第五十四話 「荒地」
「なんであの龍がここに!?」
「まあ…あれもネガモルトの一種とは言ってたからなぁ。」
クロブは顔色一つ変えず返答した。
思い出せばレドはその時の龍を『こんな龍はデータに無い』とも言っていた。
とすると、ゲリラ的に大物が出てきてもおかしくはないのだ。
「いやお前冷静すぎじゃない?」
叫くノートに、規格外の怪物はギロリ睨む。
抑えきれない闘志が炎となって漏れ出している。
狂気に満ちた眼。
正気はあるだろうか。
いや、おそらくない。
全身を青紫に迸らせて唸り声をあげる。
雄々しい翼をひとつ震わせ、そこに立っている。
「ノート、ちょっと叩いてきたらどうだ?」
「嫌だわ。お前の方が遠距離は得意だろうが。」
「お前だって炎(魔術)持ちじゃねえか。」
「いやそうなんだけどもな?」
そうこう言っていると、龍が近付いて来ている。
気を抜けば間違いなく食われる。
「いや来てるじゃねえか。どうすんだ?」
「だからお前が切ればいいんだろうよ。」
「俺は今から幹部狩りなんだよ。」
「俺だってそうだ。」
このまま言い合っていてもキリがない。
「…じゃあこうしよう。」
「「二人でやる。」」
「なんだ分かってるな。」
「お前こそな。」
この時はもう噛み付く一歩手前である。
異常な瞬発力が光る。
クロブは弾丸を龍の口に撃ち込んだ。
敵は思わず後退りする。
「火薬はよく味わってな。」
瞬間、日常では聞いたことの無い音が弾けた。
気付くと、肺から黒煙が立ち上っていた。
「お前のスピードには付いていける気がしないな。
装甲・火炎!」
大剣に炎が纏われる。
勇ましく燃え上がる炎は、草花の表面を炙った。
大地にめり込む一歩を出すと、彼は飛び上がり
「一式居合『獄炎鎌』!!」
脳天へ最高の一撃を繰り出した。
その剣は頭を叩き斬ると同時に花弁を焦がす。
火柱が肉体を軽く突き破る。
相手の意識をも消し飛ばし、薙ぎ倒す。
「俺の方が付いていける気がしないよ。」
彼らはいとも容易く敵を討伐した。
「……にしても呆気なかったな。」
「だな。」
いまだ疲れを見せない様子に、クロブは呆れ気味だ。
束の間の沈黙。
そのひと時が感情を鎮める。
ノートは口を開いた。
「なあクロブ。」
「どうした?」
「……俺は何か、嫌な予感がしてならない。」
クロブは何も言わなかった。
実際にそれを口にしたら、本当にそれが起きてしまいそうだった。
彼は頷いた。
キャンプファイアほど良い情景ではないが、それはなんとも絶妙な光景だった。
ここをあと1時間以内にレドが通らなければ、恐らく荒原が出来上がるだろう。
しかしそれは、今のところ大切ではない。
寧ろ、たった一人で兵士を率いて戦っている彼に心配を向けていた。
「…もし、アイツが来なかったらどうする?」
「そん時は盛大に笑ってやろう。
『締まり悪いじゃねえか』ってな。」
「そいつはいい案だ。」
渇ききった笑いは、跡形もなく飛んで行った。
そして彼らはまた一歩踏み出す。
最終目標に向かって。




