第五十話 「狙撃手」
金属音が耳にさわる。
数え切れないダガーが、ノートを貫こうと動き出す。
速度が増す。
近付いてくる。
その中でも彼は冷静だった。
既に変形させておいたコアを振るって叫ぶ。
「反射!!」
大剣とダガーが擦れて火花が飛ぶと、次の時にはダガーの何本かが向きを変えた。
向かう先はベリックだ。
「それも考慮してある。」
「…!」
なんと、あろうことかダガーはベリックの両隣スレスレを抜けていったのだ。
「私は君の能力を全て把握している。
コアを振るわなければ発動出来ない事や
180°、もしくは90°しか反転させられない事…
とかな。
まあもっとも……
君に長考の余地など無いがね。」
先程ノートが弾いたのは前方の数本。
四方八方、まだ動き続ける煌びやかな影。
そこに冷静を保ったクロブの声が聞こえる。
「伏せろノート!爆風マグナム!!」
「は!?」
スロットルが回る。
発砲音と同時に弾が地に着き、
粉塵と刃物が淡く舞う。
絶妙なクロブの後方支援が炸裂した。
「それ一歩間違ったらフレンドリーファイヤだからな!?」
整っていたダガーが歪んで飛ぶ。
ノートは振り向きざま鮮やかに切りつける。
一瞬の小さな竜巻が起き、周りのダガーは鉄屑へと変わる。
「なるほど…そういえば君はタフだったな。」
「そうじゃなきゃ生きてらんないさ。」
そう言って、彼はコアを構える。
「…弐の型『双竜』」
闇を照らす二本の光が眩い輝きを放つ。
「本領発揮か?」
「まだ本気なんかじゃないさ。」
見栄を張るノート。
クロブはそっと彼に近付き耳打ちした。
「ノート。分かってるだろ?」
「あぁ。ここじゃあまりに部が悪すぎる。
どうにか森の外まで出る。」
「お前が頼れるヤツで良かった。」
互いに見合って動かない。
大剣を握りしめ、もう離さない。
鋭い目がより威嚇の姿勢を増す。
拳銃のスロットが回る。
先に仕掛けたのはノートだ。
一気にベリックまで踏み込む。
「そう来るしかないな。」
その声に反応するかのように黒い影が飛ぶ。
「緩い弾だな!」
数えられるだけで5本。
巧みな身のこなしで全て弾き返す。
「この程度か!」
勢いを付けたまま大きく斬りかかる。
狙いは充分。
確かに頭を打ち抜いたはずだ。
だが金属の掠れる音が響いた。
「な!?」
ベリックの手元には何か光るモノが見えた。
しっかりと大剣を受け止めていたのは、たった一本のダガーだ。
「なんだ…これが思想界人との能力差ってやつか…!」
「甘く見ないことだ。現実界の人間に負ける訳ないだろう?」
ベリックが思い切り振り払うと、ノートは後方へ吹き飛ばされた。
空中で体勢を立て直し着地する。
大剣を突き立て、更に安定させる。
しかしそれだけでは終わらない。
ふと地を見たノート。
急いで視線を戻すと、ベリックが既にこちらへ向かってきている。
「間に…合わない……!」
もう息切れを起こしている。
「消えろ。」
「そんな事はさせない!」
発砲音が鳴る。
「くどい!」
弾はダガーに弾かれた。
いや正確には、弾はダガーを押し退け飛んでいった。
「そいつはダミーだ。」
1弾目の影に隠れて2弾目が飛んでいたのだ。
射線上に障害物はない。
弾はベリックの右胸を射抜いた。
「うぐッ…!」
傷口から紅い花弁が散る。
そのまま地面に転げ落ちた。
そしてベリックは、ある異変に気付く。
「右腕が…うまく動かない!」
「さっきの弾は麻酔弾だ。名付けて『心酔マグナム』!」
マグナム型の弾に麻酔薬を入れた弾。
発射の衝撃で先端から薬が出るようになった所で傷口にそのまま入れ込むというものだ。
「なんならさっきの1弾目は『狙撃マグナム』って言ってな。
スナイパーライフルの弾を拳銃でも撃てるように加工したものなんだ。」
「厄介な弾ばっか持ってきやがる…」
「おいノート!忘れんなよ!俺もいるんだからな!」




