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イデア  作者: 天汰唯寿
第4部 「終止符」
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第六十二話 「曲がるか進むか」

風を切る三発の弾丸。


その距離は10メートルもないと言うのに、ガルフィスは避けてみせた。



「落ちろ!!」


竜巻の如く回る重力の波。

彼の体は勢いをつけて地上へ流されていく。


「いや…これだから良いんだ。」



拳銃は火を吹いた。


弾切れの無い拳銃故に何発も発砲されていく。



螺旋状の檻。

八方などの次元ではない。


しかし次々と避けていく。



「めんどくせぇな…!!」


彼はコアを後ろポッケから取り出した。




「ちょっとは静かにしてろ。」


その弾は予兆なく放たれた。



「!」


クロブの頰から小さな黒煙があがる。


まるで何か、炎のようなものに焦がされた様に。





けれども彼の視線はガルフィスから外れない。



「あの銃…引き金どこだ…!?」


クロブは銃撃戦になった時、相手がいつトリガーを引くか観察していた。


だがあの銃にそんなものは無い。




乱れ飛ぶ銃弾。


一つ避けようとすれば、次の一つが掠める。



「偏差射撃も絶妙だ……アイツ銃のセンスもあるのか…!!」


「独り言をボヤいてる暇があるのか?」

「……!!」



下を見た。



地上まで残り数メートルも無い。






地の感触を味わった時、



クロブは地上を何メートルも転げた。









一面に広がる紅の跡。


ひび割れた地面に叩きつけられ、無傷ではいられない。



「…ハハ……中々使いようあるな…その能力…」


「なんだその言葉……油断させたいのか?それとも、それとも華々しく散りたいのか?」





「いや…どっちも違う。」


「いやウソだろう。」

「ホントさ。どんな戦いだって勝ち負けがある。この戦いだって、どちらかの敗北があって終わる。」」




「…それはあれか?…テツガク…ってやつか?」


「さあな。だが、敗北者は決まってる。」




「と言うと?」


「さっきも言っただろ。お前の死は確定的だ。」




「小賢しい。まだ言うか。」



途端にせり上がる地面。


歪な大地を形成しては、彼の死を飾っていく。




「何度だって言おう。お前の負けだ。」




浮き上がる大地。


無数のトゲとなって空を覆う。



右手に掲げた、トリガーの無い銃。





瞬く間に輝いた銃口に、彼の弾はクロブの足を貫いた。


「まだそんな口が叩けるか!?」




地に膝が着く。


1秒たりとも余裕は無い。




「…っ…」





彼は空を見た。




大地は目の前に迫ってきている。






「…もう、爆風は使えないな。」








彼の体は、浮島に押し潰された。



抉りあがる粉塵。


深みをます断層。




彼の声は、虫の声と共に消えていった。













「…運命は、ひっくり返してからが勝負だ。」





柔らかな風が流れた。


ガルフィスの隣を流れるその風。



舞い上がる粉塵を押すには弱い。




クロブに背を向け、彼はそのまま歩き出した。










「……?」


次に足を踏み込んだ時、彼は妙な感覚に陥った。




足が重たい。


それどころか、うまく歩けない。



全身に金属が纏わり付いているかのように。


「…これは…ッ…?!」














「…どうやら…それ以上は動けないらしいな。」



「ッ!!?」



土砂の上。

彼の羽織っていたコートが(なび)く。


紅が滲み出たシャツからは、どうして立っていられるのかも理解し難い。



彼は、クロブだった。




「キサマ…どうやって…!!」


「それが今お前が動けない理由(わけ)だ。」

「!」




続けて彼は言う。


「空間というのは、絶対的なモノだ。ありとあらゆる所に空間が存在する。


物体によって押し流されない限り動く事の無い、唯一不変のモノ。



お前はベクトルを狂わせると言った。ある時は重力さえも狂わせた。

だがもしその力が()()の空間ではなく、固体(・・)の空間にはたらいたとしたら?」



「…ッッが…!!」


「喋る事すら容易じゃないようだな。だか分かってるだろう。


力を受けた固体は流体に流される。

そして俺が先からやっていた事、それはつまり…





銃弾の周りに空気を固めて薄くコーティングし、その隙間にまた空気を入れたんだ。



これがクッションの代わりになる。

エアーバックみたいなモンさ。


だから受けた力はそのクッションで緩和され、結果的に何も起こってないように見える。」




「…か……ッ!!」


「更にもう一つ、俺は知っている。


お前の力を狂わせる能力…両目で対象を見なきゃ発動出来ないんだろ?」


「!!!」



「当たりらしいな。」


戦闘中に見つけた不自然な事。

ガルフィスの頭を掠めた弾丸は、確かに彼の視界にあった。



しかし、全くベクトルを狂わせようとはしなかった。


違和感だった。


彼なら避けるなどという面倒な手は使わない筈だ…と。




「ま、やる時は念のため何発も撃たせてもらうが

ね。」





この時、ガルフィスの手が微かに動いた。


痙攣(けいれん)などではない意思のある動きだ。




「最後までこんな使い方をしたくはなかった。

俺の美徳だったのに。」




クロブは銃を構えた。


「だが、これがお前の決めた道だ。」



拳銃が立て続けに六発放たれる。


頭、腕、足、心臓…全ての弱点を貫く為に。




「……馬鹿な野郎だ。」

「!」



ガルフィスは突然動き出した。


弾はするりとすり抜けていく。



「数秒前に、既に自由が効くようになっていた。

お前も相当疲れてきてるんじゃないか?…えぇ?


クロブ…!!!」



切り返しの一発。




迫る一撃。





彼にとって、正真正銘、最後の一撃。







「…俺がさっき撃ったのはただのマグナムだ。

これで十分だったんだ。」


「?」



「なぜ六発も撃ったと思う?

なぜ各部位に向かって撃ったと思う?」





地濡れの片目を押さえたまま、ガルフィスは振り返った。



「…跳弾……?……!!」




気付いた時には銃弾が皮膚を掠め取っていった。


銃弾の行く先は、





ガルフィスの放った弾丸だった。


「なにッ…!?」



コンマ数秒。

正確に弾の腹を仕留め、向きを捻じ曲げた。



鼻の前を通り、そして地面に落ちる。




「…空気のトランポリンだ。」




「ッ!!?」






血肉の柱が彼の体を突き破った。


心臓をめがけた五本の柱は、見事に貫いていた。




乱れ咲く紅色の傷跡。


深紅の花弁が垂れ落ちる。



反射的に吐いた紅。


消えていく意識。






彼は倒れた。



「……普通のマグナムを使った理由…それは、ハナっから跳弾を狙ってたって事だ。」




フラつき始めた足元。


徐々に意識が無くなっていく。



「…にしても……疲れるな…


だから使いたくないんだ……この能力……よ。」




目が痛んだ。


いつまでも続いた。





気付けば意識と共に痛みも消えていた。

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