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阿修羅・決闘とはな・・・

 帝釈天(たいしゃくてん)牛頭馬頭(ごずめず)に会いに行く少し前のことだ。


 阿修羅(あしゅら)は部下から牛頭馬頭のさらなる調査結果を受け取った。

調査結果を見て、眉間(みけん)(しわ)を寄せる。


 「これは帝釈天に知らせるべきだな・・。」


 そう言って席を立ち上がりかけ、はたと気がついた。


 「彼奴(あいつ)・・今、何処にいる?」


 阿修羅は帝釈天と連携を取る事を約束した。

だが、どのように連絡するか決めていなかったのだ。

失念していた。


 だが、それは無理も無い。

今まで業務などで連絡を取り合うならば、互いの仕事場に行けばよかったからだ。

だから気にも留めなかった。


 それが、今回はそうはいかない。

帝釈天は奪衣婆(だつえば)閻魔(えんま)大王から仕事を受け、人間界に行ったことになっている。

つまり仕事場に顔を出すことは、まずない状態だ。

むしろ顔を出すほうが可笑(おか)しい。

さらに地獄界の牛頭馬頭(ごずめず)の件を閻魔大王から内密に頼まれている状態だ。

なおさら仕事場にいるはずもなく、連絡の取り方がわからない。


 だが、帝釈天の居場所なら分かるものがいる。

それは閻魔大王だ。


 阿修羅は溜息を吐く。


 「俺、あのオジサンは苦手なんだよな・・。」


 そう言って、()げかけた尻を ドスン!と、椅子(いす)に戻した。

天井を(あお)ぎ見て、独り言を呟く。


 「帝釈天よ、苦手なオジサンを相手にするんだ・・。

 高い物を(おご)らせるからな、覚悟しとけよ!」


 そう言って重い腰を上げ、閻魔大王の(もと)に向かった。


------------


 閻魔大王は一心不乱に決済書に印を押していた。

するとドアがノックされる。


 「入れ! 用件は手短にな!」


 目は書類から離さず、相手を見ないでドアの向こうに怒鳴る。

ドアが静かにあけられた。

そして、誰かが入室し閻魔大王の前に来た気配がした。


 だが、入って来た者は話そうとしない。

閻魔大王の正面に(たたず)んでいるだけだった。

閻魔大王は不審に思い顔を上げた。


 すると目の前に阿修羅(あしゅら)がいるではないか・・。

閻魔大王は驚いたことを隠し、冷静な声で疑問を投げかける。


 「阿修羅か? 珍しいな、どうした?」

 「今、帝釈天はどこに居ます?」

 「・・・・。」


 閻魔大王は阿修羅を見て、目を(すが)める。

阿修羅は閻魔大王の探るような目つきを無視する。

二人共押し黙った。


 この二人はあまり(なか)が良くない。

性格が似過(にす)ぎているせいかもしれない。

かといって喧嘩(けんか)をするわけでもない。

仕事で互いの領分を(わきま)えて衝突はするがそれだけだ。

権力争いとか、足の引っ張りあい、拳での語り合いなどはしない。


 するとまたドアがノックされた。

閻魔(えんま)大王は阿修羅(あしゅら)から視線をそらし、ドアを(にら)み付けた。


 「今、(いそが)しい、後にしろ!」


 そう声をかける。

だが、それを無視するかのようにドアが開いた。

現れたのは奪衣婆(だつえば)だった。


 奪衣婆は妖艶な美女だ。

日本の仏教絵画にある奪衣婆の絵とはまったく反する容姿だ。

怒りを隠した妖艶な笑顔は怖ろしい。

その笑顔で、ドアを開けたのだ。


 「閻魔大王様、忙しいのはわかります。

 ですが、(おど)すように怒鳴(どな)るとは(いただ)けませんね。」


 「うぐっ! 奪衣婆であったか!」

 「あら、私だといけませんか?」

 「い、いや・・、そういうわけではない・・。」


 地獄の裁判官として(おそ)れられる閻魔大王である。

その閻魔大王がタジタジとなる。

(はた)からみたら滑稽(こっけい)に見えるであろう。


 阿修羅(あしゅら)は、その様子を見て笑った。


   クックック・・・


 閻魔大王に配慮して声を殺した笑いだった。

閻魔大王は、苦虫をつぶしたような顔になる。


 奪衣婆(だつえば)は、阿修羅の笑い声にハッとした。

閻魔大王の怒鳴り声に怒り、阿修羅が目に入っていなかったようだ。


 「おや、これはこれは、阿修羅ではないか?」

 「奪衣婆様、お久しぶりです。」

 「ほんに・・、でも、珍しいのう・・。

 帝釈天もいないのに、閻魔大王様と(くつろ)ぐとは。」


 この言葉に閻魔大王は抗議をする。


 「誰が阿修羅と寛いでいる!」

 「おやおや、違うのですか?」

 「違う!」

 「あら、そうでしたか、では、お茶にしましょうね。」

 「な! 待て! 奪衣婆よ・」

 「何ですか?」


 奪衣婆は笑みをさらに深める。

閻魔大王は、その笑顔を見て目を()らせ押し黙った。


 「さあ、阿修羅も立っていないで、座りなさいな。」

 「はい。」


 奪衣婆と阿修羅は応接セットの椅子に向かい腰掛けた。

腰掛けると当時に、奪衣婆は閻魔大王にも声をかける。


 「閻魔大王様も、そこでふんぞり返っていないで、こちらに。」

 「奪衣婆よ、ここは儂の部屋じゃ、取り仕切るな。」

 「おや、いけませんか?」

 「いや、そういうわけではないが・・。」

 「では、こちらに。」

 「あ、ああ・・。」


 奪衣婆は連れてきた侍女にお茶の用意をさせる。

どうも最初から閻魔大王とお茶をする予定で来たようだ。

奪衣婆は、お茶を入れ終えた侍女を部屋から出した。

気を利かせて人払いをしたようだ。

侍女が部屋から出たのを確認すると、阿修羅に問いかける。


 「で、阿修羅、どうしたのです?」


 その問いかけに閻魔大王が待ったをかける。


 「奪衣婆よ、それは(わし)が聞くことじゃ。」

 「おや、いけませんでしたか?」

 「阿修羅は儂に用事で来たのじゃぞ?」

 「そうでございますか? 

 でも、聞いているように見えませんでしたけど?」

 「ぐっ! いや、聞こうとしてだな・・。」

 「聞こうとして?」

 「いや、聞こうとだな・・して、していたのだ!」

 「ならば、ちょうど良いではありませぬか?」

 「あ・・、ああ・・。」


 完全に仕切られる閻魔大王であった。

これが夫婦なら、尻にしかれている夫との長閑(のどか)な会話に聞こえなくはないだろう。


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