祐紀の目覚め 3
翌朝、祐紀は目を覚ました。
布団の中でめいっぱい背伸びをする。
「う~~ん!! よく寝た。」
そんなに大きな声を出していないのだが、廊下から足音が聞こえてきた。
足音からお紺のようだ。
祐紀の部屋の前まで来ると、障子越しに廊下から声をかけてくる。
「起きられましたか?」
「あ、おはよう御座います。」
「おはよう御座います、入りますよ。」
そう言われ、祐紀は布団の上で上半身を起こした。
お紺は部屋に入ると、手を祐紀の《《おでこ》》に乗せる。
ひんやりしていて気持ちがよかった。
「熱はないようですね。」
「うん、目覚めはすっきりしているよ。」
「それはようございました。」
「お紺さん、目の下に隈が出来ていますよ?」
「え!」
お紺が祐紀の目覚めをまっていたかのように駆けつけたため、寝ずに別の部屋で様子を伺っていたのではないかと祐紀は考えたのだ。
おそらく、お紺のことだから、寝ないで祐紀を看病していたに違いない。
お紺に面と向って聞いても、気を遣い正直に話さないだろうと思った。
そのためカマをかけてみたのだ。
どうやら図星だったようだ。
「やはりそうでしたか、すみません心配をかけて。」
「あ、いえ・・、もしかして隈ができているというのは?」
「はい、嘘です。」
「はぁ・・祐紀様には、かないませんね。」
「すみません、嘘をついて。」
「いえ、別にかまいませんよ。」
「寝ていなくて大丈夫ですか?」
「ええ、それはもう。」
「本当ですか?」
「ええ、佐伯様の世話で二日くらい寝ないでお世話をしたこともありますので。」
「え?!」
「ふふふふふ、嘘です。」
「あ! 酷いな~・・。」
「仕返しです、先ほどの。 でも、本当に大丈夫ですのでご心配なく。」
「そう・・ですか、わかりました、ありがとう御座います。」
「では、雨戸を開けますね。」
「はい。お願いします。」
そういうとお紺は部屋から出て廊下に行き、雨戸を開け始めた。
雨戸を開けると朝日がサッと部屋に入り込む。
眩しい。
思わず祐紀は目を瞑る。
その時だった、朝日で目の痛みを感じた。
その痛みとともに、突然、頭痛が襲う。
それも徐々に痛くなる。
思わず布団の上でうずくまった。
「祐紀様!! どうされました!」
「ううう、ず、頭痛が!」
「た、たいへん、お医者様を!」
「ま、待って、く、ください・・。」
「え!?」
「こ、これは、ご、ごし、御神託の、え、えい、影響です・・の・・で。」
そう言うと祐紀は意識を失った。
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目が覚めると目の前に心配そうな顔をした佐伯と医者がいた。
「おお、目覚めたか・・。」
佐伯の言葉に、慌てて祐紀は起きようとしたが、佐伯に肩をおさえつけられた。
「そのまま寝ておれ。」
その言葉が合図かのように、医者は祐紀の脈を取った。
それから祐紀をのぞき込むと同時に、祐紀の瞼を強制的に指で開けてのぞき込んだ。
相変わらずタバコ臭い。
「ふむ、大丈夫なようじゃ。」
「祐紀、大丈夫か?」
「あ、はい・・。」
祐紀には今の状態が掴めなかった。
なんで俺は寝ていて、佐伯様と医者が側に居るんだ?
たしか朝に起きて・・
・・・思い出せない。
祐紀は顔を横に向け部屋の中を見渡した。
すると部屋の隅にお紺が座っていた。
髪がほつれている。
祐紀と目が合うと、ハッとしたようだ。
咄嗟に、お紺は笑顔を作ろうとした。
しかし、笑顔にならずなんとも言えない顔になる。
よほど祐紀の事を心配していたのであろう事が、祐紀には分かった。
祐紀は上半身を起こし、佐伯を向く。
「御奉行様、ご心配をおけけしました。 もう大丈夫です。」
「・・・大丈夫なのか?」
「はい。」
そう言って祐紀は頭を下げた。
そして、お紺の方を見る。
「お紺さん、済みません、ご心配をおかけして・・。」
「あ、いえ・・、意識が戻りよかったです。」
「ゴホン! これ、まだ儂の診たてが終わっておらんぞ!」
「あ、すみません。」
「頭痛はどうじゃ?」
「頭痛? 頭痛って?」
「え、おい! お前は頭痛で倒れたのだぞ!」
医者の言葉に祐紀はポカンとした。
祐紀は頭痛なんてあったのかと考え始めた。
そしてハッとした。
「あ、そうでした頭痛がして・・」
祐紀は思い出し始めた。
「そうか、それで意識を失ったんだ。」
すこしずつ自分が倒れた状況を思い出す。
そして同時に御神託を受けたことと、その内容も思い出した。
急に押し黙り、何か考えこんだ祐紀を医者は怪訝そうな顔をして見ていた。
しばらくして医者は祐紀に問診を始めた。
「祐紀殿、今は頭痛はどうじゃ?」
「今は・・・頭痛はしていませんし、なんともありません。」
「吐き気とか、痛いところは?」
「ありません。」
「何か気に掛かるとか、違和感とかは?」
「ありません。」
「そうか、それでは少し仰向けで寝なさい。」
祐紀は医者の指示に従い仰向けに寝る。
医者は祐紀のお腹とか脇腹等を触り、痛くないかと聞く。
その度、痛くはないと祐紀は応えた。
「起きてよいぞ。」
その言葉に祐紀は上半身を起こす。
「問題はないようじゃな。」
「おい、祐紀は本当に大丈夫なのか?」
「ええ、御奉行様、問題ないでしょう。
頭痛により意識が飛んだことを忘れているだけでしょう。」
「そうか? しかしじゃ、本当に大丈夫なのだろうな?」
「しつこいですな御奉行様、儂の診たてを信じないとでも?」
「あ、いや、そうではないが、しかしだのう・・。」
「御奉行、まるで実の父親以上の心配ようで・・、少し落ち着いたらどうですかな?」
「え?! あ、そう、じゃな。」
「では、儂は帰りますぞ。」
「え? 薬は?」
「薬なんぞ必要はない。」
そう言うが早いか、医者は立ち上がりとっとと帰ってしまった。
「あの、藪医者め、引き留める間もないではないか!」
そう言うと佐伯は祐紀の方を向く。
「あの、御奉行さま、私なら、もう大丈夫です。」
「ふむ、ならばよいのだがのう・・。」
「それから、お紺さん、本当に心配をおかけしました。」
「あ、いえ、私など何もしておりません。」
「いえ、お紺さんの前で2度も倒れ、ご迷惑をおかけしてすみません。」
「・・・いえ、祐紀様が無事なら、それでいいのです。」
「ありがとう御座います、お紺さん。」
祐紀はお紺に頭を下げた。
そして祐紀は、佐伯に向き直り目を合わせた。
「佐伯様、お話したいことがあります。」
「うむ・・。」
「それでは私は席を暫く外しますね。」
「ありがとうございます、お紺さん。」
お紺は頭を一つ下げると部屋を出ていった。




