阿修羅・決闘とはな・・ 2
阿修羅は、応接セットの椅子に座り平静を装う。
内心は穏やかでは無い。
それというのも、予想外のちん入者が乱入してきたからだ。
ちん入者とは、帝釈天の御母堂、奪衣婆だ。
阿修羅にとって、奪衣婆は気さくに話し合える人である。
小さい頃、よく帝釈天の所に遊びに行っては悪さをして叱られていた。
言うなれば、第二の母親とも呼べる存在だ。
その人を前に、帝釈天の居場所を聞かねばならない。
場合により牛頭馬頭の件を知っている事を話さねばならないだろう。
それが問題なのだ。
おそらく閻魔大王と奪衣婆様は、牛頭馬頭の件を極秘で解決したいはずだ。
つまりは、帝釈天以外に知られたくないという事だ。
それを俺が知っていると話すのは不味い気がする。
帝釈天に言っておくべきだった。
奪衣婆様に牛頭馬頭の件を自分に話したと言っておけと。
だが、今更どうしようもない。
どうしたものか・・
平静を装いながら阿修羅は悩む。
そんな阿修羅に奪衣婆は話しかける。
「のう阿修羅よ、お前が此処に来たということは・・
帝釈天がお前に例の件を相談したのかえ?」
阿修羅はおもわず目を見開いた。
「やはりのう・・。」
閻魔も思わず声をあげる。
「阿修羅! 帝釈天はお前を頼ったのか!」
「まあ、頼ったというか、なんというか・・。」
閻魔大王は頭を抱えた。
よりによって情報組織のトップに近い阿修羅に相談しただと!
あのバカ!
いくら友人だとはいえ、これは不味い。
情報部がこれを知ったらどうなるか分からんとでもいうのか?
あの大馬鹿者めが!
次元転送に手を出した牛頭馬頭は大罪人だぞ!
これでは牛頭馬頭は処刑せざるをえなくなるでは無いか!
一方、奪衣婆はといえば微笑んだまま無言だった。
しばらく三人は互いに顔を見合わせて誰も話さなかった。
やがて徐に奪衣婆が口を開いた。
「まあ、あの子のことだから、貴方に話すかもと思っていました。」
「そうですか・・。」
「で、あの子の話しを聞いてどうされますか?」
「わかりません。」
「・・・・。」
「俺は彼奴を信じてます。
ですから、彼奴がやりたいようにさせます。
手伝うなと言っても、手伝います。
そして、俺はこの件について何も知りませんから安心して下さい。」
その言葉に奪衣婆は目を見開く。
そして見開いた目から、ポタリと滴が落ちた。
奪衣婆は羽織っている打ち掛けの袖で、そっと涙を隠す。
そして一言だけ言う。
「ありがとう・・。」
「いえ、彼奴と俺との仲です。
俺ができる範囲で強力します。」
このやり取りに、閻魔大王は口を挟まなかった。
だが、二人の会話が途切れると・・
「阿修羅よ、もしお前の上層部がこれを知ったら・・。」
「ええ、庇った自分は責任問題でしょうね。」
「将来を棒に振るか?」
「まあ、彼奴とならそれもいいかと。」
「そうか・・、済まん。」
そういうと閻魔大王は頭を下げた。
これに阿修羅は驚いた。
あの閻魔大王様が、俺に頭を下げる?
うそだろ?
・・・・。
いや、閻魔大王様らしいか・・。
正義感が強く、融通がきかず、情にもろい・・。
裁判の非情さ、威厳からは想像がつかない一面ではある。
この人は豪傑にみえて繊細なオッサンだ。
それを忘れていた。
そう思った時、阿修羅はハッとした。
そうだ、ここに来た目的を忘れる所だった、と。
姿勢を正して閻魔大王に質問した。
「閻魔大王様、帝釈天は今、どこに居ます?」
「彼奴は地獄界に行っているはずだ。」
「非合法で?」
「いや、彼奴のことだ、手順は踏んでいるだろう。」
「分かりました、では、私はこれで。」
その言葉に奪衣婆が声をかける。
「お茶は飲まんのか?」
「ええ、落ち着いたらまたお願いします。」
「そうか・・、では、楽しみにしていよう。」
「はい。」
阿修羅が席をたって部屋から出て行こうとした時だ。
閻魔大王が声をかける。
「儂等に牛頭馬頭のことは聞かんのか?」
「聞いてもいいのですか?」
「・・・・。」
「ふふふふふ、最初から聞くつもりはありませんよ。」
その阿修羅の答えに、閻魔大王と奪衣婆が頭を下げた。
「なっ! やめて下さい二人とも!」
だが二人は頭を下げたまま上げようとしない。
阿修羅はそれを見て、溜息を吐く。
かるく頭を下げ、そして何もいわずに部屋を出て行った。




