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イデア  作者: 天汰唯寿
第4部 「終止符」
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第五十三話 「襲い来る闇」

「ノート!!」


道の方から誰かが呼んでいる。

声からするに、恐らくクロブだ。


もう敵は消えた。


ノートは心置きなく、その場を後にした。








「おぉ、倒したのか!」


ノートは頷く。


「ああ。だが、早く本拠地を叩かないと。」

「よし急ごう。」



行くべき道を見つめた。


しかしそこには数多の影がいた。

ネガモルトだ。



「…いけるか?」



少し捻って彼は言った。


「そうだな。頭に当たらなきゃ大丈夫だ。」

「ならターバンでも巻いておけ。」


内心では微笑していたが、顔は本気そのものになっていた。





ノートは走り出した。

驚異的な自己再生能力は、既に体を治し終えていたのだ。



「10数える間に全てぶった斬る!」


大剣を振り翳し、駆けていく。



「新技だ。弐の型『双竜』、三刀一式…!」




大きく一歩踏み込んで低空を飛ぶと、

大剣を腰に戻す。


それに反応して、背後の二本も構えられる。



一息に唱え、大剣を振り抜く。


「『鉤爪』!!」



上から叩きつけるような回転切り。

その刃は3本同時に下される。


まさにそれは狼の鉤爪。



一発だけで前衛の五体が吹っ飛んでいく。


間髪入れずソニックウェーブが飛ぶ。



地面ごと大量のネガモルトを引き裂いた。





しかし負けじと、後衛の怪物が奇声をあげて突進してきた。


「ノート!動くなよ!」


クロブの声が澄んで響く。



続いて三発の頭をも突き抜く音が轟く。


弾丸はノートの半歩隣を通過していく。




一瞬にして弾が突き刺さったかと思えば、

地を震わす致命的な一撃が、燃え盛る臭いと共に弾け飛んだ。



異臭と火に包まれた怪物達は、そのまま焼け焦がれていく。



「危うく森林火災だなこりゃ。」

「呑気言ってる場合か、早く行くぞ。」


彼らは勢い任せに駆け出していった。





……















少し行くと、森を抜けて草原へと出た。


透き通った爽やかな風が、体をなぞる。

適度に湿った汗を乾かすのには丁度良い。



もしあと澄んだ青空があったなら、これ以上に散歩日和な1日は無いだろう。


「この草原を突っ切るのか。気が遠くなりそうだ。」

「嫌だったらやめてもいいんだぞ?」


揶揄った顔で半ば本心な言葉を掛けた。


「そいつは御免だ。ここに戻って来た意味がなくなっちまう。」

「そんだけ言えるんだから大したモンだよ。お前は。」


そうかそうかと笑い合いつつ、現実を見つめた。




行く先を埋め尽くす大量のネガモルト。

これを無視して通るのは不可能だ。


「さてと、コイツら全員相手にするのか。」

「それしかないだろう。」


2人はコアを構えた。


向き合って一度頷くと、休ませていた足をまた動かし始めた。




だが、すぐに足は止まった。

いや正確には、止められただ。


突然、地面が震え始めたのだ。


「なんだ?思想界でも地震はあるのか?」

「ジシン…?なんだそりゃ。」

「ああ、無いのか。」



揺れの原因はすぐに判明した。


目の前に広がる草原から、一本の禍々しい柱がそびえ立った。


溢れ出る闇。

間欠泉を彷彿とさせる。


実際そんなに綺麗な物ではないが。



「ほぉ、思想界の温泉ってのは紫なのか。」

「な訳あるか。」

「ああ、温泉はあるのか。」



そんなくだらないコントをしていると、みるみる内に闇が地上へ溜まり始めた。


次第に形作られていく。



そしてそれは、2人の身長をとうに抜かしていた。

まだ肥大化していく。




不安定だった(かた)が鮮明になってきた。


その姿には見覚えがあった。





「なあ、あれってさ。」

「あの海底神殿にいた…よな?」



色こそ違う。

だがパーツはそのものだ。



彼らの前には、かつて戦った龍が日の目を待ち侘びていた。

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