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イデア  作者: 天汰唯寿
第4部 「終止符」
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第五十九話 「追い風」

レドの戦闘が終えた頃、ノートとクロブはノワール国にあと一歩という所まで来ていた。



「ノート、息あがってないか?」

「流石に…キツイわ…もうアラサーだっての。」

「アラサー?」

「その言葉も無いのか。」


両者首を傾げている。





さて、そんな事を駄弁っていればついに見覚えのある門が目の前まで来ていた。



前回ラスターが門を消し飛ばした為、最早その門はただの飾りになっている。




「…ハァ…ハ…足が辛い…」

「大丈夫か?まだ幹部だって残ってるだろ。」


半分本気の心配に、彼は笑ってみせた。

「それは分かってるんだが…な。」



急ぐ呼吸を落ち着かせ、深く空気を吸い込んだ。


その一息で(したた)り落ちる雫さえ(とど)めると、少しだけ目つきが穏やかになった。



「……よし、行くぞ。」

自然治癒(アリア)…か。気は抜くなよ。」


「おうよ。」






もうここまで来たならば、バレていない訳がない。

隠密行動などしても無意味だろう。


しっかりと周囲を見渡しながらも、歩幅は全く変えず、ゆっくりと歩いていく。









「お疲れ様だな。ノート、クロブ。」




瞬時にコアを変形させる。

一つは両手に、もう一つは右手に。


「第二の刺客はお前か。ガルフィス。」



男は階段上で悠然と立ち尽くしていた。


暗い風にその茶髪がゆらりと揺れ、それ以上の感性は語らせない。




「第二?…あぁなるほど。」


一瞬顔が曇ったが、レドが居ないのを確認しそう切り返した。




「アイリスには会わなかった訳か。」

「アイツも来てたのか。」


ノートの方もすぐに察した。







「天に昇った魂は二つだった。」

「それで?」



彼は空を見つめ、話し始めた。



「どちらも黒く霞んだ色をしていた。

たったそれまで不変の闇を持って戦っていたような、そんな色だった。」


「一つはベリック。もう一つは、アイリスか。」




目を閉ざし、冷えた指先。

ノートには感じ得ない、

得体の知れない感情が引き締められていた。



「……実際、もう私には分からない。」

「お前そんなキャラだっけ」


「ここであの人のシナリオ通りに動くのは申し分無い。


だが、俺は本当にこれで良かったのか、(たま)に不安になるんだ。」




ガルフィスの目線はただ一つ。

ノートを見つめていた。



彼もまた、言う。


「悪い選択肢なんか無いんだ。

どれもが成長になる。」


「随分な言いようだ。いつかソレが仇になると忠告したはずだが?」

「俺に失う物はない。もう失くすことは怖くない。

いつの日かお前が人知れず教えた事だ。」



「ならお前は、今から起こす行動が『無』になろうとも怖くないと?」

「俺の役目は『無』に一滴の『有』を足すだけだ。希望の『有』をな。」


「それは結構。」



彼は壊れた笑みで目を開き、銃を差し出した。





「……哲学者的だよなぁ。お前の言葉ってのは。

俺は外国語しか出来ないからさ。こういう学問は慣れないのよ。」



「慣れようとする気も無いだろ。お前には。」

「言うねえ。」






固く握られる大剣。

一滴の焦りが頰を流れ落ちていく。


緊張からか、唾さえ喉を通らない。




異常な緊張に気付いたクロブが、彼に言った。


「…ノート。お前は先に行け。」

「な…!?相手は遠距離が効かないんだぞ…!?」

「奴の狙いはそれだ。」

「?」


「こちらが有利な近距離タイプのお前を出すのは、得策に見える。

だが実際は違う。


ここでどれだけお前の体力を削るか。それがアイツらの考えなんだ。」


「なんでそんな事を?」


「俺とレドとお前では、お前が一番強いからだ。

一番強いヤツが弱れば、それほどオイシイ状況はあるまい?

有利な状況に立ったと思わせた後にひっくり返そうと、そう考えているんだ。」


「…だが……」

「相手は幹部。簡単に勝てる訳じゃない。

それに、さっきのベリックだってお前が戦ったじゃないか。」



「いけるのか?」


「ああ。」





「…死ぬなよ。」


「分かってる。」




最後にそう言い残し、ノートは走り出した。


「! 行かせるか!!」


レッドサイトを覗くが早いか、ガルフィスは弾を放った。


「疾風マグナム!!」


続けてクロブの拳銃も火を吹いた。




この時、数十メートル先にいたノートは感じた。


普通ではあり得ない、弾の回転による風を。



「これは…!?」


弾と弾が交わろうとしたその時。



ガルフィスの弾が大きく逸れた。


「風で捻じ曲げたか…?」

「弾は当たらせない。俺の拳銃はお前のより強い!」


彼の拳銃は、未だノートの(そば)を捉えていた。

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