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地獄観光の申請 その1

 帝釈天は地獄に降り立った。


 地獄は二層からなる。

一層目は、罪を犯した人間を閉じ込める地獄界だ。

人間の言う地獄とは、ここを意味する。

まあ、実際の地獄とは人間の想像するものとは異なるのだが・・。


 二層目は、この地獄界を他空間から隔離し維持するための場所だ。

いうなれば官公庁の出先機関と考えればよいだろう。

ここを地獄管理界と呼んでいる。

そして、一層目と二層目は次元が違う。


 今、帝釈天が降り立ったのは地獄管理界だ。

帝釈天は、その地獄管理界の或る建物の敷地に入って行く。


 門を入るやいなや、門番が帝釈天を見つけた。

慌てて駆けつけてくる。


 「これは帝釈天様・・何か御用事でしょうか?」

 「ああ、ちょっと地獄界に用があってな。」

 「え?!」

 「まあ、そういうことだ。

 で、地獄界に観光するにはどうすればいい?」


 「観光・・ですか?」

 「ああ、そうだ。」


 門番は唖然とした。

それは当然であろう。

地獄界は、観光でくるところではない。


 地獄界とは、他の次元から切り離された犯罪者を放り込む檻の無い広大な空間である。

観光などする場所ではないのだ。


 地獄界は、生きとし生けるものが御仏の御心に反した者の流刑地だ。

そのためあらゆる生命体の魂が死後、流されてくる。

ここに流す判決を下すのが閻魔大王だ。

そして、その罪人は流される前、自分が何処の何者かの記憶は消される。


 地獄界では仏法の摂理は適用されず、決め事は一切ない。

送り込まれた者が好き勝ってにしてよい世界である。

強者が弱者を好きにできる世界だ。

つまり御仏から見放された世界である。


 ただ、地獄界で一つだけ許されないことがある。

それは仏に対する反乱である。

反乱といっても、その定義は閻魔大王が管轄する部門の判断による。

端的にいうと地獄界からの脱出、仏への危害が反乱である。


 地獄界にいる者は、今自分が地獄界にいるという認識がもてない。

そのような認識が阻害されているからだ。

自分の過去を忘れていることさえ思いつかないのだ。

そのため、あたかも昔から地獄で生まれ住んでいると思うのだ。

幼少期の記憶さえない地獄に。


 このような世界のため、地獄界では固有の社会が形成される。


 帝釈天の知る地獄は・・。

地獄を支配しようとする者が現れては消える世界だ。

そして今、地獄で勢力のある破落戸(ならずもの)牛頭馬頭(ごずめず)だ。


 こちらにくる前に帝釈天は、阿修羅から資料を渡された。

それは牛頭馬頭の情報だ。

今、牛頭馬頭は地獄で王と名乗り支配しているらしい。

それも5年以上も。


 これは、地獄界で王として君臨する年数としては驚異的だ。

覇王になったとたん暗殺されるのが普通だからだ。

牛頭馬頭の統率力、人望、頭脳が(あなど)れないことがわかる。


 そして、この牛頭馬頭に反乱の嫌疑となると・・

反乱の目的が地獄界からの脱出に他ならないだろう。


 帝釈天に奪衣婆と閻魔大王から課せられたのは牛頭馬頭の反乱を治めることだ。

すなわち地獄界からの脱出できないようにするということになる。

これは頭を抱える問題だ。

困難な問題は二つある。


 一つ目は、次元転移の技術を徹底的に地獄から消す必要がある。

二つ目は、牛頭馬頭に次元転移の野望を諦めさせることだ。


 この難問を抱えながら、帝釈天は門番に暢気(のんき)に接する。


 門番は明るく観光だという帝釈天の言葉が理解できず困惑した。

だが、帝釈天を門で止めるわけにはいかない。

御仏を守る軍神に失礼があったとされては困るからだ。


 門番は狼狽えながら、帝釈天に対応しようとした。


 「あ、あの・・。」

 「地獄界に降りる許可をする部門はどこ?」

 「ご、ご案内します。」

 「あ、宜しく。」


 門番はあたふたとしながら、帝釈天を建物内へと案内する。

建屋に入り、二階の広々とした受付に案内された。

門番は受付で帝釈天の地獄観光の件を伝える。


 「帝釈天様が地獄を観光したいそうだ。」

 「え?」


 受付はそれを聞いてポカンとした。

門番も受付と同じ気持ちであった。

そして、門番は自分はこれで解放されたとばかりに帝釈天に話す。


 「では、こちらの者から説明があると思います。」

 「ああ、ありがとう。」


 門番は、逃げるかのように戻って行った。

一方、受付の赤鬼嬢は首を傾げた。


 「あ、あの帝釈天様・・本当に地獄へ?」

 「ああ、よろしく頼む。」

 「あの、本当に観光ですか?」

 「そうだけど、ダメ?」

 「い、いえ! 帝釈天様なら・・。」


 そういって赤鬼は赤い顔を赤くする。


 「では、これをお持ち下さい。」

 「これは?」

 「次元転送装置です。」

 「あ、これが、ね。」

 「はい。

 で、ここを押して神力を登録して下さい。」


 「あ、分かった。」


 そう言って帝釈天が神力を登録しようとした時だった・・


  バリン!!!


  次元転移装置が破裂したのだ。

受付嬢は慌てふためいた。


 「あ、あの壊さないで下さい!」

 「え? 神力を登録しようとしただけだけど?」

 「え?」

 「え?」


 赤鬼嬢と帝釈天は暫し顔を見合わせた。


 「す、すみません、少しお待ち下さい。」


 そういうと赤鬼は席を立ち上がり、慌ててフロア内を駆けていく。

どうやら上司に相談をしに行ったようだ。

その様子を見て帝釈天は苦笑いをした。


 「神力を殆ど出していないのに、壊れるものかな?

 欠陥品じゃない?」


 そう呟いた。


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