第五十三話 「襲い来る闇」
「ノート!!」
道の方から誰かが呼んでいる。
声からするに、恐らくクロブだ。
もう敵は消えた。
ノートは心置きなく、その場を後にした。
…
「おぉ、倒したのか!」
ノートは頷く。
「ああ。だが、早く本拠地を叩かないと。」
「よし急ごう。」
行くべき道を見つめた。
しかしそこには数多の影がいた。
ネガモルトだ。
「…いけるか?」
少し捻って彼は言った。
「そうだな。頭に当たらなきゃ大丈夫だ。」
「ならターバンでも巻いておけ。」
内心では微笑していたが、顔は本気そのものになっていた。
ノートは走り出した。
驚異的な自己再生能力は、既に体を治し終えていたのだ。
「10数える間に全てぶった斬る!」
大剣を振り翳し、駆けていく。
「新技だ。弐の型『双竜』、三刀一式…!」
大きく一歩踏み込んで低空を飛ぶと、
大剣を腰に戻す。
それに反応して、背後の二本も構えられる。
一息に唱え、大剣を振り抜く。
「『鉤爪』!!」
上から叩きつけるような回転切り。
その刃は3本同時に下される。
まさにそれは狼の鉤爪。
一発だけで前衛の五体が吹っ飛んでいく。
間髪入れずソニックウェーブが飛ぶ。
地面ごと大量のネガモルトを引き裂いた。
しかし負けじと、後衛の怪物が奇声をあげて突進してきた。
「ノート!動くなよ!」
クロブの声が澄んで響く。
続いて三発の頭をも突き抜く音が轟く。
弾丸はノートの半歩隣を通過していく。
一瞬にして弾が突き刺さったかと思えば、
地を震わす致命的な一撃が、燃え盛る臭いと共に弾け飛んだ。
異臭と火に包まれた怪物達は、そのまま焼け焦がれていく。
「危うく森林火災だなこりゃ。」
「呑気言ってる場合か、早く行くぞ。」
彼らは勢い任せに駆け出していった。
……
…
少し行くと、森を抜けて草原へと出た。
透き通った爽やかな風が、体をなぞる。
適度に湿った汗を乾かすのには丁度良い。
もしあと澄んだ青空があったなら、これ以上に散歩日和な1日は無いだろう。
「この草原を突っ切るのか。気が遠くなりそうだ。」
「嫌だったらやめてもいいんだぞ?」
揶揄った顔で半ば本心な言葉を掛けた。
「そいつは御免だ。ここに戻って来た意味がなくなっちまう。」
「そんだけ言えるんだから大したモンだよ。お前は。」
そうかそうかと笑い合いつつ、現実を見つめた。
行く先を埋め尽くす大量のネガモルト。
これを無視して通るのは不可能だ。
「さてと、コイツら全員相手にするのか。」
「それしかないだろう。」
2人はコアを構えた。
向き合って一度頷くと、休ませていた足をまた動かし始めた。
だが、すぐに足は止まった。
いや正確には、止められただ。
突然、地面が震え始めたのだ。
「なんだ?思想界でも地震はあるのか?」
「ジシン…?なんだそりゃ。」
「ああ、無いのか。」
揺れの原因はすぐに判明した。
目の前に広がる草原から、一本の禍々しい柱がそびえ立った。
溢れ出る闇。
間欠泉を彷彿とさせる。
実際そんなに綺麗な物ではないが。
「ほぉ、思想界の温泉ってのは紫なのか。」
「な訳あるか。」
「ああ、温泉はあるのか。」
そんなくだらないコントをしていると、みるみる内に闇が地上へ溜まり始めた。
次第に形作られていく。
そしてそれは、2人の身長をとうに抜かしていた。
まだ肥大化していく。
不安定だった形が鮮明になってきた。
その姿には見覚えがあった。
「なあ、あれってさ。」
「あの海底神殿にいた…よな?」
色こそ違う。
だがパーツはそのものだ。
彼らの前には、かつて戦った龍が日の目を待ち侘びていた。




