「2月、ながいすとらっぷな橋渡し」4.如月にトナサンタ
〈リース『緑トナで緑サンタなリースだよ! 声に出す場合、みどトナに合わせて、みどサンタかな!』〉
〈リース『テイクさんに頼んでくれた栞さん、おとなりさんも、用意してくださったテイクのみなさんも、いろいろ対応ありがとう!』〉
栞のスマホの画面に、そう、文が表示された。
読んだ栞は、どういたしましてと言いながら、ガラス製の置物である緑サンタに笑みを向ける。
おとなりさんや、テイクメンバーの月乃のスマホ画面にも同じ文が表示されて読んだのだろう。
おとなりさんも月乃も、どういたしましてと、声に出して返事をしている。
キリッとした顔立ち、オフホワイトのセーターに濃いグレーのパンツの、おとなりさん。
猫目が印象的な顔、厚手と思われる紺のロングワンピース姿の月乃。
栞は、ベージュのセーターにグレーのパンツ。見た目の感じは、ふんわりと表現されることが多い。
画面に表示された文は、モノにも使えるよう機能付与済みのタッチペンとタブレットを使って、緑サンタなリースが入力したものだ。
入力しつつ同じ内容を声に出してもいるそうだけど、栞もおとなりさんも月乃も、モノの声を聞くことができないので聞こえない。
リースに栞たちの声は聞こえている。
物に精神が生じた存在である、モノ。
リースはモノで、本体はスノードームの中にある陶磁器っぽい質感の物。ピンク色の大きなリボンが印象的な、クリスマスリースだ。
声が聞こえる者によると、高めで、エネルギーたっぷりという感じの声で話すそう。
スノードームの中の物でありモノであるのは、リースも含め七人。
リースたち七人は、それぞれ精神体のみの状態で、スノードーム内外の行き来が可能だ。
精神体のみの状態でも、話したり動いたりすることもできる。
ただ、今は、基本的には、スノードーム外にいる場合、テイクから借りている一時宿り用の物である、ガラス製の置物にそれぞれ入って行動している。
一時宿り用の物と言うこともあれば、一時宿りの物と言うこともある、物。
一時宿り用の物といっても、ごく短時間しか入れないというわけではないし、一時宿り用の物には、本体とのつながりを切らないまま入ることができる。
先ほどまで、緑トナこと緑色をしたトナカイの置物の中にいて、今は緑色のサンタの置物の中にいる、リース。
リースの精神体が出てもトナカイの置物は倒れてしまうわけではなく、トナカイの置物本来の立ち姿で立っている。
トナカイの置物は小さめで、たとえばティッシュ一枚の上に、七体全部置くことができるくらい。
それに比べると緑色のサンタは大きめで、印象としては、350ミリリットルくらいのペットボトルサイズで動いているような感じだ。
トナカイやサンタの置物たちがいるのは、薄茶色の長テーブルの上。
リースが今、入力に使っているタブレットも同じテーブル上にある。
長テーブルの横には、長方形テーブルが置かれている。
互いの一方の短辺部分が触れ合うような置き方で、全体として更に横長になった一つのテーブルという感じだ。
月乃と栞は、長方形テーブルの長辺側に置かれた椅子に、長方形テーブルをはさんで向き合う形で着席中。
おとなりさんは、栞の隣の席だ。栞のほうが置物たちがいる長テーブルに近い。
ちなみに、おとなりさんは、おとなりさん、で一つの呼び名である。
どういう音の運びで呼ぶかは、そのときどきで。
最初にこの呼び方をしたのは栞だ。今ではおとなりさんにとって、第二の名前のような感じのものだそう。
互いを名前で呼び合うことが多いテイク関係の場でも、おとなりさんは、本名の名前のほうではなく、おとなりさん呼びで、ということになっている。
おとなりさん、でひとまとまりではあるものの、呼び捨てにされているとは感じないので、おとなりさんさん、おとなりさんちゃん、のようにはしなくてよいそう。
おとなりさんの向かい、月乃の隣は、この場のやりとりや出来事等の記録をおもに担当している、ヴァンのスペース。
長方形テーブルにノートパソコンが置かれていて、ヴァンはキーボードを使って入力している。
ヴァンもモノで、陶磁器のような質感の、薄緑色のネコの置物だ。
ヴァンも話せるし、モノ同士、モノの声も聞こえる。
そしてスノードームのモノたちもヴァンもそうだが、人間の声が聞こえるモノも多いし、話の内容をかなり詳しく理解するモノも多い。
ちなみに人間にも、モノの声が聞こえる者もいる。
ヴァンの声は、聞こえる者によると。
壮年からそれより上の年齢といった感じの声。ある程度の余裕を感じさせるとともに、行き届いた対応をしてくれそうな印象。
という感じなのだそう。
緑サンタがきょろきょろと顔を動かすと、藍色のサンタが緑サンタに近づいてきた。
藍色のサンタが、緑サンタからタッチペンを受けとって入力し始める。
緑サンタに引き続きスムーズな入力で、すぐに文が表示された。
〈家『藍トナで藍サンタな家です。いろいろ更にそろえてくださいまして、ありがとうございます』〉
読んだ栞は笑みを浮かべ、どういたしまして、と声を出す。
おとなりさんと月乃も、栞と同じようなタイミングでそう言った。
家は、スノードームの中では、煙突のあるログハウス風の置物だ。リースは家のドアにかかっている。
家は、ソフトな中に芯がしっかりありそうな声だという。
次にタッチペンを受けとったのは、赤いサンタ。
〈サンタ『赤トナで赤サンタでサンタクロースなサンタですぞ。さまざまなご助力、深く感謝しておりますぞ』〉
お辞儀をして、体を起こす赤サンタ。
栞とおとなりさんと月乃もお辞儀をし、体を起こす。
サンタは、本人も書いているように、サンタクロースの置物だ。
スノードーム内のサンタクロースの置物は、赤と白ベースの衣装と、ボリュームのある白ひげ、という見た目をしている。
太めながら優しい感じの声で話すそう。
次にタッチペンを動かすのは、黄色のサンタだ。
〈ツリー『黄トナで黄色サンタのツリーです。大変お世話になっております』〉
黄色サンタの深々としたお辞儀に、栞とおとなりさんと月乃も、長めのお辞儀を返す。
ツリーは、スノードーム内ではクリスマスツリーの置物だ。てっぺんの黄色い星を含む、いろいろな飾りつきのクリスマスツリーである。
落ち着きと理性を感じさせる声をしているとのこと。
続いて橙色のサンタが入力し、そのすぐあとに紫色のサンタが入力した。
〈トナカイ『橙トナで橙サンタなトナカイのトナカイです! えーっと、だいトナ、だいサンタって言ってる感じですが。サポートありがとうございます!』〉
〈ソリ『どうぞこれからもよろしくお願いします! 紫トナで紫サンタなソリです』〉
二人そろって元気にお辞儀をし、体を起こす。
栞とおとなりさんと月乃も、少し勢いをつけてお辞儀をしてから、姿勢を戻した。
スノードーム内で、トナカイは薄灰茶色のトナカイの置物、ソリは赤みがかった濃い茶色基調のソリの置物だ。
トナカイは、しっかりとした発声の声、ソリは、力の入った元気な声、なのだそう。
そして七人目。青いサンタがタッチペンを受けとり、入力する。
〈雪だるま『青トナで青サンタな雪だるまです。こちらも大切に使わせていただきます』〉
ゆっくりとお辞儀をして姿勢を戻す青サンタに、栞とおとなりさんと月乃も、ゆっくりめにお辞儀をしてから、体を起こした。
雪だるまは、スノードーム内では、雪玉を二つ重ねた形の、雪だるまの置物だ。水色のマフラーをしている。
涼やかながら親しみやすさも含んだ声とのこと。
黄色サンタがタッチペンを青サンタから受けとる。
〈ツリー『あらためて――それぞれ、入り心地はどうでしょう。今の時点でなにか問題がありそうならば挙手を』〉
サンタたち、誰も手を挙げない。
〈ツリー『大丈夫そうですね』〉
顔を動かして、ほかのサンタたちの様子を見た黄色サンタが、そう入力した。
黄色サンタがテーブルに置きかけたタッチペンを、緑サンタが受けとる。
〈リース『では! ボクたち七人、スノードームン! 本日より虹トナにプラスして、虹サンタでも行動させてもらいます!』〉
タッチペンをテーブルに置いてから、緑サンタが、ぴょん! とジャンプ。すぐに六人も、ぴょん! と合わせる。
栞とおとなりさんと月乃は、拍手をした。
スノードームン、は、スノードームのモノたち七人全体に対しての呼び名、といった感じだ。
虹トナという呼び方は、七色のトナカイの置物に対してのもの。その流れで、七色のサンタは、虹サンタだ。
十二月から、虹トナに入って行動することも、し始めたスノードームン。
虹トナはタッチペンを使用できないため、入力時用の一時宿りの物として、一体の白サンタも使い始めた。
虹サンタよりも大きめの、ガラス製の白サンタに、入力したい者がそのときどきで入ってタッチペンを使用して入力し……という方法だ。
しばらくしてから、その方法の変更を提案したのは栞。
タッチペンを使える一時宿り用の物を七体用意してもらうことを、テイクに頼む。
栞が七体運べるサイズの物で。
タッチペンを、七人で一本ではなく一人一本になるよう栞が追加購入し、モノにも使えるように機能付与をテイクに頼む。
タブレットも栞が、ひとまずもう一台増やし、モノにも電源ボタンの操作等ができるようになどの機能付与をテイクに頼む。
具体的に出した案はそういったことだ。
白サンタ一体でも、スノードームンは柔軟に対応していた。
けれど栞としては、これから長く、みんなといろいろ言葉を交わしたいし、ずっと頻繁に入力してもらうし、それなら、一人一体、一人一本のほうがいいような……という思いを持つようになっていたのだ。
タブレットも、一人一台というのは今のところ難しいけれど、まずはもう一台。
栞の考えを聞いたスノードームンの返事は、スノードームンとしてはその方法のほうが、より会話しやすいと思うから、栞さんがいいのであれば、といったもの。
おとなりさんの返事は。
栞ちゃんとスノードームンさんがいいのなら。一緒にいるときの移動時は、私も運ぶわよ。
というもの。
スノードームの持ち主は栞だけれど、おとなりさんも詳しい事情を知っている。
おとなりさんは、栞とはもちろん、スノードームンとも仲よしだ。
スノードームンと栞とおとなりさん。
これからも長く仲よくすごしていこうね、と気持ちを伝え合っている関係である。
テイクに話をし、テイクにも相談に乗ってもらいつつ、みんなでどんな一時宿り用の物にするか考え、決めた。
場面によって使い分けることもできるよう、虹トナと白サンタの使用も続けることをテイクにすすめられ、そうすることにも決めた。
スノードームと虹トナと白サンタと虹サンタ。
すべてそろったら、栞の部屋は、どれだけクリスマスが好きな人の部屋なのだ? といった感じになりそうだけれど。
クリスマスは好きだし、部屋の中は基本的には、栞自身とスノードームンとおとなりさんしか、じっくりとは見ない予定だし、いいかな、と思っている。
そんなこんなでいろいろと決めて、栞たちの珠水村訪問時に虹サンタを初使用してみて、大丈夫そうなら本格的に使用開始、ということになった。
もともと、二月あたりなら村に行けそうだから行ってみたいねということで、栞もおとなりさんもいろいろと調整していたので、一時宿り用の物の用意を、そこに合わせてもらった形だ。
そういった流れで、今日である。
今、栞たちがいるのは、珠水村の結界内。
栞とおとなりさんは、今日が珠水村初訪問。
スノードームンにとっては、二度目の珠水村訪問だ。
お読みくださり、ありがとうございます。
次の投稿は、5/16(土)夕方~5/17(日)朝あたりを予定しています【2026年5/10(日)現在】
(状況によっては、それよりあとの、(土)夕方~(日)朝あたりになるかもしれません)
今後もどうぞよろしくお願いいたします。




