庄屋
祐紀は峠に留めた馬に辿り着くと、馬に乗りユックリと峠を下る。
馬を飛ばして庄屋らしき男の手前で止ったり、追い越してから声をかけて怪しまれないためにも、ゆっくり進む必要があった。
それに男の足といえども、馬の並足よりは遅いので、ゆっくり行っても追いつけるはずだ。
馬に乗ること小一時間、目的の庄屋姿の男に追いついた。
庄屋姿の男は、馬の蹄の音に気がつくと、道を空けるために端に寄る。
祐紀は庄屋姿の男に近づくと暢気な声で挨拶をした。
「今日は。」
庄屋姿の男は声をかけられるとは思わなかったのだろう、すこし驚いた気配がしたが、挨拶を返して寄越した。
「今日は。」
「旅のお方でないのに、こんな峠道を歩いてどうされましたか?」
「え?」
普通に考えても、こんな峠道を通るとしたら、行商人か旅人くらいなものだろう。
祐紀でなくても尋ねるであろう。
「何かありましたか?」
「いや、そういうわけではないのですが、さるお方が峠に忘れ物をしたというので見に参ったのですよ。」
「そうですか、それは大変でしたね。
それにしても、こんな峠まで見に来られるなんて大変ですね。」
「いえ、これもお勤めのようなものなのですよ。」
「お勤めですか?」
祐紀は首を傾げて、不思議そうな顔をする。
「ええ、私はこの先の青木村の庄屋なんですよ。」
「ああ、どうりで着ている物が違いますね。」
「まあ、見苦しい格好もできませんしね。」
やはり庄屋であったか。
それに、どこの者か分かったことに満足をした。
「それにしても、忘れ物を探しにいくとは大変ですね。」
「ええ、まあ、さる身分の方からの依頼でしたので。」
「そうですか、捜し物は見つかったのですか?」
「いえ、見つからないので帰る途中なんですよ。」
「そうですか・・、もし良かったら送って行きますが。」
「いえいえ、それには及びません。すこし歩きたいので。」
「そうですか、ではお先に。」
そう言うと祐紀は、またユックリと馬を進めた。
庄屋は、その後ろ姿を見送った。
祐紀は青木村につくと馬屋に馬を預けた。
青木村で庄屋のことをすこし調べることにした。
青木村に着いたのは昼頃であったので、昼飯を食べながらの調査にする。
青木村は湖のある村で、民家が30軒ほどの街道沿いにあった。
旅籠は1軒だけ、飯屋も1軒だけという寒村だった。
ただ、街道沿いでもあり大きな宿場を避けたい人や、旅程の関係で先に進めなくなった旅人もいるので、商売としてはそれなりに繁盛しているように見える。
一件しかない飯屋に入ってみた。
テーブルが6つ程あり、人でごった返していた。
相席をお願いし、行商人と思われる人と一緒に座る。
店の者に、適当に食事を頼んだ。
相席の行商人は注文した食事が出てくるまで、暇をもてあましているのか話しかけてくる。
「貴方はどちらまで?」
「私は都までいきます。」
「それはまた、大変ですね。」
「ええ、まぁ・・。貴方は?」
「私は、この先の楓村まで仕入れに行くんですよ。」
「そうですか・・、それにしても込んでますね、ここは。」
「ええ、何時もこんなもんですよ。」
「へ~・・、よく立ち寄るんですか?」
「そうですね、月1回は来てますね。」
「そうですか・・、この村、そんなに大きくないですよね。」
「まあ、30件くらいですから。」
「それに、見た限り貧富の差が見られないよい村のようですね。」
「ええ、庄屋のお陰で、この村は救われているんですよ。」
「ほう、それはまたどうして?」
「庄屋が村人に施しをしているからなんですよ、奇特な庄屋です。」
「へ~・・。」
「医者に貧乏でにかかれない人や、お米を買えない人に、利子もつけずにお金を貸したり、便宜をはかり、村人から神様みたいに崇められているんです。」
「それは凄い。」
「でしょう。 でも、不思議なんですよね。」
「何がですか?」
「よくお金が続くなと。」
「え、でも庄屋ですからお金持ちでしょ?」
「まあ、そうなんですけどね・・」
「何かあるんですか?」
「ここだけの話しなんですが・・。」
「ええ・・。」
「あの庄屋、ここの村の者じゃないんですよ。」
「?」
「前の庄屋一家は強盗に襲われ一家皆殺しにされたんです。」
「では、親戚ですか?」
「いや、庄屋に親戚はいないんですよ。」
「?」
「なんでも、庄屋に昔しお世話になった者で、行商で財をなした人らしいんです。」
「ほう・・。」
「庄屋一家が皆殺しにされ、村が途方にくれていると、その行商人が現れ、庄屋への恩返しだと行って奉行所に届け出て、庄屋になったんですよ。」
「よく奉行所が届け出をきいて便宜をはからいましたね。」
「まあ、そりゃあ、この村はあまり裕福でなく庄屋をできる者もいないし、袖の下をだせば奉行所もね、まあ、なにより庄屋がいないのも困りますしね。」
「なるほどね。」
そう話していると、昼飯が二人の前に運ばれてきた。
二人は話しをやめ食事にする。
食べ終わると行商人は、そそくさと出て行ってしまった。
「庄屋が強盗で殺されて、お世話になった行商人が都合よく現れるね~・・。」
そう祐紀は呟き飯屋を出た。
馬小屋に手間賃を払い、都へと向う。




