祐紀 : 困惑の書状 2
呼ばれて来たのに、誰も何も話さない状況が続く。
自分は姫御子の関連で呼ばれたのではないのだろうか?
この様子では違うようにも思える。
だとすると、いったい何で呼ばれたのだろう?
祐紀は呼ばれた理由を聞こうかどうか躊躇った。
寺社奉行である佐伯は押し黙ったままだ。
周りの者も誰も話さない状態では聞きづらい。
だが、このままでは呼ばれた理由がわからない。
意を決して寺社奉行に声をかけた。
「あの・・佐伯様・・。」
佐伯は祐紀を見て、小さく肯いた。
問いかけを許してくれたのだろう。
祐紀は呼び出しの訳を問う。
「私は陽の国から件で呼び出されたのではないでしょうか?」
「そうじゃ。」
「では、何故、無言でそのような難しい顔を・・」
「お前の目論見は外れた。」
「え?」
「陽の国がお前の助力を断ってきよった。」
「え?!」
祐紀は佐伯の言った事が理解できなかった。
佐伯様は今何と言った?
助力を断ってきたと聞こえたのだが?
いや、多分聞き間違いだろう。
呆けている祐紀を、佐伯は然もありなんという顔をする。
そして仕方がないか、という表情になり組んだ腕を外した。
佐伯は、祐紀から視線を外し部下に声をかけた。
「その方等から何かあるか?」
「いえ・・。」
「では、その方ら抜かるなよ。」
「御意。」
佐伯は部下が了解したため、一度頷く。
そして、目で一人の者に合図をした。
すると、その者は佐伯に書状らしきものを二通渡した。
佐伯はそれを無言で受け取り、周りの者に手を振る。
それを合図に周りの者は、無言で部屋を出て行った。
出て行ったのは襖からだ。
え?!
あれ?
襖から出られるのか?!
襖の外は薄暗くてよく見えない。
やがて皆が出ると襖は閉められた。
いったいこの部屋はどういう作りなのだろうか?
あの襖は本当の襖だとは・・。
自分の予想では人が通れるような空間は無いはずだ。
祐紀は唖然とした。
佐伯は祐紀と二人だけになると祐紀に話しかけた。
「祐紀、これを見よ。」
「え?」
「え、ではない、この書状を見ろといっておるのだ。」
その言葉に祐紀は我にかえった。
部屋の事は考えないことにした。
ここは寺社奉行所だ。
なんらかの理由があっての部屋なのだろう。
一介の神官が知らないでよい事だ。
そう理解した。
祐紀は末席を立ち佐伯の側にいった。
そして書状を受け取り末席に戻る。
当の佐伯であるが・・。
今、この部家には佐伯と祐紀の二人しかいない。
素で接したかった佐伯ではあった。
だが、ここは奉行所だ。
奉行として接しているからにはそうもいかない。
残念に思う佐伯であった。
末席に祐紀が戻ると、佐伯は書状の説明をした。
「その二通の書状は陽の国から届いたものだ。
一通は陽の国の国主から、そして一通は神殿からじゃ。」
祐紀は手に取った二通の書状を交互に見つめた。
「まあ、読んでみよ。」
その言葉に祐紀は、まず国主からの書状を読み始めた。
読むに進むにつれ目を見開く。
さらに読み続けるにつれ、書状を握る手に力が入った。
書状が小さく《《クシャリ》》という音を立てた。
祐紀はその音で慌てて手の力を緩める。
そして最後まで書状に目を通した。
祐紀は佐伯の顔を見た。
しかし佐伯は何も言わない。
「あの・・。」
「もう一通を読め。」
「・・・はい。」
祐紀は国主からの書状を丁寧に皺を取りたたみ直す。
そして脇に置いた。
神殿からの書状を手に取り読み始める。
やはり目を見開いた後、苦虫を潰した顔になる。
だが、今度は書状を持つ手に余計な力が入ることはなかった。
一通り読み終えると、書状を丁寧にたたみ脇においた。
そして佐伯を見た。
暫く二人は目を合わせ無言のままでいた。
佐伯は祐紀から何か言ってくるだろうと思った。
だが、祐紀からは何も言ってこない。
瞬き一つせず目を反らさず見つめるだけだった。
此奴・・儂に先に話させるつもりか?
普通は興奮して詰め寄るものじゃがのう・・。
最後まで感情を抑えて書状を読めたのは殊勝じゃた。
さすが彼奴の息子よのう・・。
やはり儂の配下に欲しい。
いや、いっそのこと儂の養子にしたいものよのう・・。
そう思った。
だが、今は書状の件が先だ。
「内容は把握したか?」
「はい。」
国主からの書状は、祐紀が陽の国に来る必要はないというものだ。
姫御子の御神託は個人のもので国に降りたものではない。
国家に関与しないのに、他国の助力など無用というものだった。
普通、このような国主の素っ気ない回答はあり得ない。
かりにも姫御子へ降りた御神託だ。
いくら姫御子個人へ降りた御神託だとしても無碍にはできない。
国主が姫御子の御神託を軽くみるなど有り得ない事だ。
だが、国主がそう書状で寄越したならどうしようもない。
一方、神殿からの書状であるが・・。
今回の助力の申し出についての感謝が述べてあった。
だが、国主からあったように助力は不要とあった。
そして、姫御子を陰の国に出す事はできないとも。
陰の国の地龍に関しては、貴国の力で解決してもらいたいとあった。
手助けが不要ならば、そう返されても仕方がないことだ。
祐紀は困惑した。




