第五十二話 「逆転の一手」
ノートは大木にもたれかかって倒れている。
どうにか動こうとしてみるも、肝心の胴体が動かない。
こうしている間にも渦はどんどん近付いてくる。
「待てよ…考えろ…
さっき、渦はベリックさえ飲み込んでいった。
じゃあ今ヤツは何処にいる?
元の場所か?
それとも別の場所か?
あるいは……」
決断を済ませた頃には、もう目の前まで迫っていた。
「…渦の中心か。」
最高の力を込めて、力一杯にコアを投げつけた。
「届けッ…!空!!」
鉄と鉄が掠れ合い、不快な音が鳴り響く。
大剣は空を纏っているので、この攻撃は敵へ貫通する。
次々にダガーの動きを止めて、直線上に突っ切った。
「ッグ!!」
微かに人間の声が聞こえた。
すると取り巻きのコア達は、ノートに辿り着く一歩手前で崩れていった。
中から出てきたのは、ベリックだ。
つまるところ彼はコアの波に紛れて動いていたのだ。
これは攻撃においても防御においても有効な手段だったと言えよう。
「ま…俺の能力の前じゃ無意味だったな。」
この時既に体が少しずつ動くようになってきた。
ゆっくりと立ち上がり相手を見つめた。
一方、風も消え浮くことの出来なくなった相手は、数回転がって地に這いつくばった。。
吹き飛んだ花弁がそこら中に散らばっている。
「…ゥ…ハァ…」
残った力で体を起こし、声を振り絞って言う。
「なぜだ、ノート…何故俺の作戦を全部見抜いてくるんだ!?」
「さあな。お前がそこそこ単純なヤツだからじゃないか?」
ベリックの目付きが変わった。
体を震わせ、前反りのまま立ち上がる。
「俺はそこらの底辺な野郎とは違う!!
名高き医師なんだッ!!
テメェなんかより断然立場も上なんだよォッ!!
テメェにあぁだこうだと言われる筋合いは無えーーッッ!!!!」
既に正気ではない。
一心不乱に両手の指に挟んだダガーを振り撒く。
これまでにない顔と声。
掠れた罵声は遠く響く。
ダガーはノートへと突き刺さった。
そして空気に身を置いて倒れていく。
その影は揺らいで消えた。
「……やはりな。今のお前じゃ幻視だって見抜けない。」
「!!」
声の主はベリックの背後にいた。
そう。
本当の彼は既に背後を取っていた。
「お前はいつしか隙を見せると思っていた。
そして今、正気を失って最悪の手に出た。」
「……!」
右手に握られた大剣が光る。
踏みしめた足跡からは、もう怪我を感じさせなかった。
「さっきの行動、ちゃんとコピーしといたのか?してないのなら…」
大きく一歩を踏み込み、大剣を構える。
「お前はもう、負けたんだ。」
有無を言わせず、ひと思いに体を切り裂く。
「ッグァァーーッ!!」
肩から腰にかけて、長い傷痕をつけた。
だがそれだけでは終わらない。
大剣を腰に戻し、続けて放つ。
「……一式居合『死の鎌』!!」
一気に体を引き裂いて、十文字の傷を作り上げた。
血が滲んでシャツが染まっていく。
倒れたベリックは、何とも言わなかった。
次第に影は闇へと還元されていく。
空に舞い上がるように。
魂を象徴するように。
「悔やむなよ。これはお前が作り出した感情の代償なんだからな。」
倒れた影は、跡形もなく消え去っていった。




