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イデア  作者: 天汰唯寿
第4部 「終止符」
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第五十七話 「紅色の花」

「長期戦に持ち込んだ時点で負け確か。……やるしかない…!」


彼の体は勢いよく空中へ舞い上がった。


朽ちかけの壁を経て、更に高く跳ぶ。



「まずはお前だ!」


遠心力諸共、剣を回し切る。

しかし鋼鉄の(やいば)は刺さりもしない。



感覚だけで言えば、何者をも突き通さない金属に弾かれるようだった。


体表の衣が金属というのはあり得るだろうか?

だがそこに現実を加味してはいけない。



「なら熔けろ!炎・最上(フレイメスト)!!」


彼は剣を差し出す。

先端は赤く、そして白く燃え上がっていく。



一度差し出したそれを体まで寄せると、一気に炎を振り撒いた。


火球の横雨が降り注ぐ。



やはり焦げ目すら付かない。


「一体何の金属で出来てるんだ…!?」

「忘れちゃいけないよ。レド君。」

「!」



地上で寛いでいるアイリスが微笑う。


「アレは幻想。それが存在する物質で出来ているとは考えないコト。」


やはりそうか。

心中で彼はそう言った。



つまり、この怪物に弱点など無いのだ。


いくら斬ろうと、いくら魔術を撃ち込もうと、ダメージが入らないコーティングが施されているのだ。


「あ、あとね。気を付けた方が良いよ。


その子、牙を剥いた敵には容赦ないから。」

「…!!」


急いで視線を戻した頃には遅かった。

黒く燻んだ鉤爪が一瞬にして顔を横切る。

「ッ…!」

紅の花弁が飛び散るが早いか、風圧で住宅街に叩きつけられた。




「がッ…!!」

粉塵を吸い込み声が出ない。


だがどうにか頭を守り抜き、即死は免れた。



「右足が…動かない……!!」


機動力の大半が持っていかれた。


口の周りは花弁が付いて離れない。

唾を飲み込む度に不快な味が舌を取り巻いた。


「早く…起きなければ…」


どうにか動く腕を頼りに体を起こした。




目の前にあったのは、龍が飛ばした火球だった。

周辺の空間が曲がって見えた。


それどころか、不可解な引力に引き込まれている。


「!? 吸い込まれる!!」

力不足の片足では抗うことすらままならない。



そのまま空中に浮かされ、体の自由は効かない。






一瞬空気が止まった。




次の瞬間、光さえ巻き込んで大爆発を起こした。


宙返りも半ばで回転を止め、別の住宅地へと頭から突っ込んだ。



「ッぐ…が…!!」


右腕の感触が無い。

確かに付いているはずなのに無い。


そして何軒かの壁を突き破り、止まった。









その内、全身から暗い紫の煙が昇っているのを目にした。


なにかを焦がしたような、謂わば黒煙のような。


全体に咲いた花を愛でる余裕も無く、全身を確認した。



右足が黒く染まっている。

漆黒より深く、暗い色。


最早伝う雫さえ判別のしようがない。




「あーあ、もう死んじゃうの?」



散乱した瓦礫を砕き歩く音が近付いてくる。


虚ろな目ではそれを見ることも難しい。


「予想外だな〜。もっと歯応えあると思ったのに。」




完全に見下した目でレドの前に立った。


彼の体は一歩たりとも動かない。



背後からアサルトライフルを取り出すと、彼の頭に突き付けた。




「今、この銃の中の弾は幻で出来た弾。こうしちゃえばどうしようもないよね?」



トリガーに指を掛け、また嗤う。




「一度も攻撃当てられなかったのって、どんな気持ち?ねえ?」




彼の炎は、もう役目を果たしてはいない。




「…まあ……そうだな……」


魂の火種は、ごく小さな種火と化していた。









瞬間、彼の指先が火を吹いた。



それは微かにアイリスの頰を掠め取って焦がした。



「これで……完全勝利(パーフェクト)じゃ…無くなったな……」




実際、彼の顔は散り散りの花弁に塗れて表情を読み取るのすら危うい。



しかし、彼は確かに微笑んだのだ。




「あは、正気で言ってんの?」

「正気さ……まだ…俺の意識はあるじゃないか。」



「その状況から、どうやってひっくり返すの?」

「…俺は…科学者なんだ。……幾らでも…手立てはあるんだぜ……?」


「バカっぽ。生かしといたの間違いだったね。





消えて。」











無残に銃声が鳴り響いた。






風が体を突き抜けた。














彼女が銃を離した時、そこには奇怪な光景があった。














血飛沫どころか、弾さえ刺さっていないのだ。


頭に突き刺さる事なく、そこに静止しているのだ。





「!!!」


「だから…言っただろ。『幾らでもひっくり返しようはある』ってな…!!」








空で聞こえた残響音。


次に聞こえたのは、何か2つの物が地上に降り落ちる音だった。




アイリスはすぐさま空を見上げた。





予感は的中だった。



龍の両翼が切り落とされていた。


顔から尾にかけて何本もの切り傷が刻まれていた。





無残な死体は、一瞬にして意識を失ったように真下へと堕ちていった。


「一体何を…!?」



視線が前を向いた時。





レドは立っていた。


確かに彼の足で立っていた。



更によく観察するならば、彼の顔の色は全て元に戻っていた。

本来ある薄桃色の乗った顔に。



「なんで…もうそんな力残って…!!」

「残念だが…お前と俺とでは能力差がありすぎる。

特に、俺が今やってみせたような所だ。」





最終戦。

万全とは行かなくともレドは一歩ずつアイリスに詰め寄っていた。

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