陽の国・神殿にて 3
神官は姫御子の反応を見ながら噂についてさらに話す。
その話す姿は、まるでカエルを見据えている蛇のように見えた。
「その噂は、噂とは思えない内容ですよ。」
そう言って神官は噂話とは思えない理由を説明した。
要約すると以下となる。
姫御子様は今まで倒れられたことなどない。
陰の国へは余裕を持って移動し、体調は良かった。
ならば姫御子様が公の場で倒れるはずがない。
なのに陰の国の、しかも各国の要人が集まる公の場で倒れた。
姫御子様が倒れたのは、陰の国の仕業ではないか?
姫御子様が倒れたのは、陰の国にすれば非礼にあたる。
それも《《成人の義》》という祝いの席でのことだ。
陰の国が陽の国に抗議をするには十分な理由だ。
陰の国が侮辱されたと抗議をするために仕組まれたのではないか?
陽の国の失態とし貶めるために。
そしてやり方次第で、姫御子様を失脚させることができる。
姫御子様が失脚したならば、一介の巫女となる。
一介の巫女ならば、陰の国につれていくのは雑作も無い。
薬でも使い姫御子に陽の国を出ると言わせるだけでよい。
国としても、たかが一介の巫女が出て行く事を止める事はできない。
「どうです? 噂とは思えないでしょう?」
「そのような事、有るわけがないでしょう!」
「あ、噂です、噂。」
「・・・」
「よくできた噂ですよね、姫御子様。」
神官は立ち話で噂話しをしているように話す。
それも口の端をあげて、さも楽しそうだ。
「誰が、そのような噂を?」
「さて、誰がとは?」
「貴方様なら、そのような噂を聞いたなら調べているのではないですか?」
「さて、噂など、どこから出たかなどわかる筈などありませんよ?」
「・・・」
「この噂、広がりつつありますよ、困ったものですね。」
「・・・」
「姫御子様のお耳に入れるのはどうしようかと迷いましたよ、私は。」
姫御子は神官のこの言い方に身構えた。
何が言いたい?
「この噂、利用する者が出るかもしれませんね。」
「・・・」
「陰の国を良く思っていない為政者や、神殿内の貴方様に対立する派閥にとっては良い噂ですね。
大変なことになかもしれませんけど?」
「そう・・かもしれません。」
「まあ噂ですから、放っておきますか、姫御子様?」
「いえ、よからぬ噂は消さないといけないかと・・。」
「そうですか?
噂の対処や、為政者と神殿の派閥への対策、姫御子様にできますか?」
「私一人では無理かと思います。」
私の言葉に神官の口の端が僅かに上がった。
「私が力になりましょうか?」
「え?」
「私が姫御子様のお力になると言っているのです。」
神官はそう言って笑顔を姫御子に向ける。
「私ならば噂を鎮め、神殿内の争いがないようにできますよ?」
「・・・」
「姫御子様が、一言、私に任せると仰って下さればいいだけです。」
「いいえ、それには及びません。」
「え!」
「私にできる範囲で対処をしてみます。」
「いや、しかし、すぐに対処する必要があるのでは?!」
「私もそう思います。」
「噂が広がれば広がる程、対処が難しくなりますよ!」
「ええ、確かにその通りかと。」
「ですから、私めが何とかして差し上げましょうと言っているのです!」
「ですから、それには及びません。」
「なっ!」
「然るべき部署にお願いいたすゆえ。」
「え?!
あ、いや、お役所では動きが遅く、何かあると大変です!」
「はて、何かとは何でしょう?」
「ですから、姫様の失脚を私は心配しているのです。」
「あら? 私の失脚ですか?」
「ええ、そうです!」
「陰の国は、私が倒れたことに抗議してきていないませんよ?」
「そ、それはそうですが・・」
「抗議もきていないのに、どうして私が失脚してしまうのですか?」
「あ、いや、陰の国から非難が来ないとはいえないでしょ?」
「いえ、来ませんよ、陰の国の祐紀様に問い合わせては如何ですか?」
「ぐっ!・・、しかし何か起きますよ!」
「あら? 何が起こるんですか?」
「うっ!・・」
「貴方様は、その何かをご存じなのですね?」
「・・」
「もし、ご存じなら・」
「あ、いえ、姫御子様を心配するあまりの言動です。
ご心配になるような事を言い申し訳ありません。」
「そうですか?」
「・・・はい。」
そういって、神官は睨んできた。
不敬ではあるが、問題にしては面倒に巻き込まれそうだ。
かといって、その目つきは姫御子に対して失礼である。
そこで、やんわりと諫めることにした。
「あの、どうかしましたか? 何か言いたいことでも?」
「ぐっ! あ、いえ、何でもありません。」
「そうですか?
他に、何かなければ私はそろそろ戻ろうと思います。」
「・・・」
「噂の対処を早急にせねばなりませぬゆえ。」
「・・・そうですね、お引き留めしてすみませんでした。」
「では、私はこれにて失礼します。」
そう言って姫御子は神殿を出て行った。
その後ろ姿を見送った神官は、固く握りしめた手を震わせていた。
「くそっ! あの小娘!
簡単に操れると思っていたが甘かったか!
こちらが下手にでればいい気になりおって!」
神官は青筋を立てながら悪態をさらし続ける。
それを女神像は静かに見下ろしていた。




