第六十四話 「更なる一歩」
「剣を…石で…!?」
ノートの持つ大剣は石に止められ動かない。
「石に消滅を付与させた。衝撃もダメージも、全てが消える。」
「なるほど、付与か!」
一度剣を戻し、振り返る遠心力で腹部を叩いた。
「…目に見えるようだな。そのスピード。」
言うなれば、白刃取りか。
彼は刀背を片手で受け止めていた。
だが、ノートの目が揺らぐ事はない。
「これだから良いんだ……この位置がな!」
剣を押し込む。
そして彼は放つ。
「最上・火炎!!」
「!」
剣先が火を噴く。
燃え上がる勢いのままに敵を吹き飛ばした。
反動で自身の体も浮き上がる。
「ッ!!」
服は焦げている。
壁にも打ち付けた。
だが想定通り意識がある。
「力では足りない…ならばッ…!!」
瞬間、彼の右目が碧く光る。
もう一方は紅く光る。
「『双竜』!!」
現れた双剣は光を置いて飛んで行く。
…
「……中々な火力が出るようになったな…!」
瓦礫からはい出て来た男が一言呟いた。
…
「だが、無意味だ。」
その一瞬、全てが揺らいで見えた。
彼が指を鳴らした、その一瞬。
ノートの体からは、何本もの血柱が立っていた。
「ッグァは…ッ!?」
何をされたかも認識できない。
体は重く、膝から崩れていく。
双剣は地に落ちて消えていく。
「なんだ…今の……何をした…ッ!?」
「さあね?お得意の観察したらいいじゃない。」
「ッ…」
射程距離、威力、弾けた順番、行動、理念…
考えるにはあまりにも情報量が少なすぎる。
「…だめだ何も思いつかない……!」
改めて思い知らされた。
彼の異端さを。
「とにかく…相手は前例の無い敵だ。そこをどうにかしなければ……
……
…いや待てよ。
消滅は政府に鎮静化されたんだよな…?
それってつまり、対抗策が…?」
「何をモタモタしてる?もう終わりか?」
敵は既に向かってきている。
「クソッ……やるしかない…!」
…
体が自由に動かない。
頭はグラつくよう。
足元も覚束ない。
「やるしかない…ッ!」
「?」
ノートは大剣を掲げた。
両手だけは力強く。
ただ光に満ちた目をしている。
現れた二本の劔。
その時、二本が混ざり合った。
二つの光が混ざり合い、紫に光る。
剣は少しばかり大きくなった。
ノートがふと手を差し出すと剣は手に収まった。
「…ほう、二刀流?」
「参の型『黒騎士』……ッ!!」
「新たな構え…か。」
「なァお前…」
「?」
「二刀流ってよォ…手数が重要なんだ…
手数って事は…何が重要だと思う?」
「速度か?」
「正解だ。」
瞬間、彼の姿が消えた。
目の前が暗くなる。
「次の時、顔を体が遮った。」
「ッ!?」
ノートの剣が敵の顔に斬りかかった。
…しかし致命傷ではない。
だが姿を現わす度、確実に一点に傷を付ける。
「面白い…」
両腕から漏れ出す紅色が流れていく。
「夕暮拳銃!」
彼の周りが無数の魔法陣に囲まれる。
「通常弾幕、展開だ。」
その瞬間、部屋は夕焼け色の弾丸に溢れた。




