地獄観光の申請 その2
暫くして赤鬼嬢が戻って来た。
上司らしい青鬼も一緒だ。
その上司が帝釈天に聞いてきた。
「あ、あの・・神力を登録しようとして壊れたとか?」
「ああ、欠陥じゃない、これ?」
「いえ、新品で動作確認がとれている物です・・。」
「じゃあ、なんで壊れんの?」
「普通は壊れません。」
「え? 普通は?・・」
「はい、帝釈天様の神力が強すぎるんです。」
「いや、だから殆ど神力を使っていない・」
「だから、帝釈天様だからです、と言っております。」
そう言って上司は、何故分からん、という顔をする。
「え? 俺だから壊れた?」
「はい、神力が桁違いなんです、貴方様は。」
「そ、そうなの?」
「自覚してないんですか?」
上司は困った顔をする。
帝釈天はというと、頭の後ろを掻いている。
どうやら自分の神力を理解していないらしい。
帝釈天は、すこし困った様子で上司に聞く。
「じゃあ、俺、地獄観光できないの?」
「いえ、特別に許可します。」
「え? いいの?」
「はい。
閻魔大王様から要請が来ており、上層部が許可を出しております。」
この青鬼上司の言葉に、赤鬼嬢は突然に怒り出す。
「なんでそれを私に伝えて下さらないのですか!」
「あ、いや、それは急な指示で先ほど私も聞いたばかりで・・。」
「もう、貴方ったら!
いつも大事な事を後回しにするんだから!
家以外では、ビシリとして下さい!
本当にもう!!」
貴方?
その言葉に帝釈天はポカンとした。
その帝釈天の様子を見て、青鬼上司はバツが悪そうな顔をした。
赤鬼嬢も気がついたようだ。
同じようにバツが悪そうな顔をする。
上司は慌てて帝釈天に謝る。
「あ、あの帝釈天様、お見苦しいところをお見せしました。
この部下は、その、私の妻でして・・。」
「ああ、なんだ、そういうこと?」
「はい・・。」
「それは幸せそうでなにより。」
帝釈天の言葉に二人は顔を見合わせ、顔を赤くする。
そんな様子を見ながら帝釈天は二人に話しかけた。
「じゃあ、俺は勝手に地獄に行っていいのかな?」
「はい。」
ただ上司はそう言いながら、すこり困惑した顔をする。
帝釈天は頭を傾げた。
上司は帝釈天に聞く。
「あの・・次元転送装置は帝釈天様の神力で壊れます。
次元転送装置は恐らく帝釈天様には使えないかと。
対応するには次元転送装置の改良が必要です。
私共では直ぐには対応ができません・・。
いかが致しますか?」
帝釈天は漸く上司がなぜ困惑したか理解した。
「ああ、そのことか。
まあ、なんとかなると思う。」
「はぁ? 何とかなるのですか?」
「ああ、なんとでもなる。」
「・・・。」
「ところで、地獄から戻った場合は報告が必要?」
「いいえ、必要ありません。
次元転送装置をお貸しするわけではないので。」
「そうか、それは楽だ。」
帝釈天は、これでここの用は終わったという顔をした。
だが、何か思い出したようだ。
帝釈天は赤鬼嬢に向き直る。
「赤鬼嬢、俺が地獄観光に急に来たことをお詫びしよう。
俺もまさか閻魔大王様が連絡を入れてくれるとは思わなかった。
俺が気まぐれで突然に地獄観光を思いついて閻魔大王様に話してしまった。
閻魔大王様は気を利かせ、急な申し出をここにして下さった。
そのため、旦那さんへの連絡が俺がここにくる直前になったようだ。
貴方への連絡が遅れたのは私の責任だ。
そのせいで、お二人に喧嘩をさせてしまった。
申し訳ない。
だが、仲むつまじい二人に当てられた俺の身になってくれ。
俺はまだ恋人もいないのだから。」
その言葉に赤鬼嬢は赤い顔を赤くする。
そして、なにか言いたげに帝釈天を見た。
上司である青鬼も青い顔を僅かに赤くした。
わかりにくい顔色の変化である・・。
帝釈天は、二人に独り言のように呟く。
「じゃあ、俺は地獄観光を楽しむことにしよう。」
その言葉に、上司は思わず俯く。
そして右手で米神を押さえた。
そして独り言を呟く。
「はぁ~・・勤続103年、こんな事態は初めてです。
地獄へ気軽に観光しに来たという方は・・。
それも閻魔大王様からの直々の要請付きで・・。
でも、帝釈天様に会えたことは光栄の至りです。
ですが、次元転送装置は壊され・・・。」
そう言って上司は米神から手を外し、帝釈天を見ようとした。
だが、そこには帝釈天は居なかった。
「あれ? 帝釈天様は?」
「先ほど右手をあげて御礼を言うなり消えましたよ?」
「ええええ!!! 握手とサインしてもらってないぞ!」
「・・・貴方、仕事中ですよ?」
「え!?・・・。」
「それに、それなら私だって握手したかったですよ!」
「え? あ、そ、そうだね、ごめん・・。」
「大体、貴方という人は・」
「あ、そうだ、会議があったんだ!
そうだ、そうだった、あ~、忙しいなぁ、会議だ、会議。」
「貴方!!!」
青鬼の上司は、冷や汗を浮かべ事務所から足早に去っていった。
その後ろ姿を赤鬼嬢は見つめながら呟く。
今日、帰ったらお説教だからね!
青い顔が真っ青になるまで許さないんだから!
上司であり夫である青鬼に向かって、そう呟いた。




