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イデア  作者: 天汰唯寿
第3部 「帰るべき場所」
42/70

第四十話 「盟友」

薄暗い曇り空。


徐々に冷え込む街の空気。


もうじき日は暮れる。


このままでは凍え死ぬか、餓死するかのどっちかだ。

「そうだ。あいつに頼んでみよう。」

「あいつ…って?」


「俺の親友さ。レスムって言うんだがな。」

「仲良い人なの?」


「ああ。まあ最近連絡取ってないんだけどな。」



スマホの電話帳からその名を探す。

無駄に長いページをスクロールしていく。



下から上に流れるそこに、その名を見つけた。


「出ると良いんだが…」






「はい。」


「もしもし、ノートだ。」

「おぉ!無事だったのか。

てっきり他の誰かが掛けてきたのかと思った。」


「そうだとしても、いきなりお前に掛けることはしないだろうな。」


「まぁな。それで、急にどうしたんだ?」


「訳あって、今警察に追われてるんだ。じきに自宅にも追っ手が来る。」


「それで匿ってくれと。」

「そういうことだ。」


「どうせアンタの事だ。冤罪かなんかなんだろ?」


「御名答。」


「いいだろう。僕の家は分かるか?」


「ここ数年、外に出てないんでね。ちょっと怪しいな。」




「なら、何処なら分かる?」

「俺の家の通りの近くの公園なら分かる。」

「『の』が多いな…まあ大体分かった、そこまで来てくれ。迎えに行く。」


「やっぱお前は頼りになる。」

「そりゃそうだろ。アンタが好んでこき使うような人間なんだからな。」


「笑えるな。それじゃ頼むよ。」

「はいよ。」



そこで電話を切った。


「よし、さっきの公園まで戻るぞ。」

「はーい。」






……










「さて…ここの筈だが。」


もう人はかなり減っていた。

見ている内にも次へ次へと帰っていく。



「まだ来てないの?」

「んー…」



「今着いたんだわ。」


後ろから声を掛けてきた男が居た。



声も外見も、もう変わっているが間違いない。

この男こそレスムだ。


「なんだ、案外元気そうだな?ノート。」

「まあ体は元気なんだがな。」



ふとレスムが目線を下にやった。


「ん?その子は?」


ノートの足に隠れていたダイラに気付いた。


「ダイラって言うんだ。迷子らしくてな。」

「警察に追われながら親探し、か。」

「なんなら俺は思想界に戻らなきゃいけない。」


「大忙しだなぁ。


ま、立ち話もあれだ。家に向かおう。」

「何分で着く?」


「1分もあれば着く。」

「そんなに近かったのか。」



……






「なるほどな。で、次の作戦は何かあるのか?」

「それが見つかってたら、ダイラの親も見つかってるっての。」



机を挟み、椅子に腰掛け話し合っている。


隣にはダイラ。


暖炉が程よく燃え盛る。



もし暇なら、このまま寝てしまいたい。


「…ちなみに、その子の本名は?」

「そういや聞いてなかったな。名前しか。」


「……スター・コルメス・ダイラ。」




……



「…ダイラ、お前。なんて言った?」


「今…確かにスターって…」



ここ現実界において、最初の名前は家系の名。

二番目の名前はその家の名。すなわち、引っ越しすればこの名前は変わる。

三番目の名前は自身の名という風に付けられる。



つまり、ダイラはスター家の人間であるのだ。




「いやいや待て待て待て、だったらこの子はどこのスター家なんだ!?」


「なら調べてみよう。コルメスと言ったな?」



机の端に置いてあったノートパソコンを開き、

ダイラの頭へと手を(かざ)す。


探索(リサーチ)。」


そしてその手でパソコンに触れた。



すると、電源も入っていないパソコンの画面に、ずらずらと文面が並ぶ。

これが彼のコアの力だ。



「俺のコアなら、この子の情報を抜き取るなんて訳ない事だ。」

「今…何したの?」


「レスムのコアは、あの指輪。

あれを付けて手を翳すだけで、その物やら人やらの『ありとあらゆる』情報を抜き出して記憶できる。

しかもその記憶した状態で指輪を誰かの頭に当てれば、その情報をインプット出来たりと、色々応用が効くんだ。」


「応用例の一つとして、パソコンといったモニターに情報を映し出すってのがある。

今やったのはそれさ。」



「…なんか、凄いんだね。」

「君だって充分凄いだろうよ。」



「さて…この子の住所は…?」


上から下まで、少女の情報がずらり並んでいる。

一つ一つ丁寧に目を通した。



「あった。これは最近できた街の住所か?」

「多分それだ。」


大当たり(ビンゴ)。じゃあ早い所送り出そう。」


「そうしたいんだが…」


「どうした。まだ何かあるのか?」





「このままでは、俺が思想界に戻れなくなる。」

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