都についたのだが・・
祐紀は青木村を離れ、都を目指した。
都までは途中旅籠に計5泊ほど泊まり、緋の国の噂などを聞きながらのんびりと旅を楽しんだ。
そして、都には夕方に到着した。
ゆっくりと旅をしたとはいえ、初めての旅なので疲れていた。
都に着いたという安堵感もあったのだろうか・・。
旅籠を決めると、夕食もとらずにその日は寝てしまった。
翌朝のことである。
旅籠に祐紀を尋ねてきた者がいた。
祐紀は朝食を食べ終え部屋に戻っていたときに、宿の者から知らせが入った。
祐紀は首を捻り、はて、誰だろうと考えたが心当たりはない。
しかたなく、旅籠の玄関に行くと・・。
「祐紀様でいらっしゃいますか?」
「ええ、そうですが・・。」
「わたしは、寺社奉行所からの使いで参りました。」
「それはご苦労様です。」
「すみませぬが、ご同行願いますか?」
「私がですか?」
「はい。」
「・・・分かりました。直ぐに参ります。」
「それと、宿泊場所を変えていただきたいのです。」
「え?」
「よろしいですか?」
「はぁ・・、分かりました。」
祐紀は了承したが、何がなんだかわからないでいた。
わからないからと言って、さすがに寺社奉行の申し出を断るわけにはいかない。
とりあえず宿の者に精算をお願いしようと声をかけると、寺社奉行の使いの者がすでに精算をしてあるという。
さすがにそれはまずいと思い、自分が払うからと申し出るが、お奉行の指図ですのでと断られた。
なぜ、宿代まで払ってくれるのか訳がわからず、かといってそれで揉めるのも大人げないと考え、素直に礼をいい、荷物を取りに部屋にもどった。
旅籠の玄関まで戻ると、奉行所の使いは籠を呼んであった。
馬で来ていることを伝えると、すでに馬は奉行所で預かっているという。
呆然とする祐紀を、奉行所の使いは有無を言わさず籠に乗せた。
祐紀は腹を決め、とにかく寺社奉行所に行くことにした。
籠にゆられること小一時間、さすがに籠にはなれていないので少し気持ちわるい。
朝食を食べたあとでもあり、二度と籠になど乗りたくないと心の中で悪態をついた。
籠が止まり、籠の蓆があけられる。
目の前に閑静な門構えの邸宅があった。
寺社奉行所ではない?
疑問に思ったが、今更騒いでも始まらないと腹を括った。
草鞋を目の前におかれ、そそくさと草鞋を履いて籠から出る。
それを見届けた使いの者が、その邸宅内へと案内する。
一見地味な邸宅であるが、門といい、玄関までの庭石、生け垣から垣間見える庭園といい贅を尽くしている。
場違いな所に案内され、背筋にいやな汗をかいた。
いったい誰の邸宅で、なんで私がここに連れてこられたのだろうか?・・。
不安は残るが、来てしまったものはしかたない。
案内のままに部屋に通された。
どうやらこの邸宅は書院造りのようだ。
女中がお茶を運んできた。
祐紀はせっかく出されたのだからと、お茶を飲みながら開け放たれた障子から庭園を眺める。
いったいどのくらい贅の限りを尽くすと、このような別邸に住めるのだろう・・。
下世話な考えであるが、他にお金の使い方はなかったのだろうか・・と、ふと考えてしまった。
しばらくすると足音が聞こえてきた。
どうやら主が来たようだ。
このような家の主となるとかなりの身分なのだろうと平伏して待つ。
やがて主らしき者が部屋に入った気配があった。
「待たせたのう。」
老人と思われる温厚な声がかかる。
「これ、堅苦しい態度はせずともよい、世間話をしようぞ。」
そう声をかけられ、どうしたものかと思ったが、せっかくそう言ってくださるならと、面を上げた。
「ほう、良い面構えをしておるのう。」
「恐れ入ります。まだ成人したばかりですので礼儀を存じず失礼があればご容赦願います。」
「ふむ・・、なるほどのう・・。」
「?」
「そちのことは宮司からよく聞かされておる。」
「養父から・・・ですか?」
「ははははは、そう警戒するでない。」
「はぁ・・。」
祐紀は自分でも感じる程、間の抜けた声を出した。
「儂が誰かわかるか?」
「いえ・・、失礼ながら・・。」
「儂は寺社奉行をしておる。」
「え!! 佐伯様ですか!」
「ははははは、驚いたか。」
「あぅ・・。」
平伏しようとした祐紀を寺社奉行は止めた。
そして、祐紀に語りかける。
「よいよい、そう緊張するでない。」
「は、はい!」
「わしと、其方の養父とは竹馬の友のようなものよ。」
「?・・。」
「其方の養父がのう、お前が殿とのお目通りができんかと相談して参った。」
「・・。」
「で、その前に其方に逢うてみたかったのじゃよ。」
「それは殿様に害をなしたり、不敬を働く懸念からでしょうか?」
「ははははは、そのような事は考えておらん。」
「?」
「儂はな、其方の養父があまりにも其方を自慢するので、逢うてみたかっただけよ。」
「・・・・・。」
「それとな、腹を割って話そうではないか。」
「え?」
「其方の目的は何じゃ?」
「・・・。」
「あの狸、あ、これは悪い言い方じゃの、其方の養父、理由を言わなんだ。」
「え!」
「其方から聞けという短い手紙じゃ。」
「そ、それは失礼しました。」
慌てて平伏し謝ろうとする祐紀を寺社奉行は留める。
「これ、腹を割って話そうと言ったばかりではないか。
それに其方の養父とは竹馬の友でもある。
もちっと、そうよのう・・叔父のように儂と接しよ。」
「はぁ・・、そうは言われましても・・。」
「よいから、そうせい。」
「は・・あ・・。」
突然の寺社奉行との対面と、あまりに親戚じみた御奉行の接し方にとまどう祐紀であった。




