第四十話 「盟友」
薄暗い曇り空。
徐々に冷え込む街の空気。
もうじき日は暮れる。
このままでは凍え死ぬか、餓死するかのどっちかだ。
「そうだ。あいつに頼んでみよう。」
「あいつ…って?」
「俺の親友さ。レスムって言うんだがな。」
「仲良い人なの?」
「ああ。まあ最近連絡取ってないんだけどな。」
スマホの電話帳からその名を探す。
無駄に長いページをスクロールしていく。
下から上に流れるそこに、その名を見つけた。
「出ると良いんだが…」
…
「はい。」
「もしもし、ノートだ。」
「おぉ!無事だったのか。
てっきり他の誰かが掛けてきたのかと思った。」
「そうだとしても、いきなりお前に掛けることはしないだろうな。」
「まぁな。それで、急にどうしたんだ?」
「訳あって、今警察に追われてるんだ。じきに自宅にも追っ手が来る。」
「それで匿ってくれと。」
「そういうことだ。」
「どうせアンタの事だ。冤罪かなんかなんだろ?」
「御名答。」
「いいだろう。僕の家は分かるか?」
「ここ数年、外に出てないんでね。ちょっと怪しいな。」
「なら、何処なら分かる?」
「俺の家の通りの近くの公園なら分かる。」
「『の』が多いな…まあ大体分かった、そこまで来てくれ。迎えに行く。」
「やっぱお前は頼りになる。」
「そりゃそうだろ。アンタが好んでこき使うような人間なんだからな。」
「笑えるな。それじゃ頼むよ。」
「はいよ。」
そこで電話を切った。
「よし、さっきの公園まで戻るぞ。」
「はーい。」
……
…
「さて…ここの筈だが。」
もう人はかなり減っていた。
見ている内にも次へ次へと帰っていく。
「まだ来てないの?」
「んー…」
「今着いたんだわ。」
後ろから声を掛けてきた男が居た。
声も外見も、もう変わっているが間違いない。
この男こそレスムだ。
「なんだ、案外元気そうだな?ノート。」
「まあ体は元気なんだがな。」
ふとレスムが目線を下にやった。
「ん?その子は?」
ノートの足に隠れていたダイラに気付いた。
「ダイラって言うんだ。迷子らしくてな。」
「警察に追われながら親探し、か。」
「なんなら俺は思想界に戻らなきゃいけない。」
「大忙しだなぁ。
ま、立ち話もあれだ。家に向かおう。」
「何分で着く?」
「1分もあれば着く。」
「そんなに近かったのか。」
……
…
「なるほどな。で、次の作戦は何かあるのか?」
「それが見つかってたら、ダイラの親も見つかってるっての。」
机を挟み、椅子に腰掛け話し合っている。
隣にはダイラ。
暖炉が程よく燃え盛る。
もし暇なら、このまま寝てしまいたい。
「…ちなみに、その子の本名は?」
「そういや聞いてなかったな。名前しか。」
「……スター・コルメス・ダイラ。」
……
「…ダイラ、お前。なんて言った?」
「今…確かにスターって…」
ここ現実界において、最初の名前は家系の名。
二番目の名前はその家の名。すなわち、引っ越しすればこの名前は変わる。
三番目の名前は自身の名という風に付けられる。
つまり、ダイラはスター家の人間であるのだ。
「いやいや待て待て待て、だったらこの子はどこのスター家なんだ!?」
「なら調べてみよう。コルメスと言ったな?」
机の端に置いてあったノートパソコンを開き、
ダイラの頭へと手を翳す。
「探索。」
そしてその手でパソコンに触れた。
すると、電源も入っていないパソコンの画面に、ずらずらと文面が並ぶ。
これが彼のコアの力だ。
「俺のコアなら、この子の情報を抜き取るなんて訳ない事だ。」
「今…何したの?」
「レスムのコアは、あの指輪。
あれを付けて手を翳すだけで、その物やら人やらの『ありとあらゆる』情報を抜き出して記憶できる。
しかもその記憶した状態で指輪を誰かの頭に当てれば、その情報をインプット出来たりと、色々応用が効くんだ。」
「応用例の一つとして、パソコンといったモニターに情報を映し出すってのがある。
今やったのはそれさ。」
「…なんか、凄いんだね。」
「君だって充分凄いだろうよ。」
「さて…この子の住所は…?」
上から下まで、少女の情報がずらり並んでいる。
一つ一つ丁寧に目を通した。
「あった。これは最近できた街の住所か?」
「多分それだ。」
「大当たり。じゃあ早い所送り出そう。」
「そうしたいんだが…」
「どうした。まだ何かあるのか?」
「このままでは、俺が思想界に戻れなくなる。」




