権禰宜見習いの来訪:その1
祐紀の神社に書状が届いた。
書状は青木村の庄屋からであった。
祐紀の養父でもあるこの神社の宮司は、この書状を見て訝しんだ。
纏めると以下の内容だった。
青木村に農民のため神社を建立したい。
ひいては権禰宜候補を差し向けるのでご指導ご鞭撻を賜りたい。
1週間後にそのもの達を差し向ける。
峠で祐紀と会ったことがある、これも何かのご縁かと思う。
青木村の宮司を祐紀殿の片手間でよいからお願いしたい。
体の良い願い状ではあるが、実質は有無を言わさぬ内容である。
確かに宮司よりは庄屋の方が偉いこともあるが・・。
仮にも国の神事を司る神社に対して無礼とも取れる。
「まあ、よいか・・礼儀作法や祭礼方法くらいは教えてやらんでもない。」
しかし、と思う。
仮にも神社の継嗣である祐紀に、青木村の神社の宮司になれだと?
一体何を考えているのだろう?
青木村の神社の宮司なら、別の神社の宮司に兼任してもらえばよい。
なのに、なぜここなのだ?
確かに、要請は見当違いではない。
ないが、普通は国の祭事を司る神社になど依頼はしない・・。
「まあ、よいか・・、祐紀以外については返事をしても。」
そう呟くと、宮司は返事を認めた。
内容は権禰宜教育は引き受けるが、祐紀は諸事情により引き受けないというものだ。
当たり障りの無い返事であった。
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青木村からの権禰宜の指導を賜りたいという二人がきた。
神主の衣装を着ての来社である。
対応は配下の権禰宜に任せていた。
宮司は社務所で事務処理を行っていた。
国の祭事を司るとなると、かなり多忙な身である。
一分一秒もおしい。
特に祐紀がいなくなってから仕事が増えている。
祐紀はかなり優秀で事務処理も、そつなく熟していたようだ。
そんな宮司に、青木村の権禰宜教育を任せた者が報告に来た。
「いかがした?」
「それが・・、その・・。」
「何じゃ?」
「教育は宮司様にお願いしたいと・・。」
「・・・。」
厚かましいにも程がある。
一瞬、そう思った。
しかし、青木村からの書状といい、権禰宜見習いといい、何か変だ。
どうにも引っかかる。
たしかに庄屋の力というのは侮れない。
このような要望があっても可笑しくはない。
実際、過去にもこのようなことはあった。
神社として繋がりを持ちたいとか、箔をつけたいとかの理由で。
だが・・。
何かがひっかかる。
「お前からみて、権禰宜候補をどう見た?」
「は?」
「お前が感じた感想だ。」
「え?」
「印象でよい、話せ。」
「はあ、まあなんというか村人とはいえないような・・。」
「どういう感じなのだ?」
「物腰は柔らかく、言葉使いも村人そのものですが・・。」
「はっきりと申せ。」
「なんといいますか・・、そう、すこし抑揚が・・。」
「違和感を感じるのか?」
「気になるほどではなく、断言できるほどではないのですが・・。」
「他には?」
「今まで見てきた権禰宜候補にしては、ちと体躯がしっかしてます。」
「ほう・・。」
「なんといいますか、神社の修行でできる体躯とは違います。」
「ふむ・・。」
「まあ、山仕事などしていたのかもしれませんが・・。」
宮司は腕を組んで考え始めた。
やはり、今までの権禰宜候補を託された様子とは違う気がする。
それに来た初日に宮司に、というのも早急過ぎる依頼だ。
教育課程で、教育係が自分の教える範囲を超えての要請ならわかる。
なぜ、そんなに急ぐ?
まあ、神社を早急に建立したいという現れかもしれない。
しかし・・、神社には神社のやり方がある。
それさえも知らないのか?
いや、そういえば青木村に神社が存在したことは無かったな。
可笑しくはないかもしれない。
だが・・。
何かが可笑しい。
申し出を無碍にしても問題はない。
しかし・・。
「分かった、会ってみよう。」
「では、ここに連れて来ますか?」
「いや、そうだな・・、今、滝修行をしている者はおるか?」
「いえ、今は誰もいません。」
「では、その者を滝まで連れて参れ。」
「え、いきなり滝修行ですか?」
「うむ、儂が根性をみてやろう。」
「かの者の荷物は、ここで預かり行かせますか?」
「まだ受け入れたわけではない。荷物を持ったまま来させよ。」
「わかりました。白装束は用意しますか?」
「いらんだろう、褌一丁でやらせればよい。」
「それでは、そのように。」
権禰宜はそういうと戻っていった。
「さて、久しぶりの滝修行じゃ、儂も着替えていくか・・。」
そういうと宮司は意味深な笑顔を浮かべた。




