、ちょっと控えめな音も追加している。


「せっかくだし、どーんと全種類! あ、でも、念のためまずは、それぞれちょっとずつで。――とのことです」

 隣にいたこうが、佐々木に佐風の言葉を伝えてくれた。


「ありがとうございます。――了解ー」

 佐々木は行にお礼を言ってから、佐風に返事をする。


 初飲食から海鮮系をおもに選んできていた佐風。デザート類はどんなものが好みに合うだろうか。


 さっき佐々木たちが座っていたところにいったん戻り、佐風である風鈴をかけたスタンドを置いてから、佐々木はもう一度ローテーブルへ。


 ロールケーキやバームクーヘンは、ほどほどの幅で切ってあるものから一つずつ、クレープのやドーナツやクッキーも一種類ずつ。大きめのお皿に並べていく。

 飴はカット済みでいくつかまとめて小袋に入れられているものを一袋。


 それらやフォーク類をまず、佐風がいる場所へと運び、さて、佐々木自身はなにを食べてみようか。


(んー、僕も全部食べてみたいな)


 普段、積極的に甘いものを食べるほうではないが、おいしそうに並んでいるし、せっかくだし。大きめのお皿を手にする。


 あらかじめ希望していたのか、ロールケーキやバームクーヘンを、筒状で一本まるごと受けとっている者たちもいる。

 それはそれで、なかなかに楽しそうだ。


 上にいろいろ並べたお皿やフォークなどを持って佐風のところに戻り、それぞれ、いただきます。


 佐風が短冊部分で、一切れのロールケーキを持ち上げ、一口。


 佐風の口がどの部分かはわからないが、約一口分かなという感じでロールケーキが一部分消えたから、食べたのだとわかる。


 短冊部分でロールケーキを持てるし、直接持っても、生地の欠片やクリームなどが短冊などについてしまうこともない。


(飲食機能、いろいろすごい……)


 モノの飲食風景を見るのは今日が初めてではないが、まだまだ驚きがいっぱいの佐々木である。


 でも、佐風と食べられるのは嬉しいし、この場のみんなが楽しそうに食べているのも嬉しい。


 驚きはあっても、決して、マイナスな意味ではないということもよくある。

 テイクと関わるようになってから、そう思うことが更に増えた気がする。




お読みくださり、ありがとうございます。


次の投稿は、8/2(土)夕方~8/3(日)朝あたりを予定しています【2025年7/27(日)現在】


(状況によっては、8/9(土)夕方~8/10(日)朝あたりになるかもしれません)


今後もどうぞよろしくお願いいたします。



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