青木村の庄屋
緋の国の家老から指示が出たのは今から3ヶ月程前のことだった。
御家老は陰の国の侵略を決めたようだ。
ただ、まだ具体的にどう戦争の発端を切り開くか決めかねていた。
他国からの批判を躱し、短期間で一気に攻め落としたいようだ。
儂としては陰の国が、見た目より簡単に領土にできるとは思えぬ。
あそこは確かに軍はさほど強くない。
力ずくなら簡単であろう。
しかし外交面は手強い。
寺社奉行が切れ者で、政策に関わっているという情報がある。
寺社奉行風情が政に首を突っ込むのか、と思ったが、どうも噂とはいいきれない。
陰の国は、一筋縄ではいかない気がする。
いずれにせよ儂が潜入すればわかることだ。
明日部下に指示を出すことにした。
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陰の国に部下数名を先行させ拠点造りに着手した。
1週間後、ある峠道から外れた場所に、手頃な洞窟を発見したと知らせを受けた。
優秀な部下だ。
その洞窟を利用していたマタギがいたようだが、排除をしたようだ。
これで部下もマタギ姿で山に入ろうが、洞窟を使用しようが怪しまれないだろう。
これで拠点ができた。
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陰の国の拠点に出向いた。
なかなか広くよい隠れ家だ。
陰の国の情報収集と攪乱の準備を開始する。
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青木村というよい場所を見つけた。
人口が少なく、噂の拡散を実験するにもよさそうだ。
庄屋は親戚もいないという。
なら、儂が庄屋になれば何かと都合がよい。
地方の庄屋ではあるが、この国の情報も役人から手に入れられるだろう。
もしかしたら、この庄屋には鷹狩りなどで、この国の殿や重鎮が訪れる可能性もある。
重役暗殺や、情報を聞き出せるかもしれない。
農民も困窮しており、庄屋になるのは金子でなんとかできるだろう。
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庄屋を排除した。
数日後に、行商人として計画を実行する。
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農民に儂が庄屋に恩があるという話しを信じ込ませた。
あとは金子をばらまくだけだ。
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農民への金子が功を奏した。
農民から庄屋になるよう懇願される。
計画通りだ。
あとは役人の対応だけとなる。
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この国の役人は、御しやすい。
簡単に庄屋になる許可が与えられた。
このような役人だらけなら、この国を乗っ取るのは楽だろう。
別の村に別働隊を送る。
この村は役人がいないので、ならずものとして部下を活動させた。
村人は、あっさりと暴力に屈した。
我が国の農民とはちがい、平和ボケしている国は簡単だ。
だが、都に放った寺社奉行の監視役の間者と連絡がつかない。
おそらく排除されたのだろう・・。
なるほど、噂通りで隙を見せない男のようだ。
もしかして、間者の元締めかもしれぬ。
とりあえず寺社奉行には近づかない方がよさそうだ。
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こちらに来て1ヶ月近く経った。
そろそろ噂を広める実験でも始めるか。
部下に行商人になりすますように指示して噂をながさせた。
あらかじめどういう場所の誰に話すかは検討済みだ。
さて、どう噂が広がるか楽しみだ。
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噂を広めて1ヶ月程経つ。
思った以上に噂が広がり、信じ始める民が出始めた。
成功だ。
この噂を広める方法は、これででよさそうに思える。
明日、峠の洞窟に主だった頭を集め確認と、今後の方針を立てる予定だ。
しかし、計画が順調すぎる。
平和ボケな国に感謝をしよう。
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まさか峠で拉致対象の祐紀と遭遇するとは思わなかった。
しかし彼奴は何故峠道を馬で来たのだろうか?
都に向かったようだが、この時期に例大祭のようなものはなかったはずだ。
しかも峠道で彼奴から話しかけてくるとは思わなんだ。
それにしても、のほほんとし警戒心のない若造だ。
皇帝が彼奴を欲しいと言っておったが、どうとでもできそうだ。
彼奴に庄屋であることを明かして、知己となれたのは僥倖だった。何か彼奴と接触するときに利用できるであろう。
それにしてもこの陰の国の民は扱いやすい。
この国の民をどう煽動すれば良いか悩んでいたが、何回かの模索で目処がたってしまった。
次は彼奴を拉致することも視野に入れるか・・・。
彼奴はこの国で知らん民はおらん。
どこに目撃者がおるかわからん。
つまり、この国で拉致したら足がつく可能性が高すぎる。
この国の中で拉致するのはまずいだろう。
緋の国の痕跡は残したくない。
そのような痕跡を残しての戦争は避けるべきであろう。
この国の軍が弱小なので戦争しても問題はないが、他国から緋の国が批判されるのは問題だ。
さて、では彼奴をどう対処するか・・。
他国で拉致をして我が国に亡命したと見せるか・・・。
これが一番他国が文句をいわんだろう。
それに拉致も楽であろうな・・。
しかし、彼奴が他国に行くことはなかろう。
戦争をして緋の国が勝てば、いやがうえでも祐紀は手に入る。
焦らんでもよいと思うが、皇帝が五月蠅いのが問題だ。
まあ、庄屋という形でこの国に拠点をもうけ、峠にもよい隠れ場所を見つけたことだ。
腰をすえて彼奴の拉致と、侵略をじっくり練るか・・。
このように庄屋は脳天気に考えていた。
そして重要な事を知らなかった。
まさか祐紀が、峠の山中で部下のマタギといるところを見られている事を。
そして峠で会ったその日に、自分を調べていた事を。
それがやがて自分にとって致命傷になることを知らず、祐紀を侮っていた。




