祐紀 : 困惑の書状 3
祐紀は陽の国の国主と、神殿からの書状に愕然とした。
これでは姫御子を、この国に呼ぶことはできない。
祐紀も佐伯も、まさか陽の国が断るとは思わなかった。
それも、姫御子個人への神託だからという理由で。
しかし、はいそうですね、などと言う訳にはいかない。
地龍はなんとしても対策をする必要がある。
なんとしてでも姫御子に来て貰わねばならない。
「祐紀よ、神殿の書状の意味を理解したか?」
「・・・。」
その言葉に祐紀はピクリと眉を動かした。
「文面から何を読み取った、答えよ。」
「はい・・。
文面は丁寧に御礼と理由を記し、姫御子様は陰の国に出せないとあります。」
「うむ。」
「ですが・・。
今回、こちらからの要請の仕方を非難しているようにも取れます。
なんとなくですが、要請する時期が悪いというか・・。
国主に依頼を出す前に神殿に伺いをたてるべきというような・・。
手順というか、時期が不味かったのでしょうか?」
「・・・。」
「あるいは・・陽の国で何かあったのでしょうか?」
佐伯は、その言葉に軽く頷いた。
頷いた事に祐紀は目を見張る。
祐紀は佐伯に問いただそうとした。
すると佐伯は右手を前に差し出して、待てというサインをする。
口を開きかけた祐紀は、それを見て口を閉じた。
佐伯は祐紀の横に置かれた神殿の書状を指さす。
祐紀は佐伯と、書状を交互に見たあと首を傾げる。
それに対し、佐伯は無言で書状を寄越せと右手をクイクイと曲げた。
祐紀は立ち上がり書状を持って佐伯の側に行き書状を渡した。
そして戻ろうとした時だった。
佐伯は自分の直ぐ横を右手で音がしないようにトントンと叩く。
自分の隣に座れという意味なのか?
祐紀は首を傾げる。
すると佐伯は同じ動作をする。
祐紀はなぜ佐伯が喋らないのか理解に苦しむ。
祐紀は声を出して聞こうとした。
その瞬間、佐伯は自分の唇に人差し指を当てた。
喋るな! と言わんばかりだ。
鋭い目で見られ、思わず背筋が伸び冷や汗が出た。
こんな真剣に睨めつけられるとは思わなかった。
祐紀は指で佐伯が先ほど叩いた所を差し、次に自分を差した。
ここに座れということかの確認だ。
佐伯は頷く。
祐紀は佐伯の直ぐ横に座る。
肩が触れ合うくらいの位置だ。
佐伯は書状を開く。
だが手に取ったのは、書状を包んでいた紙だ。
その紙は神殿の印が押されただけの紙であった。
佐伯はその紙を、突然祐紀の目の前に広げた。
祐紀は突然のことに、少し仰け反る。
そして佐伯を見ると、佐伯は真剣な顔をしていた。
祐紀は目を瞬いたあと、姿勢を元に戻した。
そして目の前にある紙をみた。
目の前の紙は、明かり取りの光で透かしてみるような位置だ。
なぜこのような形で見せるのだろう?
そう思い紙を見つめた。
紙には文字が浮き出ていた。
「え!?」
すかし文字だ。
祐紀は佐伯と目を合わせた。
すると佐伯は頷く。
祐紀は佐伯から紙を受け取り、文面を読む。
文面は簡略され要点だけが書かれている。
内容は・・
祐紀殿との仲を疑われ姫御子は巫女へ落とされた。
今は山間部に幽閉されている。
一月待たれよ。
この状況は打開する。
約束を違えぬように。
そのように書かれていた。
祐紀はその内容に愕然とした。
自分と姫御子の仲が疑われた?
いったいどこをどう考えたらそうなるのだ?
ジワジワと怒りがこみ上げてきた。
佐伯は祐紀を落ち着かせようと、手を肩にかけた。
そして口を祐紀の耳元に近づけ、小声で囁く。
「誰か(間者)聞き耳を立てておるかもしれん。
この書状を声を出して読むでない。
そして、このことを儂に聞くでない。
もちろん他言無用じゃ。
まあ、其方の養父ならばよいが、それ以外はだめじゃ。
よいか、他の者にこのことを知られぬようにせよ。」
そう囁くと、目で席に戻れと合図する。
祐紀は大人しく、先ほど居た位置に戻った。
佐伯は普段の声の大きさで祐紀に話しかける。
「陽の国に断られたことは確かじゃ。
祐紀よ、策を考えよ。」
「え! 策ですか?」
「そうじゃ。
神主であるお主しか地龍対策はできまい。
一度実家に帰ってよい。
一月後に策を携えてここに来い。
よいな?」
そう佐伯は言うと、祐紀から書状を回収し、とっとと部屋を出て行ってしまった。
出て行ったのは襖からだ。
祐紀はしばし呆然とその様子を眺めていた。
そしてハッとした。
私はどこから出て行けばいいのだ?
狼狽えて部屋を見回すと、京壁だったところが何時の間にか無くなっていた。
そこに案内の者が居て祐紀が出るのを待っている。
「えっ!?」
「それでは参りましょうか。」
「え? あ、はい・・。」
祐紀は案内の者について寺社奉行所の出口に向かった。
そして、すごすごと奉行所を後にした。
祐紀は一人、考えを巡らせていた。
陽の国の神殿は姫御子を巫女からまた姫御子に戻すつもりでいる。
それも一月で。
信じてよいのだろうか?
姫御子に頼らない他の手段を考えなければいけないのだろうか?
しかし、他の手段といってもあるものだろうか?
どうしたものか・・。
そんな祐紀の後をつける者がいた。




